93 それぞれの戦い クマゴロー編
プギーが奮戦している頃、クマゴローとミカンはゴルザやキンコ達と合流して、村の正面以外から入り込んだエルフに対抗していた。
キンコは猛獣の、それも虎の獣人でもある。素早い動きから次々とエルフを組み倒していく。その力も強く、投げ飛ばすと呼吸もままならず悶絶していたエルフを、キンコの後をついていく衛兵が止めを刺す。
ゴルザも負けじとその恵まれた体格を生かし、肩から体当たりで飛ばしていく。その突進力は流石牛の獣人である。
クマゴローもその探知能力を生かし、死角からキンコやゴルザを狙うエルフを片っ端から片付けていく。
優勢になりつつあったが、クマゴローの動きが突然止まった。
『どうしたの~、クマゴロー?』
『この臭い……アイツだ!』
何かの臭いを感じ取ったクマゴローの目付きは、今まで以上に鋭く、そして殺気を孕んでいた。
『ミカン、ゴルザに伝えてくれ。オレはやらなければならないことが出来た、と』
『大丈夫なの~?』
クマゴローはミカンに無言の頷きで答えると、一目散に何処かへと走り出す。
(キンタロー、すまないな。こればっかりはオレが片を付ける!)
一人森の中へと入っていくクマゴローは、歯軋りをし眉間に皺がよるほど目付きが鋭く血走っていた。
◇◇◇
クマゴローの眼前に目標が見えた。そこには一人のエルフが。あれから十年近く……そのエルフは当時と同じ臭いと容姿をしていた。
忘れられない光景を作り出した張本人。クマゴローは一心不乱に走り、エルフに突撃していく。
「!!」
サイレントベアーらしくない、足音を立てまくりのクマゴローの突進に気づいたエルフは、身を躱して避ける。
奇しくも、このエルフの周りに他のエルフは探知出来ない。クマゴローが望みに望んだエルフとの一対一の対面となる。
エルフは、クマゴローに手を向けると描かれた魔法陣から無数の緑の刃を放つ。
『こんなもの、タネさえ知ってたら何でもないわぁ!!』
クマゴローは、向かってくる刃を森の木々を利用しながらエルフの周りを走り出す。刃は、木々を半分ほど切るが、その後消えていく。
そして、遠巻きに回り込むと、次はサイレントベアーらしく気配を断つ。ゆっくりと背後に近づき爪をギラつかせ大きく振りかぶる。が、ドンッと大きな音と共に地面から緑色の刃が現れた。
咄嗟に上体を反らしたが鼻先を掠めていく。再び後方へと逃げるクマゴローに、振り向いたエルフが魔法を飛ばしてくる。またしても木々の間を逃げながら走るクマゴローに対して、エルフが追いかけてくる。
クマゴローを見失わないようにする為か、執拗に追って来ては立ち止まり魔法を撃ってくる。一か八かで魔法の撃ち終わりを狙い、クマゴローは急ブレーキをかけ反転してエルフに突進していく。
タイミング的にはギリギリだったのだろう。エルフは魔法を撃たず茂みに入り、逃げ出し木の陰に隠れた。
クマゴローにはエルフの居場所はわかっている。対するエルフもサイレントベアーの事は知っているだろうし、もちろん居場所もバレているのも知っている。
クマゴローは、今までのエルフとは、その強さも賢さも群を抜いていると感じ、警戒を強めていく。父親もそして恐らく母親や兄妹もコイツに殺されたのだと、確信するのだった。
しばらく、睨み合いが続くと思われた矢先、クマゴローの耳に上から風切り音が届く。
『ヤバい!!』
クマゴローは上空を見る事なくその場を飛び退く。そのまま向かってくる刃を横に避けながら逃げ出す。
木の陰に隠れたエルフは、クマゴローの視界に入らない様に刃を木の陰に隠しながら、上空へと放ったのだろう。
逃げるクマゴローを再びエルフが視界から離さないように追いかけてくる。このままでは先程と同じ、じり貧だ。
クマゴローは、糸口がないかと十年前の光景と先程までの戦闘を思い出す。そして一つの事に気づく、それは正に糸口と言うには、あまりにも小さい。
賭けに出たクマゴローは、先程と同じ様に魔法の撃ち終わりを狙い反転し、エルフに向かう。
エルフは今度は逃げなかった。手をクマゴローに向け、ニヤリと薄気味悪く笑った。
今度はタイミングが悪かった、クマゴローの方が。ギリギリまで待ち放たれた刃を、クマゴローは、かすり傷を負いながらも躱す。が、躱した刃がクマゴローの背中から前に円を描くように囲み出すと、あっと言う間にクマゴローの身体を光の竜巻が覆いかくすのだった。