90 戦争は続く
「親父さん、無理をさせて悪い。大丈夫か?」
ここまでフル稼働で動いてきたノイルを心配してかキンタローが気にかけ声をかける。
「ぐははは、婿どのこそ大丈夫か? サンボールの事で心痛めたのでは?」
そんなキンタローの気遣いを一笑で吹き飛ばし、逆に心配する素振りを見せた。
「ああ。親父さんとの喧嘩に水を差した形になったからな。と言う訳で、向こうに行ったら謝っといてくれ」
「なんだ? ワシは竜人族だぞ。婿どのはワシより長生きするつもりか」
お互いに冗談を交えながらキタ村を目指す。そんな二人を見て、唯一クロウだけが冷やかな目で見ていた。
◇◇◇
すっかり夜も更けて、明るい月明かりに照らされながら街道上空を進んでいくキンタロー達。丁度ドワンゴ村へと通じる丁字路を過ぎた辺りで、クロウが森の中にある奇妙な灯りに気づく。
目を凝らし灯りの辺りで動く人影が見えた。一人二人ではない。その事をキンタローに伝えると、キンタローの目付きが鋭くなる。
「あの辺りには、妖精族の森があるが妖精族は火を使わない。そうなると……」
答えは限られる。そう言われる前に、意図を汲み取ったノイルはスピードを更に上げた。
ナギ村を通り、クロウの目にはキタ村が見えている。特に村に変わった様子は無いと聞き安心するが、突然キンタロー達の下の森で光の渦が見えた。
光の渦など魔法でしかない。そんな魔法を使うのはエルフだ。クロウに確認させると、エルフが複数と黒い巨体が争っているらしい。
黒い巨体。森の中、月明かりはあるとはいえ夜である事を考慮してエルフと争える存在。
間違いなく、サイレントベアーだ。しかし、クマゴローはキタ村を守っているはず。考えられるのは、キンタローと手を組んだサイレントベアー達。
「クロウ! このままキタ村まで行き、ゴルザに警戒するように伝えてくれ! オレはここから降りる」
「わかったっす」
キンタローは、争っている中心目掛けてノイルから飛び降りる。
「いででででっ!」
森の中へと飛び降りた為、枝などで擦り傷を作りながらも着地と同時に剣を抜き、エルフに飛びかかった。
無事着地したのを確認したクロウ達は急いでキタ村へと向かっていく。
◇◇◇
キタ村の門番があわただしくなる。門番の一人が帰ってきたノイルを発見した為だ。すぐにそれは、しまりす亭にいたゴルザと猛獣の獣人族が住んでいる元アニ村の女村長のキンコに伝えられた。
ノイルの着陸の為に街道が空けられる。ノイルは、その黒い巨体を滑り込むように着地させると同時に背中からクロウが飛び降りた。
ノイルはすぐさま飛び上がり、踵を返していく。
乗っているはずのキンタローが降りてこず、飛んでいくノイルを呆然と見ているゴルザの元にクロウが駆けてきた。
「ゴルザさん、緊急っす! エルフが攻めてきます。防衛と避難を知らせてください!」
どうもピンと来ていないゴルザに対して、脛を思いっきり蹴り上げた。
「イデェ!」
「しっかりするっす。今もキンタローさんが戦っているっすよ! 村を守りきれないとキンタローさんに遇わせる顔を失うっす!!」
戦っている? キンタローが? 今? 頭が追い付かないゴルザだが、クロウの目を見ると衛兵と門番に警戒するように伝える。
「ジャンにも伝えろ! キンコ、お前はアニ村に伝令を出したらそのまま避難の手伝いを!」
ゴルザが大きな声で指示を飛ばすと、衛兵達にも緊張感が走り、周りで様子を見ていた住人も周りに声をかけながら避難を始めた。
この場はゴルザに任せるとクロウは、キンタローの家へと走りだした。
◇◇◇
一方キンタローは、エルフ相手に剣を振り抜く。フラム達が作った剣の威力は凄まじく切れ味が良い。狙いは魔法を使うエルフだ。
『お前は、空を飛べるんだな』
『そんなわけあるか! ほら、喋ってる暇あったらエルフをぶっ倒せ!』
今、キンタローに背中合わせで協力して戦っているサイレントベアーが正直どのサイレントベアーなのかは、キンタローはわかっていない。そして、すぐそばには二頭の子供のサイレントベアー。
『今、ここにいる子供を含めた五頭だけか?』
『ああ、すまない。あんな大口叩いていてエルフに不覚を受けるとはな。エルフは初めは少数だったのだ。それが次から次へと。鬱陶しい限りだ』
『とりあえず詳しい話は後だ。くるぞ!』
キンタローとサイレントベアー達は、協力して戦っていく。しかし、キンタローが降りてすぐに倒したエルフ以外、魔法を使ってくる気配がない。それ故、本来エルフの天敵であるサイレントベアーにとって苦にはならない。
だが、倒しても倒しても数が減る様子がないのだ。
「婿どのぉ! 避けろぉ!」
暗い影が差したと思ったら、上空からノイルが勢い良く降りてくる。そのまま、エルフを踏み潰すと同時に尻尾を振り、弾き飛ばす。エルフを! そして、キンタローを!
「てめぇ! 何しやがるーーーーっ」
「す、すまぬ。婿どの……」
尻尾に当たった衝撃も、森の木々にぶつかった衝撃も平気だが、痛いものは痛い。
しかし、このノイルの行動が功を奏した。
キンタローが立ち上がった時、目の前の木の中からエルフが現れたのだ。まるで、妖精族の森のように。