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不運な少年は転生したら異世界初の人間でした  作者: 怪ジーン
第8章 エルフと死竜と魔王
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88 父と子②

 魔王に自分の剣を返してもらったキンタローとトーレスは、戦場の事後処理にあたる。シーダもトーレス達を手伝い、父タイナも犠牲となった遊撃部隊の遺体を回収しにいく。


 魔王は手持ちぶさただったが、トーレスに頼まれ怪我人に労りの言葉をかけに行った。


 犠牲となった魔人族の他に、エルフの遺体もキンタローは回収していく。ノイルとノイルの背に乗ったままのクロウは、辺りにまだエルフがいるかもしれないと、見張っていた。


 灯台もと暗し。


 それが起こったのは各々が動き戦場の事後処理が終えかけた頃だった。


 一番早めに気づいたのはキンタロー。


「魔王! トーレス! 逃げろ!!」


 キンタローは駆け出し魔王とトーレスが話をしている場所へ向かう。いくらキンタローが足腰強化のスキルで鍛えた健脚でも、距離がありすぎた。


 キンタローの第一声と共に気づいた人物が二人。

魔王に用事があり話掛けようとしたシーダと、同じく遊撃部隊の遺体を持ち帰ってきたばかりのタイナだった。


「シーダッ!!」

「はい!!」


 それはノイルの足元に積み重なったエルフの遺体の山の間。隙間から手を伸ばしたエルフをキンタローが発見したのだ。エルフの側にいたノイルやクロウは遠くを確認していて気づかなかった。


 キンタローも不覚だった。まずノイルに声をかけるべきだったのだ。エルフは足元にいる。もしかしたら間に合ったかもしれない。


 トーレスと魔王に向かって緑色の刃状の魔法が迫ってくる。

誰もが、当たる!! と思った瞬間、その場所にいたのはトーレスと魔王ではなく、横っ飛びでトーレスを突飛ばしたシーダと、同じく横っ飛びで魔王にタックルを咬ましたタイナだった。


 キンタロー、トーレスそして魔王の目に飛び込んだのは、緑色の刃状の魔法がシーダとタイナの体を二つに切り裂いた瞬間だった。


「くっ!! 親父さん! 下だ! 足元のエルフの山を踏み潰せ!!」


 時はすでに遅し。だが、キンタローは我慢出来ずに、ノイルに命令した。


 ノイルもようやく事態を呑み込み、エルフの遺体の山を踏みつけた。


「父上! 兄上!!」


 それは、誰が見ても助からない。二人は既に虫の息だった。


「ぐぅっ…………し、シーダ。よ、良くやっ……た」


 喋るのも限界に近い状態のタイナは、シーダを褒めてやる。


「兄上! どうして!? どうして、僕なんかを!?」


 父が魔王を庇うのはわかる。しかし、トーレスは何故兄が自分を庇うのかわからなかった。


「お、お前は……こ……れから、ひ、必要な……のだ。ち、父上、すい……ませ…………ん。さ、先に……」


 シーダは、最期に大量の血を吐き亡くなる。トーレスは兄の遺体を抱き泣きに泣いた。すぐに父の元に行きたい、しかし頭ではわかっていても体がそれを拒否していた。


「おっさん……ありがとう」


 タイナの側に駆けつけたキンタローが、そうタイナに言ったのは、これからの復興に必要な魔王とトーレスを、二人が守ってくれてのありがとうだった。


 一見無情にも周りは感じるだろう。しかし、これからの魔人族の為に必要な人物を守った相手に対して敬意を表しての礼なのだ。


 タイナの命の炎が尽きかけようとしている。キンタローは、タイナのすぐ側に座り込む。


「おっさん、これが何かわかるか?」


 そう言って取り出したのは、キンタローの持つナイフ。以前にトーレスに見せた時、トーレスの様子がおかしかった為に気になってはいた。


「そ、それ……は! は……はは、さ、最期の……最期で……く、くく……皮……肉な……う、運命よ……」

「おい、おっさん! トーレス!!」


 キンタローの声に気付き、這うようにタイナの元にやってくる。しかし、トーレスが着いた時には、もう息がなかった。


 声にならない声で泣くトーレス。

その姿に周りは声をかけることさえ出来なかった。


◇◇◇


 トーレスが落ち着きを取り戻し、すぐに働き始めようとするが、キンタローは止めた。


 キンタロー自身もイズーリアに来て、親兄弟を亡くしている。トーレスの気持ちは痛いほどわかるのだ。親兄弟を亡くした事を考えたくなく、動き続けたい気持ちもわかっていたが、これから忙しくなる、今は休むようにと伝えた。


 ある程度、片がついたキンタローは、トーレスに自分のナイフを見せながら、タイナの最期の言葉を伝える。キンタローにはタイナの言った意味がわからなかったからだ。


 タイナとの最期のやり取りを聞いたトーレスは、ゆっくりその意味をキンタローに話をした。


 自分が幼い頃、大好きだった母親からそのナイフと同じものを見せられたのだと。その時母親は、このナイフは自分がタイナから結婚するときに貰ったと聞いた。


 トーレスの話は途中だったが、十分だった。


 トーレスの母親が大切にしていたナイフと同じもののナイフを持っていた魔人族の女性は、赤ん坊のキンタローを抱いていた。


 このナイフは、ライザ=ラウザの逸品で、その真偽はフラムやライザ=ラウザマニアのアレンによって本物だと断定されている。

 そして、ナイフに施されている紋様。トーレスは母親に見せて貰ったナイフにも同じものがあったという。


 そしてトーレスは最後に決定的な話をする。


「母上は、弟を産んですぐに弟と共にいなくなりました。その弟は魔人族の特徴である角がなく、黒髪の赤ん坊でした」


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