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不運な少年は転生したら異世界初の人間でした  作者: 怪ジーン
第8章 エルフと死竜と魔王
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86 それぞれの戦い②

 トーレスは先ずは魔法を使うエルフの数を把握するべきだと考えた。


 しかし、相手は森の中におり、かといって何か特徴が有るわけでもない。現状では無理だと判断する。唯一救いなのは、キンタローから聞いた話から、魔法を使うエルフが少ないこと。


 トーレスは、兵士や村人にエルフが魔法を使った所を目撃した人の話を聞く。風を起こしたり火を放ったりと、単体攻撃の魔法のしか話が出てこない。トーレスにとって一番厄介な全体的に攻撃する魔法の話が出てこない。


「トーレス、策は決まったのか?」

「父上」


 タイナの言葉に首を横に振るトーレス。策は無くもない。しかし、それは多数の死傷者を出す恐れがあり決断出来ずにいた。


 そして、それには戦闘に長けた父に頼む必要がある。トーレスとは言え、それは決断しにくい。しかし、タイナは息子からの気遣いに気づいており、背中を叩いて後押ししてやる。


「父上……」


 トーレスは父の後押しを受け、部隊を急いで編成する。


「父上には魔法に長けた魔人族十人で、遊撃に回って貰います。狙いは魔法を使うエルフです。僕が直接率いた本隊を囮にします。父上の方にも、本隊の方にも犠牲者が出るでしょう」

「魔法を使ったエルフを見つけ、各個撃破と言うことか」

「はい。見つけたら最低二人一組になって対峙して下さい。相手は一人を狙うので精一杯なはずです。お互いにフォローしあえば、ただのエルフと変わりません」


 新たに編成した本隊に作戦を伝えると、ざわつきが起こる。犠牲者がでる、それはもしかしたら自分かもしれない。しかし、自分達の土地を守らなければとの矜持もある。そんな本隊の表情を見抜いたトーレスは、上空を指す。その先にはキンタローを乗せたノイルと死竜が争っているのが見える。


「今、キタ村の村長であるキンタローさんが、見知らぬ我々の為に命を賭けて戦ってくれています。我々魔人族は、この土地をずっと守ってきたのです! いいのですか? 彼にだけ任せて。今こそ、我々が一丸となり戦う時じゃないですか!!」


 トーレスは高らかに演説をし、右の拳を上へと突き上げると、部隊全体も同じように拳を突き上げざわつきが歓声へと変わった。


 そして、トーレスは先頭に立ち部隊を率いて出発する。更に森に入るとタイナの率いた遊撃が離脱し、森の奥へと入っていく。


 エルフの姿は見えないが、一本の矢が部隊の隙間の地面に突きささるのを合図に、トーレス率いる二百ほどの部隊とエルフとがぶつかった。


◇◇◇


 矢が降り注ぐなか、トーレスは部隊に指示しながら必死に首を振りエルフの姿を探す。探すのは弓矢を構えているエルフではなく、弓矢を構えていないエルフ。


「いました! あそこです!」


 指差す方向にトーレスの周りにいた兵が、魔法を放つ。エルフに直接当たらなかったものの、態勢は十分崩れエルフは、魔法を使うのを躊躇う。そこに少数の魔人族が襲いかかる。


 タイナ達の奇襲を受けたエルフは、散り散りに逃げ出すが、タイナ達が追うのは一人のエルフのみ。


「絶対逃がすな!」


 後ろから追ってくるタイナ達()()を気にしていたエルフは、前方から襲ってくる魔法に気づかず吹き飛ばされる。頭を振り立ち上がろうとするエルフの首にタイナの槍が入った。


「よし、戻るぞ!」


 再び森の奥に消えるタイナ達。一方トーレスには焦りが見え始める。部隊に死傷者が出たのだ。


 未だにエルフからの魔法は飛んで来ないのが、幸いだったが、遂に一人の兵が魔法により、惨たらしい遺体へと変わる。それを見た兵に怯えの表情が見とれた。


 一度萎縮してしまった部隊は、徐々にトーレスを中心にして小さく一塊になっていく。そこに1人のエルフが自分達に手を向けているのをトーレスは発見してしまう。


 トーレスは指示を出すが、周りに人が集まりすぎてちゃんと伝わらない。ずっとトーレスの側にいた一人の若い兵が気づき、魔法を放とうとするが、周りの兵が邪魔で間を抜けるように塊の先頭に出るが、遅い。エルフの方がどう見ても早かった。


 しかし、エルフからは魔法が飛んで来ず、そのエルフは前のめりに倒れると背中には一本の剣が刺さっていた。


「かかれ! って、魔王様は前に出ないで下さい!」 

 

 シーダが号令を放つと、我先に魔王が飛び出していく。魔王は先ほど倒れたエルフから剣を抜き、目の前にいたエルフに斬りかかる。


「兄上、この兵はいったい?」


 トーレスは、陣営にいる村人と魔王を守る為に百人ほど残していたのだが、その兵を連れてきた訳ではなさそうだ。


 シーダや魔王の連れてきた兵は軒並み(つの)が短い。大きさから中位魔族だとわかる。


「なぜ、中位魔族が?」

「この戦場を迂回するように私達がいた陣営に避難してきてな、お陰で上位魔族の兵を丸々残して駆けつけられたのだ。何より、魔王様の目が爛々と輝きだしてな、止められなかった」


 魔王は自慢の剣を振るいながら、高らかに笑っていた。

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