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9 金と熊と蜜柑


ネーミングセンスって、なんだろー?ってお話。


 八雲はリュックを兄弟の背中に置き、八雲自身も乗り、そのままリュックに顎を乗せ考える。


『名前ねぇ……名前、名前、うーん……』


 八雲は今まで名前など付けた事などない。

 名前を付けるなど、子供かペットかゲームくらいなものである。もちろん他にもあるだろうが、前の人生では、まだ17年しか生きていない。そんな経験など無かった。


『サイレントベアー……熊……くま……熊五郎!!』


『クマゴロー……』

『クマゴロー……なの……』


 どうやら、八雲にはネーミングセンスを持ち合わせていなかった。


『おお! いいな、それ!』

『カッコいいの~』


 訂正する。この場にいる全員が持ち合わせていなかった。


『次は、ワタシなの~~。かわいいのがいいの~』


 妖精は八雲の腕に抱きつきおねだりをする。


『木苺!』『却下なの!』


 八雲は、この妖精の事はほとんど知らない、適当に付けたら、食いぎみに却下された。


『木苺なんて、食べられちゃうの。却下なの、断固抗議なの!』


 別に、名前で食べないし……と、八雲は思いつつ、ジッと妖精を見る。オレンジ色の髪が目に入る。


『オレンジ……オレンジ……蜜柑!』


『ミカン……』

『ミカン……ミカンなの!』


 また食べ物なのに妖精は顔をパーッと明るくし、喜び八雲の周りを飛び回る。


(この世界に蜜柑は無いみたいだな。ま、喜んでるし内緒にしとくか……)


 八雲は気付かない。

 クマゴローとミカンを気安く名付けたことが、後々ちょっと厄介な事になることに。

 

『あとは、キミなの~』


 ミカンに促され八雲は困っている。

 まず、《八雲 恭二》は使えない。

 それ以前に前の人生を引きずりそうで、使いたくなかった。


 自分で自分の名前を付けるのも、こっ恥ずかしい話である。

 下手すれば、顔に手を当てて斜に構えそうな名前や、右目が……右目が……とか言いそうな名前になりそうで難しい。


 八雲は何かヒントになるようなものを探していると、川面にクマゴローに跨がる自分の姿が写っていた。


『まるで、金太郎だな……』八雲はボソッと呟いた。


 八雲は着ているのもマントだけで下は裸で熊に跨がる自分を見て、自虐的に呟いたのだけである。


『キンタロー……』

 え!?

『キンタロー……なの……』

 えぇっ!?


 八雲はイヤな予感がした。


『おお!いいな、それ!』

 え、ちょっと待っ……

『カッコいいの~』

 いや、だから……


 八雲は、慌てて訂正しようとするが、既にクマゴローとミカンは盛り上がっていた。


『クマゴローとキンタロー。なんか似てるし、兄弟っぽいよな!』

『すごくいいの~、とってもお似合いなの~。決定なの~』


 訂正出来る雰囲気ではなくなり、八雲……いやキンタローは肩を大きく落とし、しばらく立ち直れなかった。




◇◇◇

『で、この後どうするんだ?』


 クマゴローがキンタローに聞くと、まだ立ち直れないのか、クマゴローに乗ったままキンタローはこれからの事を話した。


『あ~~、うん、まずは妖精の長老ってのに会おうと思ってる』


 いつの間にか、リュックの中にいたミカンがひょっこり顔を出した。


『長老に会うの~?』


 キンタローはもともと唯一の知り合いのミカンに会って、以前物知りだといった長老に会わせてもらうつもりでいた。

 ミカンとここで出会ったのは、幸いだった。


『ミカン、長老と会わせてもらえるか?』

『全然問題ないの~、キンタローとミカンの仲なら会ってくれるの~』


 出発の準備を済ませ、ミカンが先行して案内しようとするが、キンタローがミカンを両手で掴んだ。


 『へやっ!』と変な声を出したミカンをキンタローは頭に乗せた。


(こいつ(ミカン)の案内だと絶対迷子になる。)


『湖でいいんだな?』

『へ、あ、うん。湖なの』


 突然の事でビックリしてるミカンの返事を聞き、改めて出発した。




◇◇◇

 キンタローは、湖に向かいながら考えをまとめていた。


 この世界の事、エルフの事、魔法の事、他の種族の事、そして《人間》の事。知りたい事は山ほどある。

 それに、敵を討つならクマゴローはともかく自分には武器がいる。

 武器を手に入れるならお金がいる。

 クマゴローと2人で討てないなら、仲間もいる。

 何より、自分はまだ小さい。

 正確な年齢はわからないが、見た目は5歳くらいだ。

 成長する必要があった。


 そして成長する迄、庇護してもらう必要があった。


 キンタローとクマゴローには、ミカンくらいしか見知った人はいない。


 断られたら、エルフに怯えながら森の中で暮らすか、何の知識もないまま森の外へ出るしかない。

 力も知識も無く生きていく難しさを、昨日味わったところだ。

 説得はクマゴローでは厳しい。

 今後が自分に懸かっていると、緊張していた。



 キンタローが考えをまとめてると、木々の間から湖が見え始めた。

いつも読んでくださりありがとうございます。

今話から八雲からキンタローに変わります。

名前が変わった事を知らないサフィエルなどは今後も八雲になります。


※誤字脱字などもご報告ください。

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