1 プロローグ
画像は本田なめし様に作って頂きました。
「いたっ!」
オレは、腹部に走る強烈な痛みで目を覚ますと、目の前には、見知らぬ1人の女性と2人の少女がいる。
よし、夢だ、寝よう。
オレがまた横になろうとすると、小学校低学年くらいの金色のボーイッシュな髪型の少女が腹を蹴ってきた。
「痛い!」
「なんで、この状況で寝んだよ。ありえねぇだろ」
少女がカンカンに怒っていると、20歳前半の女性が割り込んでくる。
「えーと、起きたみたいですし、自己紹介してもいいでしょうか? 私は女神アルメイダと申します。一応、この2人の上司になります」
女神アルメイダと名乗る女性は、金髪ストレートで腰辺りまである、誰が見ても綺麗な人だ。だけど、なんだろう神様というには、オーラがない。ただの普通の綺麗な女性に見える。
オレを蹴った少女と、もう1人少女も自己紹介を始めた。
「オレはサフィエル。一応コイツらの保護者だ。それで、こっちが──」
「アリエル。よろしく~」
しかし、こんな小さい子が、保護者とは。え? 保護者なの?
サフィエルと同い年位の、金髪ツインテールのアリエルは、全く無表情のまま動かない。
何なんだ、コイツら。
パンパンパン! アルメイダが手を叩き皆の視線を自分に集めさせる。
「それじゃ、ちゃっちゃとやりましょう」
なんじゃそら、全くわからん。
一般女性の自称女神は、残念な一般女性みたいだな。ここには、まともな奴いないのか?
なんて、しょうもないことを考えてると、アリエルが突然ファイティングポーズを取りだし、右フックがアルメイダのボディーに突き刺さった。
あー、あれは痛いわ。素人のオレでもわかる。
「説明忘れてる」
「す、すいません……サフィエルさん……あとは、よろしく……お願……」
アルメイダがくの字の格好のまま、動かなくなる。この人、何しに来たんだ?
「お前、自分が死んだの覚えてるか?」
サフィエルの言葉に促され、パーっと記憶が鮮明になる。
オレはどうなった? あ、そうだ! 横断歩道で女の人が車に轢かれそうなのが目に飛び込んで来て……そう思ったら、急に車が飛び込んで来たんだ、オレの方に向かって。
いや、あの動きはどう考えても、おかしいでしょ。
ほぼ直角に曲がって自分に当たるか?
突然サフィエルの顔が視界に映る。あ、結構かわいい……いや、そうじゃないな。
「思い出したみたいだな。あれは、うん、まあ、予定外でな。だから、お前を異世界に転生してやろうかと思ってな」
「なんか、随分歯切れ悪いな」
「気のせいだ。気にするな」
なんだろう? なんか隠してるっぽい。
オレが疑っていると、アリエルが何処からかスロット台を押して持ってくる。
「それじゃ、始めるか。このスロット《激甘くん》で、種族とスキルと行き先を決める。説明終わり」
「説明ってなんだろう?」
オレの言葉を無視して、突然レバーを引くとリールが回りだす。
合図もなしかよ!
オレが慌てて、ボタンを押しに行くと、何故かアリエルがオレの前に立ち塞がる。
「えーっと、何かよ──いてぇ!」
アリエルの右がオレのボディーに突き刺さる。しかも、一回じゃない。その体重移動から繰り出される、右、左の連続ボディー。
「いてっ! ちょ、待って──いたぁ! もうほんとなんなのこの子!」
オレの抗議を無視して、サフィエルが代わりに押して、レールが止まる。
「早くしろよ! 思わず押しちまったじゃねぇか!」
「いや、人の人生かかってるのに、勝手に押すなよ!」
止まったスロットが《人間》だったのを見てホッとする。
「ったく、人間だから良かったけど」
「お前だったら、ゴキでも引いてたかもな」
サフィエルがオレの肩をポンとたたく。くっ……正論過ぎて否定できねー。
「スキルは4つ押せ。頑張れ」
「何か、急に投げやりだな。それに説……」
「早くする」
いつの間にやら構えたまま、左右に体を揺らすアリエル。サフィエルはため息をつきながら、アリエルをオレから引き離す。
「楽しかったのに」
「あとでアルメイダに好きなだけやればいい」
「わかった。今は我慢」
物騒なこと言ってる。そういやアルメイダのことなど、すっかり忘れてたわ。
尺取り虫かな? うん、なんか全然動かないけれどアルメイダだわ。
サフィエルが戻ってきて、レバーを引いた。
「おーい、説明」
さっきから焦ってるのは、なんでだ? しかし、ゆっくりは出来ない。そんなことをしたら、尺取り虫行きだ。
《胃腸強化》── 口から胃腸に入るものならが何でも消化できる。お腹を壊さなくなる。一部の毒無効。
《衝撃耐性》── 衝撃に強くなり、ダメージを受けなくなる。但し痛みはある。
《足腰強化》── 足腰強化に成長補正がかかる。老後は安泰。ぎっくり腰無効。
《異界言語》── 異界の言葉を自分の習得済みの言葉に変換。自分の言葉を異界の言葉に変換。
サフィエルから説明を受けたオレは、微妙な顔をしているのだろう。
「良かったな! 人気スキル1位と2位じゃねぇか!」
「え? マジ?」
「おう! 年配にな!」
「え? マジ?」
◇◇◇
「最後は転生先を決めるだけですね」
突然、後ろから声をかけられて飛び退くと、そこには尺取り虫じゃなかったアルメイダがいた。
「何か、とても失礼な事考えていませんか?」
「キノセイデース」
「カタコト!? 」
◇◇◇
サフィエルが、最後のスロットのレバーを引き、オレはすぐにボタンを押す。
《イズーリア大陸》
「「「アー」」」
「わざとらしい。とりあえず説明を……」
その時、身体が光に包まれた。なんだ、なんだ?──!!
オレはその時見たんだ、この三人組がニヤッと笑うのを。
「あー、イズーリアに人間は、いないから気をつけろよ」
(は? なんだよ、それ?)
おかしい。声が出せない。身体も動かない。
「20年は、頑張って生きてくださいね」
え? なにか、そこそこ危険な感じするんですけど? スロット《激甘くん》じゃなかったの? しかし、考えてる最中も足元から身体が消えていく。
「迫害確定。がんばれー」
物凄くいい笑顔で手を振ってやがる。そうしてる内に身体はほとんど消えた。
だけど、残った頭のみで、オレは確かに聞いたんだ……
「バレて……ないよな?」
そうして、オレは─── 消えた。
◇◇◇
『不運』
オレは幼い頃、母親が父親と心中し、オレは孤独を覚えた。
施設に入ったものの、施設長による男女問わず子供に性的暴行したのが発覚し、施設は解散。オレは苦しみに耐えることを覚えた。
新しい施設のマザーは優しかったが、恩を返す前に首を吊った。オレは大切な人の死は、耐えられない痛みだと覚えた。
中学卒業後、就職し働いていた。しかし、住み込みの寮の火事を、出掛けてたオレのせいにした社長は、オレを疑いクビにした。
路上で生活をしていたオレに、火事を免れた同僚に、その時の火事は社長が犯人だと教えられた。
その帰り道だった──車に轢かれたのは。
オレの名前は八雲 恭二 享年17 度重なる『不運』に巻き込まれた人生だった。
読んで下さりありがとうございます。
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