(超短編)スマートホンをばらまいて
とあるどこかの国での話だ。
ある日、その国でとある一般人の男が人を殺した。スマートホンを壊されて、全てを失ったからだと男は話していた。
それを聞いた国王はとても悲しんだ。
「スマートホンとは人の全てなのか。」
それから国王はスマートホンを忌み嫌い、この国からスマートホンをすべて消し去ってしまおうと考えた。
やがて号令が下された。
「この国の人間は皆スマートホンを国王の許へ届けるべし。」
もちろんこれには賛成の者も、反対の者も沢山出たが、号令から一年後、ついに実行となった。
それでも届け出なかった者も沢山いたので捜査は難航を極めたが、号令開始から三年後、ようやくすべてのスマートホンが国王の許に集まった。
「皆海に捨て去ってしまえ!」
それから数百、数千ものヘリコプターが海の上空で待機した。機体の中にはスマートホンが溢れんばかりに敷き詰められていた。
国民は海岸に集合させられ、その様子をそれぞれの思惑の中、眺めていた。
「それでは始まります! 3! 2! 1!」
「GO!」一斉にヘリコプターは窓を開けた。
そこにはおびただしい数のスマートホンが上空から海へと落ちてていった。赤いもの、青いもの、大きめのもの、小さめのもの。様々なスマートホンが色を織りなし、まるで虹の川のごとく、流れを描いていた。
「綺麗・・・。」
国民はその光景をまじまじと眺めていた。写真を撮るものや、報道するものもいた。
それは一時間ほど続いた後、ついに最後のスマートホンが上空から落ちていった。最後に落ちたのは殺しを犯してしまった男の壊れたスマートホンだった。国王は悲しそうにそれを海へ放したのだった。スマートホンは海の中を漂いどこまでもどこまでも沈んでいった。
それから、スマートホンを失った国民達はどうなったのだろうか。
メディアによると、別段、犯罪が減ったわけでもなく、暴動が起きたわけでもなく、何も変わらぬ国民達の生活が続いているようだ。国民的にはスマートホンが無くなったからといって別にどうでもいいと気にしない者もいれば、なかにはいまだに海の中に潜って自分のスマートホンを探し続けている者もいるという。
ただ、変わったのは海である。地底に沈んだスマートホンの多種多様な輝きを放ち、日光を浴びると、黄金と虹色が合わさったようなきらびやかな輝きを放つようになっていた。これらを外国の者達は多いに評価した。
「僕たちの国でも同じ事をやろう」と言った国もあったようだ。実際に他に2か国が同じことを行ったという。
殺しを犯してしまった男はその後、罪を許され、出所したがその2週間後また違う誰かを殺して死刑になった。それを知った国王の感情を知る者は誰もいない。