第3話 動き出す物語(後編)
美里に連れられ、智は夜の東京の街を歩く...。バレンタインデーという事もあって、何か空気が和やかだ。
「今日は、智に行ってもらいたいところがあるんだっ♪」
「?」
智は美里に連れられ、また歩く。
「着いたよ...。」
「ここは...?!」
そこは電車の踏切だった。一年前の2月11日、忘れもしないあの悲惨な事故。智は学校帰りに見てしまったのだ。両親がここの踏切で電車に撥ねられるのを。。智は両親が何故はねられたのかを知らない。しかし、15歳という子供の心を病ませるには十分すぎる出来事だった。智はあの光景を思い出し、何か熱いものが腹からこみ上げて来るようだったが、それをぐっと堪えた。
「みさ姉、なんで...なんでだよ!今日は俺の誕生日だろ!?なんでこの場所なんだよ!!」
「ううん。誕生日だからよ。。あれを見て...。」
そこには両親の名前が綴られた慰霊碑があった。
「なにこれ...?」
智はそこにある石を知らない。何故なら、あれから1年間、一度もここへ来なかったからだ。
「智も今日で16歳でしょ!身体だけじゃなく、心も大人になったってこと、おじさんとおばさんに伝えなさい!」
「うん...」ポロッ
「そろそろ行こっか♪」
智が踏切の中間点に差し掛かろうとした時、踏切の警報機が鳴った。
「やばやば、急げ…」
その時、背筋にとてつもない悪寒が走った。
(体が動かない??)
「なに...これ、動けない...」
(やばい、電車が来る。このままじゃ2人とも...)
ドン!
「あ、」
美里が智を突き飛ばし、そして遮断機が智と美里の間に割り込む。足はまだ動かない。
「智..生きて...」
グワッシャーンン!!!
以前にも聞いたことのあるような効果音とともに、美里の姿が見えなくなり、ただあるのは電車の下にあるモノから吹き上げる血しぶきだけ...。
智は顔についた姉の血を舐める。。そして彼は完全に壊れてしまった。冬の夜に、救急車の音がなり響く。