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そばにいてくれてありがとう。  作者: けふまろ
9/31

第八話 友達、終了。

 リップクリームの事件から数日が経ったある日。

 事件は唐突に始まった。



「きゃあぁぁぁっ!!」


 事の発端は、朝の時間に突然発された衣織ちゃんの悲鳴だった。

 先生が来る十分前のこと。今は朝の九時半だった。


 皆は朝の準備も忘れて、衣織ちゃんの席に集まった。

 普段はこのクラスは平凡なもので、騒ぎが起こるとすぐさまお祭りムードになってしまう。

 特にふざけるのはお調子者の藤沢だけれど、今日は藤沢も「何事だ?」と衣織ちゃんの机に集まっている。

「うわっ、気持ち悪っ! 衣織、大丈夫か?」

 藤沢は、席を見た途端、そんな言葉を発した。

 衣織ちゃんは、毛嫌いしていた藤沢に寄り添って、恐怖に歪んだ表情をしていた。


 私も、覗いてみることにした。


「っ!!」


 衣織ちゃんの机の引き出しの中に、虫の死骸が詰まっていたからだ。


「っな、何コレ、気持ち悪い!」

 見に来た女の子も、どんどん衣織ちゃんの机を見ては青い顔をして去って行った。


「……な、何コレ、何でこんなものがここに置いてあるわけ?」

 衣織ちゃんは、何が起きているのか分からず、藤沢に支えられながらそんなことを言っている。

「落ち着けって衣織! いつものお前らしくもねぇよ」


 その時、藤沢がそんなことを言いながら虫の死骸を掴んで窓の外へ投げ捨てた。


 その雄姿を見ていたクラスの皆は「おぉっ」と叫んだ。

「やるじゃん藤沢!」

「見直したぜ」

「ガキだと思っていたけど、こんなカッコよかったんだねっ!」

 皆に褒められて、藤沢は「まぁな」とカッコつけている。……ただの偶然だろうに。


 その中で一人、涙を流して藤沢に感動している人がいた。

「!! 藤沢、ありがとう」

 衣織ちゃんだった。

 衣織ちゃんは、目をうるうるさせながら、藤沢にお礼を言った。

「べ、別に……」

 藤沢は、ちょっと頬を赤くさせながら照れくさそうにしている。


 やっぱり藤沢は衣織ちゃんのことが好きなんだなぁ。

 そう思った。

 これが別の女子だったら、例えばみくさんでもこんなことはしないだろうし、私は既に論外だ。

 

 藤沢は、衣織ちゃんのことを大切に思っているに違いない。


「でも、何であんなのがあったわけ?」

 藤沢は気を取り直して、真面目な顔でそんなことを言い始めた。


「何かの嫌がらせか? もしかして誰か、衣織に嫉妬してんのか?」

 ぐるっと教室全体を見渡す。でも、皆黙っているままだ。

「……黙ってんじゃねぇ! 正直に名乗り出てこないなら、一人ずつ事情聴取すっからな。覚悟してろよ」


 名乗り出る人なんて、一人も出ないに決まってる。そんなことをしたら藤沢に殴られることは一目瞭然だからだ。


 だから、藤沢の行動は無駄……。


「あ、あのさ」


 一人の子の声がする。


「あぁ!? 自分がやったって自白すんのか?」

 藤沢の大激怒の声。

 は? まさか名乗り出るつもりなの? 馬鹿なの?

 振り向く。


 その子は、みくさんだった。

 え、まさかみくさんが……?

 信じられない。だって、あの二人は幼稚園の頃からの親友なんだよ?



「昨日の放課後、真城さんが、虫の死骸を衣織さんの机に詰めてた……」



 えっ?


「はぁ? ……てめぇ、本当なのか真城」

 みくさんの言葉を真に受けて、藤沢は私を睨んできた。殺意がわき出ている。

 でも私は、そんなことをしていない。……何でって、せっかくできた友達をこんなに悲しませることなんてしたくないからだ。


「ち、違う! 私、してない……」


「言いがかりつけてんじゃねぇよ、てめぇがやったんだろ? 衣織に! こんなひでぇことさせて!」

「違うよ、私は何もしてないよ!? 全部みくさんの嘘だよ!」


「うるっせぇ、衣織が傷付けられてメチャクチャショック受けてんだよ! まさかお前だったなんてな」

 藤沢は、大激怒している。

 それも、私に。

 私は、被害者なのに。何もしてないのに。


「お前、衣織の友達なのに、そんな最低なことやってたんだな!」


「だから、違うよっ!」

「最低、クズ! 死ね!」


 藤沢は、私を突き飛ばした。

 棚に頭が当たって、「ゴン!」と鈍い音がした。


 その衝撃で、私は思わず俯いた。


「っ!!」


 リップクリームを投げられた時以上にショックを受けた。

 何でこんなことされるの?


 私、何か悪いことしたの?


 周りから突き刺さる、憎悪の視線が、痛い。

 何で、こんな目に……。


「ねぇ皆。……こいつ最低だよね?」

 藤沢は、大きな声でそう叫んだ。


「だよね。こいつ最低」

「衣織の机の中に虫入れるとか、どんな神経してんだよ」

「衣織ちゃん可哀想」

「最低ね、遥乃って」


 教室の中から、そんな声が響いてくる。

 最低、クズだろ。死ねよ。


 私がやったわけじゃないのに、何で……?

 私は、顔を上げた。


「あ。最低野郎がこっち向いた」

「こっち向かないで? (けが)れる~」


 皆は、私に向かって、悪口をどんどん投げつけてくる。


「……なん……で……?」


「そーだ、衣織からも何か言ってやって? 全然反省の色見せないし」

 突然、みくさんがそんなことを言った。

「そうだよ、被害者なんでしょ? 衣織ちゃん。だったら加害者に向かって何か言うべきだよ」

 みくさんの友達が、みくさんに乗っかるようにそう言った。


「……遥乃ちゃん」

 衣織ちゃんは、私に向かって、言い放った。


「衣織ちゃ……」

 私は衣織ちゃんが話しかけてくれることが嬉しくて、思わず浮かれた口調になってしまう。


「あんた、最低っっっっ!!」


 パンッ!!



 清々しい音が鳴り響いたと思うと、次の瞬間、私の右頬が焼けるように痛くなった。

 目の前には、目を真っ赤にさせて怒りに塗れた顔をしている衣織ちゃん。

 その周りには、私を睨みつける皆。

 その中でも藤沢は、一人だけ目立つくらい私を睨みつけていた。


「!!」


「最低、もう、遥乃ちゃんなんて、友達じゃないから!」


 !!


 苦しかった。

 痛かった。

 

 衣織ちゃんの声が、殴られた頬よりも、皆から突き刺さる憎悪の視線よりも痛かった。


 あぁ、ここには、私を助けてくれる人なんて一人もいないのかな……?


「……だってさ。残念だったな真城。まぁ、自分の自業自得なんだけどな。……虫入れるとか、人の気持ち考えたらどぉ?」


 藤沢は、腕を組んで、私に顔を近付けた。

「おい。聞いてんのか、最低人間」

「っ!!」


 藤沢は、組んでいた腕を外して、私の髪の毛を掴んだ。

「……こうやって、罪は償ってもらった方が良いんだって。……そうしたら、ちゃんと反省するって、兄ちゃん言ってたぁ……」

 ニタァ、と笑う藤沢。それは、まるで悪魔の笑顔のようだった。

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