第六話 それからの学校生活。
それから、私は、ちょっと困ったことになった。
どうやら平野君は、色々な習い事をしているらしい。塾やサッカー、英語、テニスなどなど。その中で、この学校の中でも、平野君に片思いしている女子は、十何人かいて、相当モテているらしい。
だから、何故平野君が私をかばったのか、皆は訳を知りたいのだ。
誰だって、恋敵の情報は入手したいものだ。
しかも、私と平野君は、習い事が一緒などの共通点がないので、更に女子の注目を集める羽目になった。
学年中の、片思いしている女子はもちろん、朝会の話を聞いて面白いと思った他の学年の男子も、わざわざ私に尋ねてきた。
とにかく、そんなことが休み時間中ずっと続いてしまったせいで、私はすっごく疲れた気分になってしまった。
放課後。
衣織ちゃんは塾があると言って、早めに帰った。
今日は一緒に帰る約束はしていないから、私も、早めに帰ることにした。
昇降口。下駄箱に、「真城」と書いてある上履きを入れて、靴を出す。
黒地に色鮮やかなライトのような装飾が施された、とっても可愛い靴。
「……ねぇ、遥乃」
ふと、後ろから誰かに呼び止められる。
振り返る。
そこに、みくさんと、昨日、図書館で衣織ちゃんと本を読んでいた女の子達ががいた。
「あ、みくさん。……さようなら」
私は、小さく会釈する。
いそいそと靴の中に足を入れようとしたときだった。
「いやいや、もっと他に何か言うことあるでしょ?」
「え?」
みくさんは、困っている私に向かって、笑いながら歩いてきた。
「え? じゃなくてね? 朝会の話。ずいぶんと平野晴樹に好かれてたじゃない? 私もさ、晴樹好きだから」
その新情報に、私は目を見開いた。
「何? 何でびっくりしてるわけ? もしかして、好かれてるからって、調子乗ってる?」
え?
「みく、超ウケる!」
あはは、とみくさんの隣にいる女の子が笑った。長い髪の毛をツインテールに結んでいる。
「確かに。超調子乗ってる。真城さん。イケメンにかばってもらって、恥ずかしいって顔しながら、本当は『かばってもらえた私って恋のヒロイン?』なんて、調子乗ってるんじゃない?」
今度は、ポニーテールの女の子が、笑いながら言った。ギャルっぽいと有名な子だ。
「……みくさ……」
「は? 気軽に呼ばないで? あんた晴樹のこと好きじゃないくせに、調子乗って。大勢の前でかばってもらって。
それで晴樹のことが好きな人、どれだけ心の中で遥乃に嫉妬したか分かる?」
分かるわけがない。……だって、本当に訳が分からなかったんだもの。
何でかばったのか。何で私なんかをかばったんだろう。
「……なのに、あんた晴樹が好きじゃないんだってね。……好きじゃないなら近寄んないでよ」
みくさんは、自分の顔を私の顔に近付けた。
そして、言う。
「正直言って、邪魔。……私と晴樹の間にいるべき存在じゃないの」
目の前が真っ暗になった。
みくさん達は、「ダッサ~」と言いながら靴を取り出した。
最後の力を振り絞って、言う。
「待って。……平野君のことは……。衣織ちゃんも、好きだって言ってたよ?」
その言葉に、みくさんは振り返った。
「衣織? 私、衣織のことは大切に思ってるよ? ちゃんと晴樹が好きって打ち明けてくれたから。
でもあんたは、あれでしょ? 晴樹が好きじゃないんでしょ?
晴樹があんたに片思いしてるって、あの瞬間、誰もが思ったよ? もしかしたらそうかもしれないって」
え?
驚いて、再度目を見開いた。
平野君が、私を好き……?
ううん、全然、そんなわけないじゃん。
だって、出会ってから話したことなんて二回ぐらいしかないのに。
そんな子、好きになるわけないじゃん。
「だってさ、自分が好きな人が、大人しい目立たない女子を好きになったなんて言ったら、誰だってその子に嫉妬しちゃうでしょ?」
それは、まぁ、考えてみればそうかもしれないけど、でも……。
「平野君の好きな子は、ぜ、絶対私じゃないから!」
思わず叫んだ。生暖かい風が、開け放たれた昇降口の扉から入ってくる。
「……へぇ。そーんなこと思ってるんだ? やっぱ、調子乗ってんじゃん?」
「きゃはははははっ!! みくったら超ウケる!」
みくさんは、友達と話しながら、校庭へと出た。
その日から私は、地獄に突き落とされた。