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そばにいてくれてありがとう。  作者: けふまろ
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第五話 突然の注目。

 平野君と再会し、衣織ちゃんと友達になった日曜日が過ぎ去り、私は悠矢と学校に向かった。

「悠矢。……最近ちょっと変じゃない?」


 私は悠矢に話しかけた。途端に、悠矢は「は?」と顔をしかめながら私の手を掴んだ。爪をグッとやられている。


「うっざ。気持ち悪いんだけど。何が最近ちょっと変だ? だよ。全然心配してねぇくせに」

「……!」


 やっぱり、最近ちょっと変だって。

 だって、前までは……両親が交通事故に遭うまでは、悠矢はもうちょっと優しかったし……。


「俺先に学校行ってるわ。目障りだから、ついてこないで」

 そう言って、悠矢はスタスタと歩き出した。


「悠矢……」


 私は悠矢の後ろ姿を見る。

 その後ろ姿は、小さかった。



「遥乃ちゃん!」

「あ、衣織ちゃん」


 学校に着くと、水色のランドセルを背負った衣織ちゃんがいた。

「今日、全校朝会、一緒に行こう? みくちゃんも!」

「うん!」

 衣織ちゃんは、隣に立っている女の子に微笑んだ。

 みくさんの本名は、松宮美玖(まつみやみく)という。

 ロングヘアーをお姫様のように編みこんでいて、少し強気な女の子。

 衣織ちゃんとは違うタイプの、モテる女の子だ。


 でも。

 衣織ちゃんは私と友達になってくれたけど、五年の頃いじめの主犯格だというあの話は、どこに行ったのだろう。

 あれは本当に衣織ちゃんがやったことなのだろうか。

 でも、昨日と今日からして、衣織ちゃんはちゃんと私のことを見てくれるとっても優しい女の子だって、分かったんだもん。

 あのいじめは、別の人の仕業だと信じたい。

 

 だって、この学校で、初めてできた、

「友達」だから。



「今日は、とあるサッカー選手の、小学校時代の素晴らしいことの数々を、話してみたいと思います」


 朝の校庭。校長の話が、マイクを通じて、皆の耳に響く。

 気だるそうにしている男子達は、最早先生の目が届いてないところでヒソヒソ話をしている。

 ヒソヒソ声すぎてあまり分からないけど、話の断片から察するに、「校長先生が去年に増して禿げてきている」という話だと思う。


「そのサッカー選手は、同級生に脅された下級生の男の子をかばって、こう言ったんです。『上級生がそんなんで恥ずかしくないのか』ってね。そのことを聞いた時、僕はこう思いましたよ。何て優しいんだろうって。皆さんも、そんな、サッカー選手のような、優しくて仲間想いの人になってほしいと思うんです」


 校長先生は、だんだんと話にノッてきた。

「早くしろや禿げ」という男子の愚痴が飛んだ。



「では、これで校長先生の話を終わります。何か、連絡のある委員会や、先生方はいますか?」

 校長先生は、話を終わらせ、周りを見渡した。

 普段はここで、図書委員会やら保健委員会やらが、清掃週間のお知らせや読書週間のお知らせをするのだが、今週は特に何かお知らせがあるものでもないらしい。

 奇跡的に、先生も特に用はないらしく、ふるふると首を横に振る先生ばっかりだ。


「では整列をしてください。行進をして各教室に戻ります」

 校長先生の言葉で、放送室から行進用のリズミカルな音楽が鳴り始めようと

 した。


 その瞬間。



「待ってください!」



 一人の男の子が、壇上に駆け上がってきた。


 その男の子に、私は目を見開いた。



「ひ、平野君!?」



 私は思わず叫んだ。女子生徒が思わず「わぁ……」と感嘆の声を上げる。

 そりゃあそうだ。平野君は、イケメンだから。


「……でも、何で?」


 私は呟いた。

 

 平野君は、息を荒らげ、校長先生からマイクを奪い取った。

「ちょっ……」という校長先生の言葉が、奪い取っていたマイクからぼそっと聞こえた。


 平野君は、「すぅ……」と息を吸った。

 私はドキドキして、胸の前に手を置いた。



「……もう、真城さん……。真城遥乃さんにっ! 辛い思いをさせないでください!」



「はっ!?」


 一瞬何が起きているか分からなかった。

 状況を理解できない。理解できるほど脳が追いついていない。

 平野君は、壇上に立って、叫んでいる。


 途端に、皆がざわざわし始めた。

「え、何あのイケメン」「遥乃って、あの、自己中の?」

男女の声が入り混じる。

 特に、衣織ちゃんはもう大騒ぎだった。

「え、ちょっと待って、晴樹君? マジ、ヤバいって! みくちゃん、もう、ヤバいよね!? 晴樹君が学校に来てくれるなんて!」

 殆ど興奮状態だった衣織ちゃんは、髪の毛を掻きむしっている。サラサラの髪の毛が、くしゃ、となって、可愛らしかった。

「もう、一途だね、衣織は」

 みくさんは、ニコニコと笑っている。

 だけど、ちょっと顔が引きつっているように見えるのは、気のせい……? なのかな……?


「……周囲から浮いているって、真城さん、悩んでいました! だから、もう、皆さんも仲良くさせてあげてください! お願いです!」


 尚も平野君は喋り続ける。何故か顔を真っ赤にさせている。

「ちょっと君! 学校はどうしたんだい? どこの小学校?」

 校長先生が必死に平野君を取り押さえる。

 

 私だって、正直やめてほしいと思う。

 だって、恥ずかしいもん。

 それに、自分が守ってもらって、衣織ちゃんに申しわけない。


「……友達が辛そうにしてるの、見たくないんです!」


 平野君は、マイク越しに、皆に呼び掛ける。

「……平野君」


「お願いします!」


 平野君は皆に頭を下げた。

「!!」


 一瞬、涙が出そうになった。

 だって、平野君がこんなにも私のこと心配してくれているんだもん。

 まだ話したことも少ないのに、こんなに心配してくれているだなんて。

 悠矢ですら、相談させてくれなかったのに。


「……ありがとう」


 口からこぼれたその言葉は、誰の耳にも届かなかったらしい。

 よかった。

 衣織ちゃんにライバル視されるかもしれないから。


「ちょっと君! 全校朝会を大混乱させて、何様のつもり!?」

 急に生活指導の先生が壇上に飛び出してきた。

(壇上とは朝礼台のことなので、駆け上がってきた、が一番正しいのだが、それは省いてもらう。)


 生活指導の先生は、平野君の腕を掴んで、ずんずんと校舎の方向へと向かっていった。

 校庭から完全に平野君の姿が消えても、校庭はざわめいていた。

 そのざわめきは女子生徒からの方が多く、「イケメンだったね」「メチャクチャカッコイイ」と騒いでいた。


 でも、私はと言えば……。


「遥乃ちゃんって、晴樹君に相談してたの? きゃっ、恋する乙女っていいわね」

 衣織ちゃんが、頬を手で押さえて言う。その頬は、真っ赤だ。

「……なんか、晴樹君って、遥乃ちゃんのこと好きそう~」

 衣織ちゃんは、「ねっ、みくちゃんもそう思う?」と隣のみくさんに共感を求めた。


 私もつられて、みくさんの顔を見る。


 見ると、みくさんは、すっごく険しい目つきでどこかを眺めながら、爪を噛んでいた。

「……みくちゃん?」

 衣織ちゃんが、みくさんを再度呼ぶと、みくさんは「……ん? 何?」と優しそうな視線になった。


 何か、隠し事をしている?

 そう思った途端、行進曲が流れだした。


 私達は、教室に向けて、歩き出す。


 何か、嫌な予感がするな、と思いながら。

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