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そばにいてくれてありがとう。  作者: けふまろ
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第二十八話 夏祭りの始まり。

 最終回ですとか言っておきながら、やっぱりあと一話、伸ばします。

 でもあと一話だけです。本当です。

 東麻呂夏祭りが開催される、夏休みの土曜日。

 家にあったクローゼットなどをひっくり返す怒涛の勢いで、私は服を探していた。

 何たって、晴樹君から夏休みのお祭りに誘われたんだもの。これはもう可愛い格好で行くっきゃない、と心に決めて、おばさんにも手伝ってもらい、服選びを始めた。

 おばさんには、「クラスの女の子達と一緒に行くから、そこで一人だけブスがいるって思われないように、可愛い洋服を選んでほしいです」と言っておいた。

 私のことを一生懸命手伝ってくれるおばさんに、出来るだけ嘘はつきたくなかったが、今はしょうがない。もし「晴樹君と一緒に行く」なんてことが悠矢にバレたら、それこそ晴樹君が殺されかねない。


 何たって、悠矢は私に……告白、してきたんだもん。


 そりゃ、好きな人の好きな人と、好きな人がデートするだなんて、嫌だよねぇ(ややこしい)。ってことで、私はクラスの女の子と遊びに行く設定にした。

 せっかくだから悠矢と遊びに行ってきなさいよ、と言ってくれたおじさんには申し訳ないが、これには私の初恋がかかっているんだもの。

 そう簡単に、諦めることはできない。


 あのとき。


 あのとき、告白した時。

 私の中で何かが、ぷつりと途切れたのだ。

 私と晴樹君は、両想いなんかじゃない。きっと晴樹君は、衣織ちゃんや美玖さんのことが好き。

 それなのに、お祭りに誘ってくれたんだ。


 ……いや、いやもしかしたら、他の女の子も一緒ってこともあるかもしれないじゃない!

 私だけ特別扱いされてるなんて、そんなこと想像しちゃ、駄目だ。

 ぺしっと頬を叩いて、鏡の前で髪の毛を整える。

 前髪はぱっつんの方がいいかな? それとも、斜めにしてピンで留めるか?

 編みこんでハーフアップにした方がいいかな? それともポニーテール? 高い位置もしくは低い位置でツインテール? 何もせずそのまんま?


 うんうん唸っていると、突然、背後から「おい」と声がかかった。

 後ろを振り向かなくても分かる。鏡に映っているから、誰にだって分かる。悠矢だ。


「女友達と行くとか何とか言ってるけどさ、何でそんな髪型気にしてるの?」

 悠矢は、普段と変わらないぶっきらぼうな態度で、そんな言葉を口にする。

 確かに、女子の友達と一緒に行くのに、髪型をいじる必要はない。

「……お祭りに行って、一人だけダサかったら、嫌だから」

 言い訳をして、「悠矢、あっち行っててよ」と苦笑いしながら、右手をひらひらと振る。


 すると悠矢は、何故か私にぐんぐんと近付いてきた。

「ひ、ひぇっ?」

 私は思わず悠矢の方を向く。鏡からは細かな表情は見えなかったけれど、きっと、怒ってるよ!

 叩かれる!

 私がギュッと目をつぶると、悠矢はふいに、私の髪の毛に触れた。


「へ?」


「どういう髪型にしたいの?」

 ……え?

「髪型って、え?」

「……俺、ちょっと勉強したんだ。この短期間で」

 勉強って、髪型の?

「この前姉ちゃん、家飛び出しちゃったからさ。何か悪いことしたかなって思って。……俺、少しだけだけど、買ってきたんだ」

 そう言って悠矢は、ズボンのポケットから何かを取り出した。


 ヘアピン。金色のアメピンが、六本、その手の中にあった。


「……ゆ、悠矢、一体、どこで買ったの?」

 まさか悠矢のお小遣いで、このヘアピンを買ったの?

「姉ちゃん、怒っちゃってたようだから、ごめんなって」

 悠矢は、らしくない笑みを浮かべて、私の髪の毛を優しく引っ張る。

「いっ」

 一瞬痛かったけど、悠矢が何だか器用に付けてくれてる、ような気がする。

 私は鏡を見たのだが、今私の髪型がどうなっているのか、さっぱり分からない。

 私は、鏡ではなく、ただ悠矢が作業する様子を、眺めているだけだった。



「ほら、出来た」

 悠矢は私の頭を優しく撫でて、くるっと私の顔を鏡の方向に移動させる。

 そこで私は、悠矢がこんなことを出来るのか、と感動した。


「わっ」


 前髪に、小さく細い編みこみが入っていて、それが×印に金色のヘアピンで留めてある。耳元には、三角形の形になっている金色のヘアピンが、存在を主張しているかのように留まっている。


「か、可愛い……。悠矢、器用だねぇ……」

「そ、そう……かな?」


 照れくさそうに頭を掻く悠矢。

「うん、すっごく可愛い! ありがとう、悠矢!」

 私が悠矢に微笑みかけると。


「それ、もういいから」


 いきなり悠矢が、そう言い放った。

「は?」

 はっ、いけない。思わず声を荒らげてしまった。



「……誰にも同じように、優しく接さなくていいから」

「接さなくて……って。だって悠矢は、弟だし……その……」



 悠矢は舌打ちをして、壁をドンッと殴った。私が一瞬怯むと、悠矢は眉を潜める。

「俺が弟だからって……義理の弟だからって、恋愛感情を持つわけねぇって、思うなよ!」

 悠矢は、言い終わってから、はぁ、とため息をつき、どんどんと足音を立てながら部屋を出ていった。


 さっきまで、あんなに笑顔だったのに。

 一体、何が悠矢を怒らせてしまったのだろう。

 ……私が、笑ったから?

 好きな人が笑って、何か、駄目なのかな?

「……悠矢」


 私だって、悠矢が好きだよ。

 でも、やっぱりどうしても姉弟ってことだけしか、見えないよ。

 悠矢、私、どうすればいいの?


 ◆◇


 東麻呂夏祭り。

 夕方の四時半。公園には沢山の人達が集まっていた。大勢の人達の声が大きな公園に集まっている。

 私は、公園の真ん中にある、水の流れる川の上の橋で、晴樹君を待っていた。

 隣には、可愛らしい女の子。この子も、誰かを待っているのだろうか。

 髪の毛に、何だか複雑な編みこみになっていて、私と同じ金色のアメピンが刺さっている。かなりのお洒落上級者かな? と私はひとたび首を捻る。私と同じ年齢っぽいのに、私とは違って、こんなに可愛いんだな、なんて思ってしまう。


 そして、その子のつけているヘアピンを見て、ふと、さっきの悠矢の剣幕を思い出した。

「俺が弟だからって……義理の弟だからって、恋愛感情持つわけねぇって、思うなよ!」

 私を追いつめるような、そんな表情だった。

 ……ごめん、悠矢。傷付けちゃったよね。

 何が悪いのか分からないまま、私は今、心の中でそっと謝った。



「あ、ねぇねぇ葵達! こっちこっち!」



 突然、隣にいた可愛らしい女の子が、ぶんぶん、と手を横に振った。

 あ、葵? 悠矢を追いつめた、あの女の子?

 私はさっとその子から目を逸らし、橋の上から川をまじまじと見つめる。

 あぁ、今私は、悠矢がアレンジしてくれた髪型なのだから、絶対、見られない! 「あ、あいつの姉だ」なんて、絶対、絶対言われない! お願いします、言わないでください!

 必死に懇願していると、幸い、葵さん達は、「あーエリ~」と猫撫で声をあげている。

 私はそっと後ろを振り返る。

 今日もまた派手な格好だ。髪はポニーテール、宇宙が描かれているTシャツに、白のショートパンツ、白の派手な飾り付きのサンダル。

 しかも、その周りにいる女の子も、かなり派手な格好している。私、あの子達が着ている服、持ってないよ~。

 ……うぅ、この女子力の差って、一体何なの?


「今日ってさ、流石に悠矢、来ないよね?」

「来るわけないじゃん、あんな暴力男、あのブサイク姉ちゃんと一緒に家で寝てればいいのよ」


 だよねー、と笑う葵さん達。……あのー。その「ブサイク姉ちゃん」は、私のことですよね?

 分かってても、傷付くなぁ。

 いいや、でも今日は、晴樹君とお祭りを楽しむんだもの! 葵さん達がいくら私のことを「ブサイク」だと呼ぼうが構わない。


「マジさ、あいつだけは来てほしくないよね。だってあのイケメン来るかもしれないじゃん!」

「あー。葵がLINEで送ってくれたやつ!? マジカッコいいよね!」

「コンビニで会ったんだって? 流石葵! 男子との出会いがワンサカ!」


 晴樹君……のこと?

 コンビニで葵さんと晴樹君が会ったの、一度だけ……だったよね。

 というか、もしかして、晴樹君を盗撮したの!? ……それはいくら何でも酷くない?


「何かさ、コンビニ出てくるときに、あのブスとイケメンが並んで歩いてるの見えて。写真撮ってエリ達に回したの」

「ブス、絶対イケメンのこと好きでしょ」

「全然似合わない~。カワイソッ」


 うぅ……。ついに「ブサイク」ではなくて、「ブス」にまで略されてしまった……。ま、まぁ大丈夫か……。


「何であんな奴がイケメンと一緒にいるのかってところよね」

「お祭りで、葵とあのイケメン、急接近しちゃったら良いのにね」

「あのブスより葵の方が何倍も可愛いし、それに想いだって何倍も強いじゃん」

「ちょっとエリ~。そんな当たり前なこと言わないでよ~。どっかにいるあのブスが可哀想でしょ~?」


 今、貴方達の後ろに、います! 今川見てる変な奴が、そのブスです! と言えたら、どれほど幸せか。

 あんな奴で悪かったですね! 私、この前告白しちゃったんですけど!? そして今日、お祭りに誘ってもらえたんですけど!? 悪いですね! と、もう悪態を吐いてしまいたい。



「やっ、遥乃さん」



 突然後ろから、誰かにぽんっと肩を叩かれた。

 ……この声、晴樹君だ。

 私はバッと振り返る。……そしてその時。



 葵さんと、目が合った。

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