第二話 学校。
月曜日。
私にとって、とっても憂鬱な日。
学校が嫌いな私にとって、最悪な日。絶対に、好きになれない曜日。
土曜日と日曜日が過ぎ去って、また新しい一週間がやってくる。
永遠に学校になど行きたくない。
でも行かないと、養ってくれるあの弟夫婦さんになんて言われるか心配だった。
せっかく養ってもらってるのに、不登校だったら、困るよね……。
嫌いな理由は、ただ一つだった。
『周囲から浮いている』
それだけの、理由だった。
周囲から浮いているだけで、グループ決めも、周囲に溶け込めず、いっつも余りとなって、皆に迷惑をかけてしまう。
クラスの大半の人は、いらない存在だと思っているだろう。
今までで一度もいじめに発展しなかったのは、皆の思いやりだろう。
「行ってきます」
私は、朝ごはんを食べて、玄関に出た。
「いってらっしゃい」
義母である、真城実菜子さんが、笑顔で私と悠矢を見送ってくれる。
「…………」
だが、悠矢はいつにもまして何も言わない。
というか、私と目が合っても、何故かすぐ逸らされてしまうのだ。
「ほら、悠矢、行ってきますは?」
「……行ってきまーす……」
やっぱり無口だ。
何故か、「何でも相談して」と言った日から、避けられているような気がする。
学校に着くと、ざわざわとした気配が漂い始めた。
鉄棒で逆上がりしている男の子、集まってキャーキャーと騒いでいる女の子。音楽室から聞こえる吹奏楽バンドの演奏。
いつもと同じ空気が、私にはひどく居心地が悪い。
「……あ、おはよー真城さん」
優等生、東衣織さんだ。
東さんは、とっても清潔で可愛くて、私なんかと話してくれるのが不思議なくらいのモテている美少女だった。
多分、先生から遥乃さんと仲良くしてやって、とでも言われているのだろう。
「おはよう……」
ただ、私はこの子を警戒している。一応返事をして、ご機嫌をとらないと。
去年、彼女は五年二組で行われた、いじめの主犯格だと言われているからだ。
ただ、そのいじめは、あるイケメンの登場によって、終わったのだという。
「ね、今日一時間目から算数じゃん? マジ超ダルイな~って思って。真城さんもそう思う?」
東さんは気さくに話しかけてくれるけど、やっぱり怖い。
「……だねぇ。超ダルイよね……」
算数は苦手科目の一つだ。分数の掛け算だの割り算だの、図形の面積の求め方だの、難しい問題ばっかりだ。
もちろん、国語も社会も理科も苦手。運動系はてんで駄目だし、想像力なんて欠片もないから図工も苦手。
でも唯一得意なのは音楽。本当の母親が、ピアノコンクールで何度も優勝した成績を持っている。だから、ピアノなど習っていないのに、スラスラと楽譜が読めた。
あと、本当のお父さんが、スタイルの良い、太りにくい体質を持っていたから、お菓子を食べても太らないとても有り難い体を遺伝された。
私は一度、音楽で大活躍した時があって、その時、東さんも褒めてくれた。その時は「すごいね」と満面の笑みだったけれど、ピアノを一生懸命習っていた彼女は、心の中でどう思っているだろう。
「……しかも少人数だから、隣の席が藤沢だよ? あのふざけんぼの男子。……ホンットやだわー」
私は仕方なく苦笑いする。
ここで下手に出しゃばって東さんに目をつけられてしまっては、辛くなるほどいじめられてしまう。
「あ、みくちゃんだ!」
東さんは、保育園の頃からの親友の、みくさんに駆け寄っていった。
途端に、少し悲しい感覚に襲われる。
そりゃあ仕方ないよ。……だって、殆ど初対面状態の私より、慣れ親しんだみくさんの方が仲良くしたいに決まっているから。
チャイムが鳴る。
皆が、開いた昇降口に、駆け出していく。
悠矢も、友達と楽しそうに笑いながら、昇降口に入っていく。
でも、悠矢と笑っている男の子達は、楽しくなさそうだ。
もしかして、悠矢が怖いのかもしれない。
そりゃあそうだよ。悠矢、暴力振るうから。だから、悠矢を刺激しないようにしているんだ。
いっつも人の顔ばっかり窺っているからいるから、自然と、相手が何を伝えたいか分かるんだ。
昇降口に入る。
賑やかな声がする。
挨拶をする先生。上履きに履き替える同級生。
「おはようございまーす」
と、小さな声で挨拶する。
どうせ、今日も変わらない一日が待っているんだ。
だから、目立たないように、生活していこう。
いつもどおりに。いつもどおりに。
波風を立てないように。
でも、今日は、いつもとは違った。
そして、私の小学校生活を、大きく変える日だった。