第二十六話 またもや悩み。
久しぶりの投稿です。超絶久しぶりの投稿です。
決してこの小説のことを忘れていたわけではありません。……本当ですよ?
でもまたどこかで更新が停止するかもしれません……。その時はすみません。
その翌日。
昨夜から随分と気まずい雰囲気だった悠矢と私だったけれど、朝からは普通に話すことが出来た。
「遥乃。おはよう」
「……お、おおおはよよよっ? 悠矢ぁ?」
昨日の告白が頭に引っ掛かっていて、とてもじゃないけど普通の返事は出来ない。
「……どした? そんな慌てて。自由研究まだ終わってない?」
そうだけどっ。自由研究、まだ全然終わってないけどっ。
それは悠矢、貴方のせいでもあるんだからね?
私がその思いをこめて悠矢を軽く睨むと、悠矢は何故か少しだけ寂しく笑って、朝ごはんの用意してある食卓に座る。
今日の朝ごはんはコーンフレーク。チョコ味。ミルクが入っている。本当はミルクが入っていない方が良かったんだけど、まぁ文句は言えないからな。
手を洗ってうがいをして服を着替えて、大体のことは終わらせて、コーンフレークを食べていると、ふいにおじさんが「そうだ、遥乃ちゃん、悠矢」と新聞を読みながら話しかけてきた。
「ん?」
「どうしたんですか?」
私と悠矢が同時に聞く。隣から自分に告白してきた人の声が聞こえてくると思うと、恥ずかしくて耳がほんのり赤くなっていく。
「実は、来週の土曜日、夏祭りがあるんだ。東麻呂市の夏祭り。広い公園を使ってやるそうだから、姉弟とか仲の良い友達と一緒に行ってみなよ」
新聞には、小さいながらも「東麻呂夏祭り」の文字が躍っていた。
全国紙の新聞にも載るんだ、ここの夏祭り。結構すごいんだな。
「……模擬店もあるんだ」
悠矢がぼそっと呟く。ははーん、きっと何か食べたいものがあるんだな。
私はジェラートとかかき氷とか食べたいな。暑い季節にピッタリだし、何しろ私がそういうの大好きだから。
「……姉ちゃん、何かおごろっか?」
「う、うぇ?」
悠矢が弟らしからぬことを言ってくる。おごるとかそういうのは兄とか姉とかが言うものなんだよ?
「……大丈夫だよ。お小遣い、何円あると思ってるの」
「どうせ千円とかでしょ?」
うっ。
確かに、千円だ。
亡くなった両親の貯金は銀行にあるし、以前もらったお年玉などは銀行にある。元々如月家にそれほどお金がなかったから、お年玉も貯めなければ、私の将来は少しだけ暗くなるのだという。おじさんおばさんがそんな話をしていた。私がいるときにそんな話をしないでほしい。
「千円で流石に、チョコバナナぐらいは買えるでしょ」
「何でチョコバナナなんだよ」
プッと噴き出す悠矢。悠矢の笑いの沸点が分からないが、何故か微妙に嬉しい。
自分のことを好きだと言ってくれた人が、私の言ったことで笑ってくれている。
あぁ、カップルってこんな感じなのかな。私なんて一番恋愛に無縁な人だと思っていたから、こういうことが出来るって、何か新鮮。
「ま、俺買うから。色々迷惑かけちゃったし」
悠矢はそんな私にお構いなしに、そんなことを言う。
そんなことをしても、私は悠矢と付き合おうとは思わないのに。
そんな健気な悠矢を見てると、何だかこっちの方が悪く思えてきちゃう……。
うーん……。悠矢は男版小悪魔と言ったところか。
「じゃあ俺、部屋でゲームするから」
「おぅ、いいぞ」
「勉強もしなさいよ?」
悠矢がそう言うと、おじさんとおばさんも笑いながらそんなことを言っていた。
軽快な足音を立てて部屋に入る悠矢を見ていると、何だか何かを言いたい気持ちがどんどん現れてくる。
昨日私に告白してきた悠矢は、本当に悠矢なの?
そう聞いてみたかった私は、「私も勉強してきます」とおじさん達に行って、勉強部屋に向かっていった。
◆◇
「悠矢」
私は部屋に入るなり、悠矢を呼ぶ。
悠矢はゲームからチラッと顔を上げただけで、何も言ってこない。
悠矢のゲームから、戦闘音やらBGMやらが聞こえてくる。
……むぅ、これはもしや、私と悠矢の状況を遠回しに伝えているのか?
そうだとしたら、何と憎い奴なんだ。
私がしばらく悠矢をまじまじと見つめていると、悠矢はぱたんとゲーム機を閉じて、「何だよ」とふてくされたように言ってきた。
そこで私はハッとする。そうだよね、せっかく気持ち良くゲームしているのに、姉がじろじろ見てくるんだから、そりゃ困るよね。
「俺の顔に、何かついてる?」
「つ、ついてないけど……」
そういうことじゃないのにぃ……。悠矢が告白してくるから、気になっちゃったんじゃない……。
「姉ちゃん、もしかして、昨日のこと?」
うっ。
図星つかれた。
悠矢はいつものぶっきらぼうな顔して、私をじーっと見てくる。
「……そ、そうだよ?」
私がそう言うと、悠矢をフッと視線を落として、ゲーム機を開く。また戦闘音が部屋に鳴り響く。
「……あんなのもう、気にしなくていいから。悪かったね」
…………。
気にしなくていいから、なんて、どうしてそんなことが言えるの?
うん、そりゃあまぁ、私に告白してきたのは、理由がついても、有り得ないとして。
好きな人に告白して、そして好きな人がそのことについて話そうと思っているのに、それを、否定するなんて。
……それ、悠矢にとって、悲しいと思わないの? 少なくとも私は悲しいと思うんだけど……なぁ。
「……何で? 悠矢はそれでいいの?」
悠矢は、何も言わない。本当は聞こえているんだろうけど、わざと聞こえないフリをしているようにしか見えない。
「……良くないよ、そんなの!」
悠矢が今度は、声を荒らげた。遠目からでも分かる。ゲーム機のボタンを打つ手が、段々荒っぽくなってきている。
「好きな人と両想いじゃなくて、しかもその人と毎日顔を合わせる羽目になるんだ! 良くないに決まってるじゃんかよ!」
そして、ゲーム機をベッドに放り投げた。
……かなり古い機種だから、壊れちゃうよ。
そんなことを思って私がベッドの方に歩み寄ると、悠矢がまた叫んだ。
「そんなんだからだよ、姉ちゃん。人の気持ちも分からないで、勝手に人のこと決めつけて! そんな鈍感だから、俺が、姉ちゃんのこと、好きになるんだよ!」
…………。
頭がぼぉっとしてしまったのか、私は悠矢に何も言うことが出来なくなっていた。
「何で姉ちゃん、実の姉弟でもない俺が問題起こしても、駆け付けてくれたの? 何でいつも、俺のことかばってくれたの? 俺のこと、大切に思ってくれてたの? ……関係ないのに。俺なんか、ただのイトコってだけなのに、何で俺と一つ屋根の下で暮らすことになった時から、あんな優しそうな顔をするようになったんだよ!? ねぇ、姉ちゃんったら!」
……もう、何も知らないよ。
悠矢が何で私なんかを好きになってくれたのかも。悠矢がどうしてこんなに詰め寄ってくるのかも。
今の私には、何も分からない。
私は思いっきり、部屋を飛び出した。
いきなりの物音に、「何だ何だ!」とおじさん達が騒いでいる。
私はそんな二人の横をすり抜けて、スニーカーを履いて、外に飛び出した。
突然、じゅわぁ、と焼けるような暑さが押し寄せて、一瞬気後れしそうになる。
でもそんなこと、今は気にしている暇はない。
考えていることが全く分からない悠矢と、これ以上一緒にいるのは、少々無理なことかもしれない。
悠矢と一緒にいることが辛いのだ。
だから私は、真夏の暑い日に、飛び出した。
夜桜公園に。
◆◇
夜桜公園。今は夏で、しかも朝十時。
この公園の名前と随分矛盾している時間帯。
私はブランコをあの日と同じように、揺らしていた。
あの日、私が悠矢に向かって、「私をもっと頼ってよ」と言わなければ、今みたいな状況にならなかったのかもしれない。
大体悠矢は、何でいっつも一緒に暮らしている人を好きになったのだろう。
普通にイビキたてることとかあるし、寝起きとか完全に化け物だもの。それに……普通に……悠矢と寝てるし。
主に寝ることに執着してしまっているけど、それほど悠矢が分からない。
悠矢は何故、親戚を好きになったの?
何で悠矢は私なんかを、好きになってくれたの? 衣織ちゃんや美玖さんの方が、何倍も可愛いのに。
何で、よりによって私なの?
姉弟を好きになるなんてことがなくて。衣織ちゃんや美玖さんを好きだったら、「そうなのかぁ」みたいな感じになるのにな。
調子、狂っちゃうな、小六なのに。
大人になった、つもりなのに。
「……どうしたの? 遥乃さん」
後ろから、柔らかな声が響く。
この声。
今私が、一番聞きたかった声。
私は、ゆっくりと振り返った。
「晴樹君……」
そこに、晴樹君が険しい顔をしながら立っていた。




