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そばにいてくれてありがとう。  作者: けふまろ
26/31

第二十四話 告白の返事。

 …………。

 

 好き……?

 え?


 一瞬、何が起きたか分からなかった。

 でも。


 悠矢の瞳には、今までにないくらいの優しさが、広がっている。

 それは、本気なのかどうか、分からなかった。

 だって、優しげな表情なんだもん。……本気で責め寄ってますって感じがしなかった。もしかして、どこかで、ドッキリでも仕掛けているんじゃないかって思ったけど、全然違う。

 真城家の至る所に、カメラが設置されているわけないからだ。


「……ちょっと待って、悠矢、好きっていうのは、「いっつも頑張る姉ちゃんが好き」ってことでしょ? ……って、まぁ、私、頑張ってないけどさ……」



「違う。本当に、遥乃が、好きなんだ」



 …………。

 何でこういうときだけ、姉ちゃんって呼ばないで、名前で呼ぶんだろう。

 意識しちゃうじゃん。真面目に「ありがとう」を伝えるだけなら、「姉ちゃん」でも充分なのに。

 ……でも、それをしないってことは……。

 自意識過剰を承知するけど、悠矢は、まさか……。

「……いやいや、んなわけないでしょ? まさか悠矢が私のことを好きって、そんなわけないよね?」

 思っていたことがぽろっと口に出てしまうとは、こういうことか。私も、今しがた、ぽろっとこぼしてしまった。

 だが、悠矢は、微笑みながら、首を横に振る。


「え、冗談だよね? ドッキリ企画なんだよね?」


 またしても、首を横に振る。

「……あぁ、はい、はい……」

 こうは言ってみたものの、正直全くもって分からない。

 弟が、姉に……? いやいや、漫画でも見たことないし、まずそもそも、身近ですら聞いたことがない。つまり、今私を取り巻くこの環境は、随分とレアなケースなのだろう(そもそも聞ける友達すら少なかった)。

 

 ……そう考えれば、思い当たる節が、少しだけど、あった。



 夜桜公園で、悠矢の好きな人を聞いていた時だった。


『……その人、俺がその人のことを好きだって、絶対に思わないような人なんだ。……優しくて大人しくて、でもいざって時は俺を守ってくれるような、そんな人なんだ』


 別に、たいして私は優しいわけではない。大人しい、はまぁ正解なんだけど。……悠矢をいざって時には守る……うん、確かに、それは私と同じかもしれない。っていうか私なんだけどね。……はぁ。


『……でもその人、俺のこと、欠片さえ意識なんてしてなくて、本当に、絶対に、俺が自分のこと意識してるなんて、絶対思わない、夢にも思わない人なんだ』


 ……。うん、まぁ、合ってた。正解だ。あの時、私は「守ってる時点で意識してるよ」なんて言ってしまったんだ。……今そう考えれば、何て無知な発言だったんだろう。


「……姉ちゃん、夜桜公園で、言ってたじゃん。……その人に告白した方が良いって」

 

 うん。言った。言ったよ。でも、それは好きな人を知らなかったからであって、それで……って、何か言い訳がましいな。

 でも、私って最初に知ってたら、絶対に応援しなかった。うん。それだけは頷けるよ。


「だから、今、告白した。『好きな人』に」


 うん、そうなんだよ、そうなんだけどね。

 でも、私だったなんて、知らなかったんだ。……だから、私は、何も答えることが出来ないんだよ。

 家でも学校でも地味だし、気が弱い。たまに調子乗ると冷たい目で見られるし。……情けない女子なんだよ。……悠矢は、何でこんな私を好きになってくれたんだろう。


「悠矢は、何で、私のこと、好きなの?」


 思わず、そう尋ねてしまった。

 私は慌てて口を押さえる。思ったことがまたぽろっと口に出てしまった。悠矢が驚きの表情をした後、頬笑みながら言った。


「……俺のこと、いっつも一生懸命考えてくれたから。……他の女子は、「暴力振るうから嫌い」って、相手にすらしてくれない。……そんな俺を、……まぁ、弟なんだから、当然って感じもするけど、……でも、俺を思って親身に聞いてくれる遥乃が、いつの間にか、好きになってたんだ」


「…………」


 告白されるって、こんな感じなんだ。……ちょっと不思議だった。

 もっと嬉しいことなのかと思ってた。地味子を好きになってくれるだなんて、嬉しい事以外の何物でもないって、思ってしまった。

 でも、違う。

 何だろう、好きな人じゃない人から告白されたら、戸惑ってしまうんだ。

 この人は、私を好きだって言ってくれている。でも、その人のこと、好きじゃないんだ。……こういうときって、本当に、どうしたらいいか全然分からないんだ。


「悠矢……」

「何?」


 私が呟いた一言に、悠矢は、今までからは想像もつかない、優しい響きで言った。



「私もね、悠矢のことは、大切に思っている……それは頷けるよ」



 悠矢は、私のその言葉で、顔をぱぁっと明るくさせた。


「それじゃあ……」


 私は、その期待を裏切るのが、少しだけ、少しだけ、怖かった。悠矢は、こんなに熱心に想いを伝えてくれた。

 私の好きな人を、知らないから。

 晴樹君だって知ったら、きっと、私に対して、冷たくなるから。

 この前と、元通りになってしまうから。


 私は、恐る恐る首を振った。

 悠矢は、「えっ」と独り言のように呟いた。


「なっ、何で……」

「……ごめんね。……私、好きな人が……」


 その言葉で、全てを察したのか、悠矢は、顔を伏せた。

 私は、悠矢が好きではない。……大切に想っているけど、好きな人は、晴樹君なんだよ。

 ……その言葉が、口からどうしても出ない。さっきは思っていたことが口から出てしまったのに、今は言おうとしても全然言葉が出ない。


「でもっ、悠矢が私を好きだって言ってくれてっ、すっごい嬉しかったんだよ? ホント、ありがとう!」

 

 そんな言葉を投げかけても、悠矢は口を閉ざしたまんま、顔を伏せている。


「でも……、私、好きな人がいるの。……だから、ごめんなさい!」


 私は、頭を下げた。

 もしこれが姉弟じゃなかったら、青春の一ページとして流せただろう。

 でもこれは、これからの姉弟関係をどうするか、という問題にもなる。これからずっとすれ違いのまんまだったら、私は耐えられなくなる。悠矢はどうだろう。


「……いいよ、そんなの。最初っから、分かってたし。……この恋が叶わないってことぐらい」


 悠矢がやっと放った言葉は、重く、暗い声だった。

「分かってたよ。……だって、好きってこと、全然知らなかったんでしょ? ……まぁ常識的に考えたら、頭おかしいって思われること間違いないし」

「そんなことっ……」


 思ってない。そう言おうとしたけど、悠矢のことを考えると、確かに、そんな感じがしてしまう。

「……ごめんね」


 私が呟くと、悠矢はハッとしたような顔をしながら、「うん」と頷いた。


「姉ちゃんは、後悔しないように、頑張ってね?」

 その声に、私は思わず顔を上げた。

 

 そこには、いつものぶっきらぼうな顔があった。

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