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そばにいてくれてありがとう。  作者: けふまろ
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第十九話 驚きの行動。

 その翌日。

 私は、衣織ちゃんと美玖さんの二人で、市民プールに出掛けた。

 悠矢は夏休みの自由研究に打ち込む、と言って、スノードームという季節はずれも程がある自由研究に熱心に取り組んでいた。以前は時計を作るとかなんとか意気込んでいたけど、時計はどうなってしまったのだろう。


「ねぇ、晴樹君と最近、調子どう?」

 衣織ちゃんが、私に話しかける。

 一途に平野君に片想いしているのに、こんなに私の恋を応援してくれるんだって、嬉しくなった。

「別に、全然進展ないんだよね」

 私はちょっとだけ笑った。

「晴樹、多分衣織か遥乃のどちらかが好きだと思うんだよね」

 美玖さんが突然、言い出した。


「えっ、私なんて、そんなこと、あるわけないじゃん!」


 私は即座に反応したが、衣織ちゃんは「……そうだと願いたいんだけどねぇ。……全然そんなの想像できないよ」と腕を組んで考えた。

 まぁ両想いって言われたら、手を繋いできゃっきゃと笑うカップルしか想像できないからなぁ、私は。

 想像力がないって言われればそうなんだけどね。

 でも、私と平野君が、街で笑いながら手を繋いで歩いている様子……。


 全然想像が出来ない。

 衣織ちゃんとか美玖さんとかなら容易に想像できるけど……私と、だなんて、そんなこと、考えることも出来ない。


「……なぁに、遥乃ちゃん。もしかして、自分が晴樹君と歩く姿なんて想像できない?」

「はぅっ!」


 思いを見透かされて、私は奇妙な声を出してしまう。

「もう、純粋ぶんないでよ、遥乃!」

 美玖さんは笑った。

 純粋ぶってなんかじゃなくて、本当に想像できないんだって。

 平野君が笑っている姿は想像できるんだけど、どうしてもその隣にいる私って言うのが分からない。

 微笑む私の姿っていうのが、どうにも想像できなくて、そこだけふんわりウェーブがかかったようにぼやけているのだ。

「別に、純粋ぶってなんかないよ」

 私は首を横に振る。


「あはは、冗談だって~。そうやって冗談を鵜呑みにする遥乃って、やっぱ、天然?」


「て、天然って……」


 私も天然の言葉くらいは聞いたことがある。……本人は意図的にそうなろうと思っているわけではなく、ただ本当に普通にしているだけで周りの人から「この人、おかしいな、不思議だな」と思われるような人だと聞いたことがある。


「天然じゃないよ!」

 私は思いっきり反応する。今だって友達も少なくて去年までずっとクラスで孤立していたっていうのに、更に「こいつ不思議な反応するよな」って思われてたら、私のイメージがどんどん落ちてっちゃうよ。


「否定するってことは、更に天然だと認めているのとおんなじだよ」

「うわぁあぁぁ!」


 衣織ちゃんがクスッと笑った。


 そんな下らない話をしていると、市民プールが見えてきた。

「……あ、もうついたよ、市民プール」


 衣織ちゃんの言葉で、私達はドアを押しあけて中に入った。


 ◆◇


 受け付けにて五十円払う。今日は私の水泳の特訓をしようと誘ってくれたのだ。

 ご存じのとおり、私は平泳ぎはおろか、クロールもままならないのだ。

 美玖さんはこの前一生懸命練習してやっとのこと四級(クロール二十五メートル)合格したのだとか。

 衣織ちゃんはこの三人の中で一番水泳が出来る。四歳から今まで市民プールで水泳を習っているらしい。

 

「あ、衣織、その水着、可愛いね!」

 美玖さんは、更衣室で着替えてながら、衣織ちゃんの水着を褒めていた。

「えへへ、そう? お姉ちゃんのお下がりなんだ」

「お姉ちゃんって、センスあるのね」

「そうかな?」

 まるでお嬢様のようにおしとやかに笑う二人に、何故か私は恥ずかしさを覚えた。

 私は、スクール水着だ。

 一応白いラッシュガードを持ってきたから、それを羽織って行こうかな。


「きゃー、気持ち良い!」

 美玖さんが、プールに入った瞬間、叫んだ。


 この市民プールは、室内にある。水深も学校のプールより二倍深くて、それでいて学校のプールのように屋外にあることもないから落ち葉が落ちてなくて、すっごい綺麗だし、濁っていない。

 流石に学校プールをけなしすぎたな、と思って、私も水につかる。


「ひゃっ、冷たっ!」

 

 アイスとも似たような温度が、全身を襲う。

 一瞬鳥肌が立つ。


「わっ、冷たいねぇ、遥乃ちゃん」

「う、うん……」


 衣織ちゃんは、この温度にもう慣れてしまっているのか、平気な顔でそう言った。

 私は、返事できるのがやっとのほど、このプールが冷たくて冷たくてしょうがないのだけれど。


「よーし、まずはクロールの練習から!」

「うっ」


 ここでクロールが出来ないのは私だけだ。美玖さんは四級合格したため、もうクロールを練習する必要がなく、五十メートルを泳ぐために、子供用のスペースで二十五メートルを往復していた。


 そんな私は今は五級。


 そうだ、私も、焦らなきゃいけない時期なんだ。

 先生から、「中学に入ったら最低でもクロール・平泳ぎ、二十五メートルを泳げるようにしてくださいね。出来れば五十メートル泳げるように」との指令が来ているんだ。

 学校プールに来てない六年生は圧倒的に多かった。

 この時期の、特に六年生は、受験勉強をする人が勉強に奔走するため、プールに全然来なくてもしょうがないと言えばしょうがないのだけれど、泳げなくて受験の心配も何にもない人が、来ていない。

 そんな人が衣織ちゃんは嫌いらしい(真面目に来なくって結局泳げなくて、三学期ぐらいにあたふたする人が)。藤沢とか五級のくせに全く来ないから衣織ちゃんから嫌われるだろうな。

 しかし。

 美玖さんはこんなに苦労して頑張って合格したのに、私ったらちまちましか来なくって、完全に私が悪い。

 だから今日は私の特訓の為に二人が協力してくれたのだ。

 この親友は一生大切にしていかなければならない。


「えっと、クロールって、まずどうやるの?」

 私としては黄金色に輝く「特二級」の検定を合格した衣織ちゃんが、私にクロールを教えてくれた。

「う~んとね。……まず、やってみてくれる? どこがどう違うのか分からないから」

「分かった」


 私はクロールを実演してみる。

 足をばたつかせていると、どんどん沈んでくる。

 えっ、何で? ちゃんと泳いでるじゃん。手だってちゃんと動かしてるよ!

 すると、私の泳ぎっぷりを見ていた衣織ちゃんが、「プッ」と笑った。


「い、衣織ちゃん?」

「ちょっと、全然違うもの……ふふっ。あのね、クロールって言うのはね、こう、……う~ん。……遥乃ちゃんて、膝から下しか動かしてないんだよね。もっとこう、下半身全体を動かすような感じ。……あっ、でも、ぐちゃぐちゃ動かすのは駄目だよ?」

「うん、分かった!」


 私は言われたとおりに動かしてみる。


 思ったより、上手くいってるような気がする!


「おぉ、衣織ちゃん、出来たよ! あとは、息継ぎとかなんだけど、どうやったら出来るのかな?」

「……手を、こうやって、水を掻くように、右手、左手で大きく円を描くような感じ。息継ぎも……、「あ、苦しいな」って思ったら、円を描くように動かしてる手を、……うーん……あのね、例えば、今、私、右手掻いてるでしょ? その右手を追うように見ると、自然に息継ぎが出来るようになると思う。……あとは、息継ぎのときに息を吸ったら、水中で息を吐き出すって言うのが重要だと」

「おー、衣織ちゃん天才!」


 私はそれを早速実践してみることにした。



「やった、衣織ちゃん、出来た? 今の出来てた?」

「うん。出来てた出来てた」

 

 クロールが出来るようになった。

 それが嬉しくて、私は思いっきり「やったぁぁぁあぁぁぁぁっっっ!」と叫んでいた。

 市民プールに響き渡る大声。

 周りの人が振り返ったような気がして、私は恥ずかしくなって、水中に顔を沈めた。


 と。


 前から、誰かが超スピードで近付いてくる。


「ふぃふふぁん!?」


 その人が美玖さんだということが分かり、私は水中から顔を上げた。

「遥乃、出来た?」

「うん、出来た!」

「へぇ、よかったじゃん!」


 私はたった今起きた奇跡のような話をした。


「……ってか、私が遥乃ちゃんに教えてる間、みくちゃんずっと泳いでたの?」

「うん、軽く三往復ぐらい」


 美玖さんのスピードに、沈黙。


「……それはもう特二いけると思うよ」


 ぼそり、と衣織ちゃんが呟いた。


 ◆◇


 帰り道。

 アイスを食べながら話している私達。

 髪はまだしっとり濡れていて、いかにも「プール帰りです」という雰囲気の私達。


 本当に、幸せだった。

 そんなとき。

 事件が起きた。


 いや、起きてしまった。


 ◇◆


「ちょっとコンビニ寄らない? お母さんから雑誌の買い物頼まれてたの」

 衣織ちゃんがコンビニを指差して提案する。

 私と美玖さんは頷いた。


「私ちょっと雑誌見てるから、衣織と遥乃も、見てていいよ」


 美玖さんのこの言葉のおかげで、私は事件を知ることが出来たんだ。



 お菓子コーナーで、私は飴を見ていた。

 塩キャンディとか、ハイチュウとか、美味しそうなものが沢山売っている。

 小さい頃、よくここで悠矢と十円ガム買ってたなぁ。……あの頃はまだ悠矢は純粋だったんだけどな。


「え?」


 私がそんなことを思い出していると、視界の隅に、驚くべき人物がいた。

 お菓子コーナーと三つコーナーを開けて設置されているパンコーナーに。

 それこそ、思い出の中心人物、


 悠矢だった。


 だけど、悠矢はいつもと違う。

 赤いフード付きパーカーを目深に被り、七割のぶっきらぼうと三割の優しさで出来ている悠矢の目は、今、黒く、深い、そんな目になっている。

 地味でフォーマルな服装なのはいつもと同じなんだけど、小さなバッグを持っている。

 そして、手には、小さなパン。

 ……何か、変だ。



「ゆ……」

 私が小声でそう呼び掛けたそのときだった。




 悠矢は、バッグに、パンを滑り込ませた。




「なっ!」



 私は驚きで言葉が出なかった。

 

 まさか、悠矢は……。


 万引きを?



 悠矢は、驚きの行動を見せたのち、ごく自然な足取りで、入口に向かっていった。


 私は、数秒間混乱して、立ち尽くしていた。

 頭もそんなに働いていない。


 何で悠矢は万引きを?

 お小遣いなら貰ってるでしょ?

 犯罪だよ、そんなことは。


 疑問しか頭に浮かんでこなくなった。


 やがて、ものすごい脱力感に襲われた。

 寝るべき事態ではないのに、足が重いものを引きずっているかのように下へ落ちていく。


 私は、その場に座り込んでしまった。

 ガシャン、と音がする。

 何事かと、衣織ちゃんと美玖さんが駆け付ける。


「大丈夫? 遥乃ちゃん?」

「遥乃? 急に倒れたけど、本当に大丈夫?」


 二人は、私を揺さぶってくれる。


 二人の力に支えられて、私は立ち上がることが出来た。


「……気分悪いの? 今日はもう家帰っても良いよ?」

「熱中症に気をつけてよね?」


「うん、ありがとう……」

 私は頷いて、言った。

「今日はもう、帰るね……。また後で連絡する……」


 私は手をひらひら振って、入口に向かっていった。

「……あっ、送ろうか?」

 衣織ちゃんが言ったけど、私は「大丈夫」と返す。


「じゃあね……」


 二人とも、心配している様子だった。


 私は、コンビニを出て、家へ走って帰った。


 あぁ、もう、何でこんなことばっかり起こるんだろう。



 自分のベッドで、寝ころんだ。激しい脱力感が、またも襲う。

 

「ただいま」


 悠矢が、帰ってきた。


「!」


 悠矢が帰ってきた瞬間、今までの脱力感など忘れて、私は立ち上がった。

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