表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そばにいてくれてありがとう。  作者: けふまろ
17/31

番外編 初恋  悠矢

「ねぇ悠矢」

「ん? 何遥乃姉ちゃん」


 久しぶりに、思い出した。


 遥乃。……俺の姉ちゃんが、まだ幸せだった頃の話。

 今となっては真城遥乃になってるけど、前までは、如月(きさらぎ)遥乃だった。

 その時の話だ。


 俺と遥乃の関係は、……まぁ、従兄弟みたいなものだった。

 二人とも一人っ子だったためか、会う時はまるで本当の姉弟(きょうだい)みたいに接していた。


 俺はその頃、遥乃を本当に心から慕っていて、お父さんやお母さんから「悠矢と遥乃ちゃんは、本当の姉弟みたいね」と言われるたびに、嬉しくなっていた。


 だけど、一緒に住むようになってから、俺の気持ちは、一変してしまったんだ。


 一緒に住んだら、もっと楽しくなるって、思ってたのに。

 遥乃は、ずっと黙っていたままで、昔のような、無邪気な笑顔を浮かべることなんてなかった。

 昔は、何で遥乃は笑ってないんだろうってずっと思ってたけど、今となっては分かる。両親が死ぬまでは、俺の家に住むことなんて考えてもいなかっただろうから、平気に振る舞っていただろう。でも、両親が死んで、こっちに来ることになったら、途端に意識してしまったんだろうな。

 両親が死んで、ちゃんとしなくちゃって、大人っぽくなったからかもしれないけど。

 あれ以来、遥乃は、俺に作り笑顔しか向けなくなってしまったんだ。

 

 学校でも、ずっと孤立していたらしい。

 それにも相当応えていたのか、遥乃は、ふとした瞬間、寂しげな表情をするようになったのだ。

 

 それを見て、俺は、思ったんだ。


 絶対、遥乃を笑顔にしてみせるって。

 作り笑顔なんかじゃない。本当の笑顔にしてやるって。


 だけど、口から出る言葉は、全部、俺の気持ちとは正反対で。

 姉気取ってんじゃねぇよって。……ホント、酷い言葉だよ。遥乃はせっかく俺に優しくしてるのに、その好意さえ踏みにじったんだ、俺は。

「無理すんなよ」って言いたかったのに、口から出る言葉は、照れくささを隠した、思っていることと正反対のことばかり。



 そう思ってたある日のことだった。

 平野晴樹が現れたのは。


 全校の前で宣言されたときに、俺は思ったんだ。

 こいつでも、遥乃を笑顔にすることが出来るんだって。

 

 こうやって皆の前で宣言して、そうやって、助けようとしてるんだって。

 俺の目に、晴樹はライバルに映ったんだ。


 そして、思った。


 こいつには、絶対負けたくねぇって。

 遥乃を笑顔にしたいって気持ちは、短いだけの付き合いのお前には負けないって。

 

 遥乃のことを好きになったって、俺はお前に遥乃を渡さないって。



 そして、

 俺が遥乃を好きになったと気付いたのも、まさにこのときだった。


 笑顔にしたいって気持ちが、いつの間にか「好き」に変わっていたんだ。

 それは、初恋だった。


 弟が姉に恋するなんてのも、それだけ聞いてれば「こいつやべぇ」みたいな感じだけど。

 

 あると思うぜ? そういうの。

 辛さを間近で見てきた人間なら、

 この人を笑顔にしてやりたいって、強く思う気持ち。


 その人を、大切に想っているのなら、尚更だ。


 ◇◆


 でも、それが上手くいかないっていうのもあるんだよ。

 告白しようと、路地裏に連れて行った時もそうだった。


 まるでアニメとか漫画とか、そっち系の話にありそうな、「あともう少しのところで邪魔が入る」ってやつ。

 告白も、それで失敗して、結局、チャンスを失ってしまったんだ。

 こんな偶然ってあるのかって、俺は心底びっくりしちゃったよ。


 だから、告白のチャンスも逃してしまったまま、遥乃とアイスを買いに向かったんだ。



「……遥乃」


 俺は、夜、布団の中に入って、呟いた。


「大好き……」



 それが、姉ちゃんに聞こえてないことを願いながら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ