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そばにいてくれてありがとう。  作者: けふまろ
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第十二話 事件と気持ち。

 突然聞こえた女の子の声に、私は振り返った。

 そこには、三人の女の子に囲まれた、一人の男の子がいた。


「いつまで姉ちゃん姉ちゃん言ってんだよ、暴力男のくせに!!」

 

 暴力男……?


 そのキーワードで、ある一つの男子の顔が思い浮かんだ私は、ハッとした。


 

 もしかして、そこにいるのは悠矢?



「…………だって」

「だってじゃねぇんだよ、お前、マジ調子乗って、ふざけんなよ?」


 私は、声のする方向へ走った。


「悠矢?」

「マジ、暴力振るうとか最低。クソだから」

「悠矢っ」


 私は、思い切ってその子の顔を見た。



 悠矢、だった……。



「ね、姉ちゃんっ」

 悠矢は、私を見て、そんな声を発した。

「悠矢、あんた、どうし……」


「うわっ、今の声、聞いたぁ? 『ね、姉ちゃんっ』だってさ、何それ、困ったときだけ家族に頼むの~?」

「マジ~? よっぽどのお姉ちゃん大好きっ子~? うわぁ、キモっ」


 私が悠矢に話しかけるが否や、女の子達は、素早くそれに反応した。

 何? 何が一体どうしたっていうの?


「ねぇ、何があったの?」

 私は、思い切って尋ねてみた。

 女の子達に。

 しかし、その声は震えていた。

 そりゃあそうだ、と自分でも思う。ショッピングモールで友達とあんなに楽しくショッピングをしていたら、いつの間にかこんなわけの分からない非常事態になってるんだから。


「は? いやぁね、こいつが、私の弟の目をぶん殴って、で、弟が私に助けてって言ってきたのよ。……それで来てみたら、まぁシスコンなもんよ」

「……え?」

 私が戸惑っていると、女の子の一人が……よく見ると中学生のようだ。……が、「はぁ?」と言いながら、言った。


「あんたって学習しないね? ま、この脳筋暴力弟の姉だから、馬鹿なんだろうけどね。

 ……つまりね、葵の弟が、あんたの、この、脳筋暴力男に目殴られて、痛がってたの。それで見兼ねた葵が、この脳筋男を懲らしめてやろうって思ったわけよ」


「は?」


 詳細は分かった。でも何でこんなことをするのかが、よく分からない。


 確かに、目を殴った悠矢も馬鹿だ。でも、懲らしめてやろうと思って、こんな、悠矢が悲しむような、そんなことをするなんて、意味が分からないのだ。

 脳筋だとか、暴力男だとか、訳の分からないことをぐだぐだと喋るのもいいとこだろう。


 それに、こんなに悪口を言われる気持ちは、私も体験したから、今の悠矢の気持ちはよく分かる。


「……何で、悠矢の悪口言うの? そんなことしたって、懲らしめにも何にもなってないじゃない」

「はぁ? あんたも随分弟を庇うもんだね。……あ、やっぱ家族だから?」

 女の子の一人が、クスッと笑いながら言う。

 家族だからって言うのもあるけど、そんなんじゃなくて……。


「違う! 私も、前、いじめられてたから。……悠矢の気持ち、よく分かるからっ!」


 私が大声で叫ぶと、一瞬女の子達は後ずさりした。

 だがすぐに体勢を整えて、意地悪い笑みをもたらして、言った。


「はぁ? 偽善者面して、ヒーローぶってんの?」

「しかも、姉だけ率先して助けてやってんのに、弟ったら何にも言わないんだもんね」

「あ~あ~。お姉さん可哀想~。脳筋も助けてやんなさいよ」


 一気に、飛び出してきた私の方ではなく、悠矢に攻撃の的が変えられる。


「うるせぇっ!」


 すると、大激怒した悠矢が、思いっきり私を突き飛ばした。

 道路に尻もちをついた私は、思わず悠矢の方に目を向ける。


 悠矢は、女の子の一人の胸倉を掴んでいた。


「お前っ、俺はともかく、何で遥乃まで!?」


「っは?」


 ものすごい形相で睨みつける悠矢に、胸倉を掴まれた女の子は動じず、高飛車な口調で言った。

「あんた、やっと姉かばったね、しかも突き飛ばしてまで」

「~~~っ!!」


 これには我慢できないといった様子で、悠矢は拳を振り上げた。

 流石にそれには動じたのか、女の子は目を見開いた。



「やめて、悠矢!」



 私は、尻もちをついた体勢から、即座に立ちあがって、悠矢の拳を掴んだ。


「っっ!!」


 悠矢が、驚いて私の方を振り返ってる。

 周りの女の子達も、それを見ている。


 急に、じんわりと涙が出てきた。

 何で泣いてしまうんだろう。

 今、泣いていいのは悠矢だけなのに。

 悠矢は、一滴も涙を流していない。


 大人になったんだな、悠矢も。


「貴方、達も、もう、帰って? あ、あとは、私が、悠矢と、ゆっく、り、話すから……」

 

 やっとの思いでそう伝えると、女の子達は、しぶしぶといった様子で、「は、はーい……」と呟きか返事か分からない言葉を口にして、退散していった。


「……ゆ、悠矢、もう、帰ろう?」


 私が手を伸ばすと、悠矢は、驚いた顔と、泣きそうな顔を合わせた複雑な表情で頷いて、私の手を握ってくれた。


 ◇◆


 家に帰ると、私達以外誰もいなかった。


 机には、『遥乃ちゃんと悠矢へ。 お買い物に行ってきます。静かに留守番しててね。』と書かれたメモ用紙が置いてある。

 はぁ、とため息をついて、自分の部屋に入った。



 ベッドの上に置いてある、お気に入りのクッションを掴んで、ギュッと抱き寄せる。何でか、一番落ち着くのだ。

 そして、落ち着いたのか、涙がぽろぽろこぼれてしまった。

 自分でもその涙の意味は分からなかった。

 悠矢が他の人に嫌なことをされたのが嫌だったのだろうか。もう暴力をふるってほしくないから、泣いてしまったのだろうか。

 思い当たる節が沢山ありすぎて、理由が分からない。

 

 すると、部屋の扉が開いて、悠矢が入ってきた。

「……悠矢」

 私は、意味もなくそう呼び掛けた。


「……何、姉ちゃん」

 珍しく悠矢が反応してくれた。

 返事はいつものようにぶっきらぼうだったけど、そこにどこか優しさが見えていたのは、私の気のせいなのだろうか。


「……ゆ、悠矢」

「何?」

 

 しかも、ちゃんと待っててくれてる。


 こんなに悠矢が優しくなったのは、ここ最近で初めてかもしれない。


「あ、あのね、私ね……」


 言葉が、するすると口から出ていく。

 何て言えばいいのだろうか。


 そんなこと考えもせずに、私の意志とは反対に、口からはどんどん言葉が出ていく。


「私ね……。もう、悠矢に人を傷つけてほしくないんだ……」


 悠矢は、じっと私を見た。そして、私のベッドに座って、私の隣に寄ってくる。


 こんなにも悠矢が寄り添ってくれたのは、やっぱり初めてだった。


「姉ちゃん……」

「ごめんね。……こんな、わがままなお姉ちゃんで……」

「…………」


 涙がこぼれて、シーツを濡らす。


「だってね、私、悠矢におせっかいばっかしたじゃん? それで結局キモいって言われて……。どうしたらお姉ちゃんらしくできるかって思ってやったことが全部空回りしちゃって。……ホント、姉らしいこと何一つしてやれなくて」

「そんな、違う、違うよ」

 悠矢は私の言葉に必死で反論している。

 散々キモいだの言ったくせに、ここだけ私に寄り添うなんて、ちょっと笑える話だ。

「違くないよ。……だって、悠矢がそう言ったんじゃん? そりゃあそうだよねって、思ったよ。本当の姉弟でもないのに、そんな姉ぶられたら、誰だって嫌な思いするよね」


「違うって!」


 悠矢が、思わず叫んだ。

「ち、違うって、何が……?」


「そういうところだよ」

「え?」


 いきなりの発言に、私は更に面喰ってしまう。


「……そんな、姉ちゃん、何にも悪くないのに、そうやってすぐ自分は駄目だって言うから……」

「駄目だって言うから、何?」


 いきなり喋り出したのにも関わらず、急に語尾が小さくなってしまう悠矢に、私は笑いかけ、「いいよ、かばわなくっても」と言う。


 何故か顔が赤くなってしまう悠矢は、「……とにかく、さ」と話題を変えた。


「冷蔵庫にゼリー残ってるから、食べる?」


 悠矢の珍しくスマートな発言に、私は「食べる!」と叫んだ。

「姉ちゃんって、ゼリー、好きなんだな」


 その顔が更に赤く染まって気がした。

 私は、「じゃあ早速!」とスキップで下に降りて行った。

 悠矢はため息をつきながら階段を一緒に降りた。



「そういうところが……なんだよ……」



 不意に、悠矢の声がした。

「んー? 悠矢、何か言った?」

 私が悠矢に話しかけると、悠矢は、「何でもないよ」と首を振った。

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