表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そばにいてくれてありがとう。  作者: けふまろ
10/31

第九話 いじめの原因。

「ねぇ、遥乃ってマジ有り得なくない?」

「虫の死骸、衣織先輩の机の中に入れたんでしょ? マジ最低。クズじゃん」


 いつの間にか、後輩までもが、そんなことを陰で言っていた。


 私は、学校内で、いじめられてしまっているみたいだ。

 体力調査の日、「記録をしてくれてありがとうございます。私、絶対良い記録じゃなかったですよね?」と、はにかみながら私の記録をしてくれたペアの女の子は、「マジ最低じゃん、遥乃」と私を罵る立場に回っていた。


 教室に入れば、誰もが会話を止めるなんて日常茶飯事。

 衣織ちゃんの周りには、いつも誰かがくっついて私から守っている。


 もちろん先生にはバレていない。

 皆巧妙な手口で、先生にバレないようにしているのだ。

 机の引き出しの中に、画鋲が沢山詰まっているなんてこと、いつものことだし。

 掃除当番でやらされるのは毎回面倒な仕事ばっかりだし。

 校庭掃除をさせられると、大抵私以外は先に帰ってしまうし。

 体育を終えて更衣室に入ると、私の着替えがなくなっているし。

 このままだと、水泳のときは下着までなくなっているんじゃないか。

 そんな気が気でならなかった。


「遥乃ちゃん」

 軽やかなリズムでスキップしながらこちらに向かってくるのは、美玖さんだ。

 現在、私に話しかけてくるのは、美玖さんだけだった。もちろん、悪意のある行動というのは分かっている。


「今日の掃除当番、代わってくれる? ほら、トイレ掃除なんて地獄でしょ? 特に花の乙女の私なんか入ったらすぐ汚れるじゃん? あんたみたいに」


 きゃはは、と高らかに笑う美玖さん。

「……だから、代わってくれる? これも、償いのうちの一つだよ?」


 私は、仕方なく頷いた。頷くしかなかった。


「じゃあね。……あと、給食の皆の分の配膳、宜しく」


 そう言って、来た時と同じように、軽やかなステップを刻みながら帰っていく美玖さん。

「……はぁ」


 ここに味方は誰もいない。

 平野君は、もう私を助けてくれないだろう。

 

 全校朝会で一躍有名人になった平野君は、あのあと、生活指導の先生に他校の生徒であるにも関わらず、こっぴどく叱られたからだ。

 しかも、何故月曜日のあの時間に、彼はあの場所に入れたのかと言うと、ただ単に、運動会の振り返り休日だったから、なのだという。


 なんだ、だったら人助けを優先するわけか。休日だからだよね。……そうだよね。平日だったら、こんな私のこと、助けてくれることなんてなかったもんね。


 ◇◆


 結局、給食の配膳も、トイレ掃除も、私が行った。

 掃除では、誰かが、バケツに入れた汚い水を、バシャッとこぼして、私の上履きが濡れてしまった。

 配膳は、皆の分を先にやるように命令されて、最後の私は、給食の量を、皆より半分以上減らされた。

 私の大好きな揚げパンは、四分の一にまで減らされてしまった。


 いじめは、毎日のように行われていた。

 言葉の暴力は日常茶飯事。

 悠矢は最近、私に攻撃をしてこなくなったけれど、けれど、いじめを見かけているのに、止めてくれない。

 そうだよね。いじめられている女子の弟だなんて言われているって話だもの、悠矢も原因の私に攻撃するよね、そうだよね……。


 そう思いながら、私は、人気の少ない放課後の廊下を歩いていた。

 綺麗に掃除された、六年生の教室前の廊下。……ここは全て私がやったんだけれど、何故か「すごい!」と自画自賛する気にもなれない。

「……はぁ。……何でこんな調子狂っちゃうんだろうな」


 ため息ばっかりついていても、何も始まらないんだよな。

 明日は、「おはよう」って叫んでみようかな。


 そんなの、無理かもな。

 そんなキャラじゃないし、勇気がないもの。


 せめて、もう少し、勇気があれば───。



「遥乃ちゃんのこと、何でいじめてんの? みくちゃん」



 え?

 思わず、私は声の方向を振り返った。


 そこは、六年二組。私のクラスだ。


「……何でって。知らない? 知ってるでしょ? 原因」


 私は、少し開いている教室の扉から、中の様子を覗いてみた。



 衣織ちゃんと、美玖さんだ。

 二人は、目を合わせている。

 衣織ちゃんは、真剣な目をしているけれど、美玖さんは余裕そうな顔で髪を人差し指に巻きつけている。



「知らないよ。遥乃ちゃんは優しい子だって前に言ったじゃん。……あの時は、ついカッとなって、最低って言っちゃったけど。……遥乃ちゃんは、あんなことしないよ」


 その言葉を聞いて、私は、胸が高鳴った。

 衣織ちゃんは、私のことを、信じてくれていた。

 その事実が、とっても嬉しかったのだ。

「でも、自分の言ったことは変えられないじゃん? 結局、衣織は遥乃のことを最低って言ったんだよ? そのことに変わりはないじゃない」

「そうだけど……。……でも、私、もう遥乃ちゃんが最低だとは思ってないよ」


 衣織ちゃんの言葉は、私の胸に深く刺さった。

 嬉しかったのだ。ただ純粋に。


「は? ちょっと衣織。今更何言ってんの? 遥乃は、あんたの机の中に虫入れたんだよ? そんな最低な奴を、まだ友達として扱っていきたいの?」


「そうじゃないよ。私、段々分かってきたんだ。

 ……いっつも遥乃ちゃんに話しかけるのはみくちゃんだけだし、給食の配膳も、毎日遥乃ちゃんが全部やってるし、トイレ掃除をしているのは、遥乃ちゃんだけだし。……誰も話しかけないんだよ? 遥乃ちゃんに。これっておかしくない?」


「っ……」

 美玖さんが言葉に詰まっているのが、目に見えた。

「何でこんなひどいことするの?」


 衣織ちゃんは、なおも美玖さんに迫っている。



 随分と間が空いた。

 やがて、美玖さんは、観念した、という風に、言った。


「……衣織も覚えてるでしょ? 平野晴樹が私達の学校に来たこと」

 美玖さんは、にやり、と笑った。

「え、そりゃあ覚えてるわよ。……だって、私の好きな子が、学校に来たんだもん」


 衣織ちゃんは、何を言っているのか分からない、という表情だった。


「……あの時、私、守られてる遥乃が、嫌で嫌でたまらなかったの。……多分晴樹は遥乃が好きなんだって、思ったわ。……だから、遥乃が生き生きして学校に来れないようにしてやったの。

 当然でしょ? 晴樹は女子に絶大な人気があったわ。……そんな子が好きなのは、地味子の遥乃って、……おかしいにもほどがあるでしょ?」

 美玖さんは、微笑んだ。

 

 何言ってるの? 平野君が、私のこと好きなわけないじゃない?

 美玖さん、そんな根拠もない話を真に受けて、私を……?


「……嘘、そんなことでいじめたの? 最低じゃない」


 突然、衣織ちゃんは、顔を真っ赤にさせた。

 手が小刻みに震えている。

 怒っている……のだろうか。

「……いいじゃん。最低じゃないよ。……晴樹のことが好きな女子が、どれほど遥乃に嫉妬したか分かる? 衣織はお人好しすぎよ。こんなもん、まだ序の口よ」


「は……? ちょっと、ひどすぎだよ。みくちゃん」

「全然酷くなんかないわ。……私が五年の頃したいじめの方がもっと酷かったじゃん?」


 やっぱり。

 五年の頃のいじめは、衣織ちゃんのせいじゃなかったんだ。

 美玖さんのせいだったんだ!


「……その時、晴樹君に助けてもらったこと、忘れたの、みくちゃん!」

 衣織ちゃんは、なおも、美玖さんに叫び続ける。


「また晴樹君に嫌われちゃうよ?」

「……だったら、見て見ぬふりしてる衣織も、嫌われるじゃん?」


 美玖さんは、必死に語りかける衣織ちゃんに、冷ややかな視線を投げかけた。

 だが、衣織ちゃんは、決してひるむことがなかった。


「……別に私は、……確かに、晴樹君の前で猫かぶっちゃって、可愛い私アピールすることあるけど……。……でも、晴樹君が、たとえ私を好きじゃなくても、幸せでいてほしいって思うんだ」


 よく言った、衣織ちゃん!


「……ちょっと衣織。良い子ぶりっ子しちゃ駄目だよ」

 ニヤニヤしながら言う美玖さん。


「本当は、結ばれたいって思ってるんでしょ? 衣織」

 笑いながら言う美玖さんに向かって、衣織ちゃんは頷いた。

「確かに、本音を言ったら、結ばれたいって思ってるよ? でも、……やっぱり、幸せでいてほしいな。……たとえ遥乃ちゃんと結ばれる運命だったとしても……」


 衣織ちゃん、何てかっこいいんだろう。

 平野君が、たとえ誰と結ばれても、幸せでいてほしいって、本音じゃなくても思っているだなんて。

 素敵だ。衣織ちゃんは。


「……それが、本当の好きだと思うから。私は」

「…………」


 にこやかに笑う衣織ちゃんに、美玖さんは何も言い返せなくなったのか、爪を噛んだ。


「だから、もういじめはやめない? こんなの、絶対、何も平和じゃないから」

「……!」


 衣織ちゃんの強さに根負けしてしまったのか、美玖さんは、しぶしぶ、といった様子で、俯きながら、言った。



「も、もうしないし……」



「……!!」


「良かった、みくちゃん!」

 喜びのあまり、私の顔は、思わず笑みを漏らした。

 衣織ちゃんは、みくちゃんに抱きついた。


「それでこそ、みくちゃんだよ!」

「……うん。……今度、遥乃に謝るね」

 美玖さんは、抱きついてくる衣織ちゃんの服を、ギュッと掴んで言った。


 その目に、涙が浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ