プロローグ
ある春の日。
ゆらゆらと揺れるブランコに乗りながら、真城遥乃は呟いた。
「ああ、暇だなぁ」
暇だからこそ、遥乃は、近くにある夜桜公園に来ている。
夜桜公園は、その名の通り、春に咲く桜が綺麗で、特に夜桜が最高に美しいと言われている。そんなに広くない面積だが、観光地としても有名だった。
だから今この時間帯、春休みまっただ中の四月三日は、昼からレジャーシートを広げている人達も少なくない。
桜の花弁が、ズボンの上に落ちてきた。
ちょっと笑いながら花弁をパッパッと払い落とす。そして、暗い顔になった。
今ここに、一人でブランコを漕いでいる遥乃が異質なほど、周囲は家族で埋め尽くされていた。
レジャーシートは、赤、青、緑、黄。様々だ。
そんな色とりどりなレジャーシートを、家族を見つめて、遥乃は呟いた。
「……何で……」
親は、キャッキャとはしゃぐ子供を、笑いながら見つめている。ビデオで撮っている大人もいた。
「……帰るか」
ブランコから降りて、入口に向かって歩き出す。
桜を、一人で見たい。
でも、この最高な場所でも、皆がワイワイしているから、いたくないんだよな。
最も、家族がいる場所が、遥乃は苦手だった。
遥乃には、本当の親がいないから。