ステータス、出ちゃったよ。
は?えっ、ちょっ……マジでステータス出ちゃったよ。嘘でしょ?待てよ、HPや魅力はまだ理解できるとして、MPとか攻撃力って何ですか!?
ここ、乙女ゲームの世界だよね?何故にこんな事に……しかも無駄に強いし。100歩譲って称号の八百万の神の所は良しとしよう。まぁ、それはそれで凄い事だけどさ、問題はこれだ。 神の暇潰し材料 って何だよそれ!
え、何?私って神様の暇潰しの為だけに転生させられたの? それだけの為に乙女ゲームに不要なステータスまで付けちゃったの?
何それ、どんだけ暇だったんだよ神……。
てか、MPってなんの為にあるの?まさか魔法がつかえるとか?ウケるww
何か、スキルの鑑定ってゆうので詳しく各項目を見れそうだから、それ諸々調べようかな。
ステータスの画面のMPの所を詳しく鑑定しようとした時、
「小林さん、準備出来たので行きましょう。」
丁度小金井先生が目の前に現れた。
ヤバイ!ステータス出たまんまだ!別に隠すつもりないけど何か後ろめたい!
「えっ、はい!今行きます!」
「そんなに慌てないで大丈夫ですよ。さぁ、肩を貸しましょう」
……あれ?先生何も言わない……もしかして、私以外の人には見えない?
「……先生、今私の前に何かありますか?」
「いや?何もありませんが。……あ、私の名前は小金井と言います」
やはり、見えないらしい。これは好都合だ。コソコソとステータスを確認せずに済むからね。
「あれ?小金井先生は、何故私の名前を知ってたんですか?」
私は前世の小説の記憶があるから、小金井先生の名前は知っていたが、向こうが初対面の私の名前を知っているのはおかしい。
「……ああ、ネームプレートを見たんですよ。中学の制服はネームプレートがあるから便利ですよね。」
なんか変に疑ってすみません。そういえば、確かヒロインもこうして保健室に来るイベントがあったなぁ。あの時は、高校の制服にネームプレートが付いてないから、名前を呼び合うなんて事は無かったはず。……私ゲームにも小説にも関係ないキャラのはずなんだけど、ヒロインよりもフライングしてる?
取り敢えず、ステータスの事とかイベントの事とかは放っておいて、私の方に肩を差し出したままの美形さんに愛想笑いをして車まで連れて行ってもらう。
「うわぁ……」
思わず、顔が引き攣りこんな声が出た。
目の前にあるのは資産家の方や売れている芸能人等が愛車とするような黒塗りの高級車だった。
「さぁ、乗って」
その高級車の助手席を開けて私を乗せてくれる小金井先生。ああ、うん。忘れてた……小金井先生は確か大企業の次男だったね。そのまま就職したら絶対に成功してるのに、家業に縛られるのが嫌で、社長(父)と専務(兄)の仕事を少し手伝う代わりにこうして夢であった保健医になってたんだ。
こんな中からヤのつく人が出てきそうな車は今まで乗ったことがない。車内が汚れるのではないかと、ローファーに泥が付いていないか不安になる。
「小林さんの家は何処かな?」
「あ、えと、〇〇△△駅の少し東に行った住宅街です。」
「ああ、あの新しい家がたくさん建ってる所ですね。」
「は、はい。でも……私の家は昔からあるので新しくは無いですけど。」
「そんなんですか……、という事はお祖父さんやお祖母さんとも?」
「えと、母方の祖父母と両親、それに私と兄の6人で住んでます。」
「いいね。沢山の家族に囲まれて……。小林さんは幸せモノだ。」
「そ、そうですね。」
そういえば、小金井先生の家は祖父母も両親も仕事に追われ、歳の離れた兄も後継ぎとしての勉強に忙しく、業務的な言葉しか話さない使用人のいる大きな家でひとり遊びをしていた、という過去があるんだった。
「せ、先生は今、幸せですか?」
気付いたら、こんな事を言っていた。
小金井先生は少し考える素振りをしたあと、ほんの僅かに困ったような、悲しいような顔をして、
「……こうして、怪我した生徒を手当して先生をしている時が幸せです。」
先生をしている時が幸せ、という事は裏を返せば小金井 透として過ごしている時は幸せじゃ無いという事だ。この小金井先生の心の取っ掛かりを無くすのがヒロインだった筈。ヒロインと接触するまで先生が放って置かれるなんて、そんなの、嫌だ。こんなにも優しい生徒思いの良い人なのに。
「じゃあ、私は今先生を幸せにしているんですね。」
せめて、先生には周りに幸せにしてくれる人が居るんだ、という事を伝えたかった。
すると先生は一瞬目を瞬かせて、さっきの複雑そうな顔じゃなくて本物の笑顔でこう言った
「ありがとう」
あー、あれですね。さっきの言葉は少し自惚れすぎたというか、生意気だったカナ?それにしても、美人の笑顔は最強です。
あれですね、会話文は難しいですね。