96話「世界に響く者達」
9:世界に響く者達
・地区大会決勝戦。タッグ戦1が終了した。
「・・・では、行きましょうか。」
「そうですわね。」
ライラとキリエが席を立つ。
「・・・いよいよですね。」
「うう、状況が複雑すぎるよ・・・」
「落ち着きなさんなって。あんたが騒いだって状況は変わらないよ。」
ケーラ、シュトラ、ミネルヴァの3人を背に
ライラとキリエが控え室を後にする。
「今度は邪魔しないでくださいね。」
「・・・ま、まあライフが掛かっているのなら大丈夫でしょうが
それでも一応僕の体なので多少の手加減はしてくださいよ?
それに、向こうには俣野さんもいる。全国区のプレイヤーが二人・・・。」
姉妹が肩を並べて歩いていると、
「も~~~っ!!なんなのよ~~~~!?」
廊下の天井や壁に響くほどの声が前方から飛んできた。
「てぃ、ティラさん・・・」
前方から胸元を隠しながらティラとラモンが歩いてきた。
「あ、ライラくん。もうなんなのあの二人は~!」
「えっと・・・ごめんなさい。
でも男子高校生って基本あんなものですし・・・。」
「そうなの?」
「うちはエスカレータの女子校だからそういうの分からないんだよね。」
「そういうところもきっとあの二人には、
と言うか普通の男子学生には美味しいポイントなんだと思います。」
「なるほど。だからあなたはユイムに一目惚れしたというわけですわね。」
「え!?い、いや、そんなことは決して・・・!
初めて見た時でもユイムさんも僕と同い年の普通の女の子で
タイトル防衛を成し遂げるっていうすごい人だと思ってましたので・・・。
後々3年前のタイトル戦の映像見てキリエさんの妹で
X是無ハルトっていうすごい家の人なんだって知りましたけど・・・。」
「あら、ちゃんと私の試合も見てましたのね。」
「それはもちろんですよ。・・・あ、そろそろ行かないと。」
廊下に乾いた音を4つ響かせて4人の道が交錯する。
ティラとラモンは急いで控え室までの道を走った。
いつものペースだとラウンド1が始まって
20秒くらい経ってしまった頃に到着するのだが
あの4人の試合はちゃんと最初から見ておきたい。
控え室に入るとケーラがタオルを2枚用意してくれていた。
「はい、これも。」
「ありがと、シュトラちゃんケーラちゃん。」
「さてさて、様子はどうかな?」
シュトラから熱いコーヒーをもらいながらモニターに注目する。
丁度4人が舞台に上がるタイミングだった。
「では!これよりタッグ戦2を始めたいと思います!
山TO氏高校パラレル部からは
ユイム・M・X是無ハルトとキリエ・R・X是無ハルト!
萬屋高校チーム風からは俣野葵とライランド・円cryン!!」
「流石にここじゃチェンジの効果は切れないか。」
「ユイムさん、まさかまた戦えるとは思いませんでした。」
「えへへ、そう言ってくれると嬉しいな。
でも、悪いけど今日はライラくんは後回しだよ。」
「・・・ふん、愚妹めがかかってらっしゃい。」
「ってわけだライラ。俺達外野は久々に腕を競おうじゃないか。」
「俣野さん・・・分かりました。」
4人が言葉を交錯させる。
「では!見合って見合って・・・はじめっ!!」
号令と号砲。同時に4枚のカードが宙を切る。
「磁・行使!」
「炙・行使!」
姉妹同時にカードを発動させる。
キリエが磁力で砂鉄を捲き上げそれをユイムの炎が打ち破る。
と、ユイムがキリエに向かって突進する。
「な・・・!?」
「てやぁぁぁぁぁっ!!!」
キリエの眼前にまで迫り猫だましをしてから背後に回り込み
マグネットのカードを奪いながら両腕を背後に捻じ曲げる。
「マグネット・行使!」
そしてその状態で奪ったカードを発動させた。
「!?」
キリエが両腕を後ろに回された状態でさらにマグネットの効果で
義手の手の甲同士を強力な磁力で引き合わされる。
「くっ・・・!」
「油断したね、お姉ちゃん。」
そしてユイムがキリエの前方に回り込みその腹部に膝蹴りを叩き込む。
「キリエさん!」
「ライラ、悪いがお前の相手は俺だ。」
キリエの方に向かおうとしたライラを葵がねじ伏せた。
「くっ・・・!」
「忘れたか?俺は時間より速いってことを!」
「煌のカード・・・!」
ライラが何とか葵の手を払うがその直後には
背後に回りこまれて背中を蹴りつけられていた。
「サンダー・行使!」
懐からカードを取り出して発動・・・する直前に
その手からカードが奪われた。
「あ・・・!」
「お前のチームの奴がそのカードを使って
タキオン使いのプロを破ったのは知っている。だから使わせない。」
葵が再びタキオンを発動して時間を止めた3秒の間にライラを殴りまくる。
3秒過ぎると再び3秒時間を止めて懐から全てのカードを奪い、
襟を掴んで一本背負いを叩き込んだ。
「がはっ!!!」
3秒過ぎてタキオンの効果が切れると同時に鈍い衝撃が背中を走る。
直後3回目を発動してキリエの懐からカードを奪う。
ついでに胸も揉んでおき、
タキオンの効果が切れると一本背負いを打ち込んだ後のポーズに戻り
何事もなかったかのように取り繕う。
が、突如として懐に鈍い激痛が走った。
「な、なんだ・・・・!?」
懐のカードケースがバタバタ震える。
しかも接触面から恐ろしい速度で魔力が奪われていた。
「こ、これは・・・・・・くっ!!」
膝をつき、そのカードをつかみあげる。
それは蒼のカードだった。
「なるほど。そのカードを奪ってしまったのですわね。
お生憎様、空間支配系カードは選ばれたものにしか使えない。
喩え懐にしまっておくだけでもカードそのものが奪われてしまったと
理解をしてその魔力を奪いつくそうとする意志を持ったカード。」
「くっ・・・!」
葵が半分以上魔力を吸い尽くされた状態で蒼のカードを手放す。
と、カードはまるで生きているように宙を舞いキリエの眼前に来る。
そして頬ずりするようにキリエに身を寄せた。
「やばっ!!」
「蒼・解放!!」
ユイムが止めようとした瞬間それは発動された。
ユイムの、ライラの手が蒼い闇を彷徨い
目に映るすべての景色がダークブルーに染まっていく。
足の降りる地面も自分を見下ろす天井も
全て等しく蒼き闇の中に包まれていく。
「ここは私の世界。私が望めば光さえ停止し時間さえ歩みを忘れる。」
キリエの声が脳に直接響く。
いつの間にか奪ったはずのマグネットは
発動が中断されている上奪還されていた。
「う、動け!どうして動かない!?」
葵もまた手に握ったタキオンに発動を命じても全く意味がない。
今やキリエの意にそぐわない全てのカードはただの紙となっていた。
まず解除されることのないライフの効力も無力化されていた。
さらにライラの受けたダメージもいつしか消えていた。
そして対戦相手であるユイムと葵の体力と
魔力が恐ろしい速度で奪われていく。
これが世界に5枚しか存在しない空間支配系カードの1枚・蒼。
昨夜では屋外であり支配力が通常の半分程度だったからか
ライラの体を持つユイムでもある程度の自由が効いたが
この完全状態では体の自由どころか神経
、血管、電気信号までもが停滞しかかっていた。
そう、反撃どころか抵抗など微塵ほどの可能性もないはずである。
なのにユイムはそのライラの肉体から血煙を上げながら抵抗していた。
「そんな・・・!?」
「・・・ううううううう・・・・!!」
ユイムが右手を上げ背後にある黒板でも叩くように空間を叩く。
と、その場所から蒼い闇が歪んでいく。
そしてその右手は決して人間ではありえない形状に変貌していた。




