90話「ファーストステップ」
3:ファーストステップ
・いよいよ迎えた年内最後の地区大会。
ここで優勝した一校だけが全国大会に出場出来る。
「なんとか間に合ってよかったですね。」
「ええ。・・・自分でもどうして間に合ったのか分からないわ。」
山TO氏にはラットンが編入してきたため
ギリギリで地区大会に参加出来るようになった。
つい先日まで忘れられていたが公式大会には高校生しか参加できない。
今まで交流試合などでタッグ戦2に参加していたマリアとマリナは
まだ中学生であるため参加できないのだ。
そのためタッグ戦2に出る二人を用意しなければ
最悪また前回と同じ目に遭ってしまう。
そして、もうひとりは。
「こんなこと今回限りにして欲しいですわね。」
キリエだった。
不登校ゆえ忘れがちだがキリエも山TO氏の生徒。
出場資格は当然ある。とは言えタイトルホルダーが参加するのは
半ば反則に近いからかタッグ戦2に出場するらしい。
「姉妹でやってみたらどう?」
「え?僕とキリエさんでタッグですか!?」
「・・・何か不満がありまして?」
ティラからのアイデア、キリエからの睨み。
つい先日ティラ達に話した内容をキリエにも同じ日に話した。
驚かれると思っていたが7月にユイムと共に政府議会で
体のチェックをした際に半陰陽且つ人間ではない存在のDNAが
混じっていたことは判明されていてキリエにも報告が届いていた。
ブランチはその異様性を狙っていたのではないかという説まである。
確かにもしあの時のユイムがかつてのライラ同様の変貌を遂げていたら
事態はもっと難航していたかもしれない。
と言うよりだからこそあの時ライラは自分の体をビーストを使ってまで
徹底的に叩きのめしたのではないだろうか。
もし防衛本能から変貌を遂げてしまっても大丈夫なように。
そしてこの異常性に関してはステメラには報告されなかった。
当時はまさかブランチと繋がっているとまでは思われなかったろうが
それでもステメラにライラを渡してしまえば
何をされるか分かったものじゃない可能性があったから躊躇われたのだ。
とは言えブランチと裏で繋がっていたのだから
今から考えれば知っていた可能性は十分にあったのだが。
だからライラのDNAが混じったユイムとシュトラの受精卵は
今徹底的に調べられているはずだ。
場合によっては死産を装って処分される可能性もある。
それを止めることはキリエにも出来ない。
(今出来ることはあの子達を見守ることですわ。)
そしてシフトが決まった。
タッグ戦1は今までどおりティラとラモン。
タッグ戦2はキリエとライラ。
シングル戦1はシュトラでシングル戦2がラットン。
そしてシングル戦3がケーラとなった。
「た、タッグ戦2がおぞましいことになってるね。」
「現在二人しかいないタイトルホルダーの姉妹が揃ってるからね。」
「これ他のチームからしたらタッグ戦2が鬼門すぎるでしょ。」
味方の時点で散々な言われようだったが決まったものは仕方ない。
「・・・何だかまた私が勝てないようセッティングがされてる気がする。
これ絶対私が負けてラットンさんとか
ケーラさんにバトンが行くタイプだぁ・・・。」
シュトラが何やら悩んでいる。
確かに今までシングル戦1は重要なポジションであるためか
公式非公式問わず強豪が占める割合が多い。
「大丈夫ですよシュトラさん。
シュトラさんは実業団のエースに勝てたんですから。
あ、でももうあの時のような無茶はしないでくださいね。」
「分かってるよライラくん。喩え負けてでも無理はしない。
だってもうこの体はライラくんやユイムさんのものだもの。」
「しゅ、シュトラさん・・・そういうのはあの・・・」
「ヒューヒューだね。」
「見せ付けてくれるじゃないか。」
当然周囲にからかわれる。
そんな部員の様子をMMは難しい表情で見ていた。
あの時シャワー室でライラの語ったことを偶然目撃してしまった。
確かにあれだけ兄についての愚痴をメールで語っていたリイラが
大人しくなったのはいいことだが少し様子がおかしかった。
夏休みに一度久々に円cryンの家に戻ってみたが
そこで久しぶりに会ったライラはまるで別人のようだった。
妙に刺々しくてまるでどこかの誰かさんを思い出すみたいで。
そしてそれをリイラも承知の上でいるような態度だった。
また、時折X是無ハルトの姉妹が遊びに来ている様子でもあった。
記憶喪失のユイムと別人のようになったライラ。
この二人に関しては気がかりな点が多かった。
だからこの前キリエに相談してみた。
すると、二人に関しては政府議会から他言禁止の勅命があると言われた。
政府議会と言うスケールの大きな話が絡んでいるとまでは思わなかった。
しかしそうなれば下手に関わるわけには行かない。
そう思ってしばらくは様子を見ていたのだがそこであの話だ。
ユイムの語った話はライラの境遇そのままだった。
それに周りがユイムのことをライラと呼んでいる。
これはつまり二人が何らかの影響で入れ替わってしまったのではないか。
だから自分の知るあのライラは
まるで過去のユイムのような態度を取るのではないか。
だから円cryンの家の周囲は日夜問わずやけに警官が多いのではないか。
その結論に至った。それでも自分は飽くまでも知らない体で行くしかない。
様子から見て中等部メンバーは事情を知らない様子だし。
生徒達ならともかく聖職者である自分が法外を犯すわけには行かない。
だからライラの事は高等部の6人に任せて
自分は中等部メンバーの補佐に回ろう。
とは言えキリエには気付かれていそうだが・・・。
「ライラくん、久々のタッグ戦だけど大丈夫?」
「そう言えばそうですね。でもキリエさんとなら大丈夫ですよ。
伊達に姉妹名乗ってるわけじゃないですし。
もう9ヶ月近くも一緒に暮らしているわけですから。」
「ふ、ふん!私が蒼だけの女ではないことをお見せしますわ。」
「キリエさん、照れ隠しで意味不明になってますよ。」
しかし、本当に仲がいい。
1年前の今頃にはまたパラレル部が
大会に出られるなんて思ってもいなかった。
不謹慎ではあるがこれもライラがユイムとして
この学校に来てくれたおかげかも知れない。
・そして始まった地区大会。
前回同様優勝するには5回勝つ必要がある。
「お、おい見ろよあのチーム!」
「100年以上誰にもタイトルの座を
渡したことのないX是無ハルトが二人に、
全国大会個人戦3連覇を歴代で唯一成し遂げたミネルヴァ・M・Hル卍、
そして昨日行われた今年の個人戦の
ダークホースであるラットン・MK・Hル卍までいるぞ!?」
「公式戦でも非公式戦でも無敗のケーラ・ナッ津ミLクや
こないだの実業団との交流試合ではあのエイト・82式を破った
シュトライクス@・イグレットワールドまでいる!」
「と言うか無敗の選手多すぎだろあのチーム!!」
入場すると早くも野次馬やらひそひそ話やらが大量発生した。
「うわあ、私まで注目されてるんだ・・・」
「まあエイトはそれなり以上にファンも実績も持っている奴だからね。
非公式とは言え一騎打ちで勝てる高校生なんて
そりゃ有名になるに決まってる。」
「・・・き、緊張しますね。ここまで目立ってしまうと。」
「何言ってるんですの。あなたもX是無ハルトの一員。
婿入りするかしないかはともかくとして敗北は許しませんことよ?」
「大丈夫ですよキリエさん。
僕だってユイムさんの名誉を傷つけるようなことはしません。
それにキリエさんが一緒ですから安心できます。」
「・・・わ、私に頼りきりになるのも許しませんよ?」
「はい!」
たくさんの声や目を浴びながら
ライラ、キリエ、ティラ、ラモン、
シュトラ、ケーラ、ミネルヴァ、ラットン、MMが入場を終えた。
そして全選手の入場が終わると早くもトーナメント表が発表された。
「・・・・あれ?」
ライラがその中の名前を1つ発見して声を上げた。
「萬屋高校・・・って、」
「そうだ。俺達のチームだ。」
と、そこへ見慣れた顔のメンバーがやってきた。
「チーム風・・・」
「久しぶりだな。」
リーダーである葵が声をかける。
当然葵や飛鳥はライラの事情を知っているため
手前にいるユイムをライラとして挨拶している。
それもライラは分かっているためか昔ながらの視線で応えた。
「って!」
「・・・・や、やあ。」
チーム風のメンバーには自分の姿もあった。
つまりあれはユイムだ。
「あ、あなたも参加するんですか・・・?」
「そ、そうなっちゃったみたい。」
ユイムが困った表情でライラを見やった。
いや、表情が硬くなる原因としては
その隣にいて自分を睨む姉なのだろうが。
「・・・・・」
その二人の邂逅を見てMMは自分の考えていることが正しい事を確信した。
「そういうわけだ。決勝で会おうぜ。山TO氏。」
葵が手を振り、チーム風は彼らの控え室に去っていった。
「・・・思わぬ強敵ですわね。」
「ええ、きっと前回と同じようにはいきませんね。」
葵、飛鳥、ユイムとタッグ戦1の二人に関しては戦い方も見慣れているが
新たに補充された二人に関しては一切不明だ。
きっと今までにない激戦になるだろう。
彼らと決勝で戦える事を祈ってライラ達も控え室に向かった。




