9話「S@Yワールド」
9:S@Yワールド
・大会翌日。
やはりというか当然というか参加して優勝したことで
クラスメイトからはちやほやされた。
「さっすがユイムちゃんだね。」
「いきなり優勝とは・・・。」
「いや、そんなことは・・・」
「・・・・・。」
その中窓際の席に座るシュトラに気が付く。
「あの、イグレットワールドさん・・・。」
「何ですか?どうせあなたほどでは
私を下すのは何てことないことなのでしょう。」
「・・・イグレットワールドさん・・・。」
それ以上シュトラは何も口にしない。
「はーい、みんな席についてー。」
MMが入ってきてしまったため
それ以上は会話も出来なかった。
「え?シュトラちゃん?」
授業中。
こっそりと隣の席のティラに聞いてみる。
「そう。あの子パラレル強いよね?
どうしてパラレル部に入ってないの?
後昔の僕とは・・・」
「・・・あの子も元々パラレル部だったの。
でも前にユイムちゃんが部員をほぼ全員病院送りにした時に
あの子一人だけその日休んでいたの。
前々からシュトラちゃんはユイムちゃんと仲が良かったから
それで疑われて・・・。ユイムちゃんもそれから部活に来なくなったから
あの子もすっかりパラレルから身を引いちゃって・・・。」
「・・・そうだったんだ。」
あの少女は自分に近いところがあったのかもしれない。
それにもし自分がこのような目に遭わず他の誰かが
ユイムに成り代わっていて自分の知る彼女と違う人物になっていたら・・・。
そしてそれを身近で感じ取ってしまったら・・・。
彼女が自分を避けてしまうのも分かる気がする。
それを試すために昨日の大会に出たという可能性も・・・。
「・・・何だかさ、ユイムちゃん。
深く考え込む癖ついてない?」
「え?」
「真剣に考えてくれるのは嬉しいけど
ちょっと周りの人達を心配させちゃうかも。」
「・・・ごめん。」
「X是無ハルトさん、KYMさん。
先生としては授業中に長話するあなた方の方が心配なんですけどね。」
「あ、す、すみません・・・。」
赤面して平謝り。
後ろの方からラモンのため息が聞こえたような気がした。
・放課後。
部室に行く前にシュトラのところへ向かった。
「・・・何か用ですか?」
「イグレットワールドさん。パラレル部に戻ってきてください。
あなたの力が必要なんです。」
「名前だけならいいですよ。退部はしていませんからそのままで。」
「そうじゃないんです・・・!」
「大会でも団体戦はあなたがアンカーをすれば大丈夫でしょう?」
「イグレットワールドさん!」
「・・・どうして、どうして私を置いて手の届かないところへ
行ってしまったというのにもう何もかも手遅れになった時に限って
私の傍に戻ってきたんですか・・・!?」
「・・・それは・・・」
「記憶のない今のあなたに言っても卑怯だというのは分かっています!
それでもあなたは私の憧れでした・・・!
周りの誰が何と言おうとあの頃のあなたは本気でパラレルを楽しんでいました。
自分のしていることが楽しくて楽しくて充実しているようで輝いて見えました!
それなのにやっと手の届く場所に戻ってきたあなたは
罪滅ぼしと言うか必死に何かを演じようとしているようで
まるで別人のよう・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・すみません。記憶喪失というのがどういうものか
詳しく知らないくせにこんな事を言ってしまって・・・。」
「・・・それは、僕にもよくわからないよ。
そして、君の言葉は僕に勇気をくれた。」
「ユイムさん?」
「・・・来て。話があるんだ。」
・スカイカー車内。
行き先を設定せず上空で停止したまま。
「え・・・ライランドさん・・・?」
「そう。僕はユイムさんじゃない。
あの日ユイムさんと戦ったライランド・円cryンなんだ。」
「いったいどうして・・・・」
「あの日僕はユイムさんに勝ってしまった。
でもそのあと事故が起きた。
突然ユイムさんの魔力が暴走して舞台となっていた船は沈没。
気付いたら僕はユイムさんの体で海に流されていたんだ。
僕の手にはチェンジのカードが握られていた。
きっとそれで僕はユイムさんの姿にさせられたんだと思う。
そしてその第一容疑者が本物のユイムさんなんだ・・・。」
「・・・そんな・・・」
「ユイムさんのお姉さん・キリエさんはユイムさんを止めるために
両腕を失った。そして僕を拾ってくれた。
でもキリエさんは本物のユイムさんを見つけたら・・・殺すつもりでいるんだ。
だから僕はそれより前に本物のユイムさんを見つけ出して救いたいんだ!
そのためにもパラレルを通して本物のユイムさんの情報を集めているんだ。
・・・黙っていてごめんなさい。そして騙していてごめんなさい・・・!」
「・・・・・・・・・このことは他に誰が?」
「・・・キリエさんとカードハンターのマサムネさんって人が・・・。」
「キリエさんはあなたの目的を知っているの?」
「・・・隠しているつもりです。
でもいつ気付かれてもおかしくはありません。
だって、昨日キリエさんが大会に出て僕と戦ったのは
僕の実力を探るためだから・・・!
キリエさんは義手を準備しているそうなんです。
昨日は両腕がないというかなり大きなハンデがあった状態でしたから
何てことはありませんでしたがキリエさんはあのユイムさんのお姉さん。
偶然ユイムさんに勝てた僕ではきっと彼女の本気を止めることは出来ません・・・。」
「・・・でも2対1なら勝てるかも知れない・・・ということかしら?」
「え・・・?」
「・・・いいわ。あなたに協力してあげる。
私だって本物のユイムさんが心配だもの。
ちょっと複雑だけど、それでもあなたが偽物で良かった。
パラレル部にも顔を出すわ。
私の方でもユイムさんを探してみる。
その代わり・・・・その代わり絶対にユイムさんを助け出して・・・・!」
「・・・約束は出来ません。でも、僕は命を懸ける所存です。」
「・・・あなたもあの人が好きだから?」
「・・・はい。例え助けた先で二度と会えなくなっても・・・」
「・・・侍だね。」「は?」
「昔あった日本っていう国のさらに昔に侍って人達がいてね。
自分がどうなろうとも相手を守りぬく立派な人達なのよ。
・・・今のあなたにぴったし。」
「そんな・・・僕なんて・・・。」
「・・・そういえばふと思ったんだけどさ。」
「はい?」
「・・・あなた普通に体育とかでも同じ更衣室で着替えてなかった?」
「・・・えっと、」
「それどころか一回見たけどティラ達と一緒にシャワー入ってなかった?」
「・・・・えっと・・・・」
「と言うか何よりあなたユイムさんの体見て触って自由にしているんじゃ・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・まあ、お年頃の’男の子’だからしょうがない部分もあるんだろうけれどさ、
とりあえず私の方はあまり見ないでね。」
「・・・・・・・はい。」
「あと、やっぱりキリエさんには言わないほうがいいんだよね・・・?}
「あ、はい・・・。キリエさんに嘘をつくのも引けますが
目論見がバレてしまったら流石に適わないので・・・。」
「・・・うん。分かったよ。でも今日はもう帰ろうか。」
「はい。・・・・あ、」「どうしたの?」
「えっと、ティラさん達が部室で待ってるかも・・・」
「・・・はぁ。じゃ、行きましょうか。」
「・・・はい、すみません。」
それからシュトラも追加してついにパラレル部は5人になった。
「・・・まさかまた動き出せる日が来るとはね。」
職員室。
部員5人から受けた申請書を見てMMがため息をつく。
「これで廃部にはならないんですよね?」
「・・・まあね。でも上が納得するとはなぁ・・・。
この1年間で無事故でそれなりの成績を修めたら大丈夫だと思うけれど。
ただそうするにも資金がねぇ・・・。
使えるカードが個人で所有しているカードだけじゃ流石にきついでしょう?
長持ちするとは言えカードも消耗品なわけだし・・・。」
「・・・そう・・・ですか。」
「何とか来月の地区大会で優勝できれば
少しは予算も降りると思うけれど・・・。」
「なら、出ましょうよ!みんなで地区大会に!」
「・・・ユイムさん。あなたがいいならいいけれど・・・いいの?」
「何がですか?」
「・・・多分高確率でその大会の日はあなたの7回目のタイトル戦の日よ。」
「・・・え?」