71話「パラレル収束する日・後編」
15:パラレル収束する日・後編
・政府議会。
キリエがそこへ呼び出された。
今やパラレルカードは政府議会にとって必要不可欠な要素であり
その第一人者としてある程度の権力を与えられている
X是無ハルトの当主であるキリエは何か事件の度に呼び出されている。
しかし泉湯王国における性殺女神の件は
当初は呼び出されなかった。
ライラ達が出発してからアルナカタタによって密告された。
それとは逆にここ最近はよく呼び出される。
「今日は何の用ですか?」
「ライランド・円cryンくんは元気かな?」
激しく絞った眼光で見やるキリエを挑発的に見下すステメラ。
その視線の交差を申し訳なさそうにアルナカタタとマサムネが見る。
「どういう意味でしょうか?」
「そのままの意味だよ。血を吐いて倒れたそうじゃないか。」
「それをどこで聞いたのですか?」
「民子・J・ミドリュエスカラナイトはHル卍で預かっている子だ。
彼女から聞いたのだよ。彼が入院したとね。」
「・・・・・」
予想は出来ていたがあの機械仕掛けの少女はライラの事を知っていたか。
「退院まではまだしばらく掛かりそうですわ。
この半年で彼を巻く環境は余りにも変化してしまいましたので。」
「ストレスという事か。彼は純情だな。
普通あの年頃の少年が少女の姿になれば
ストレスなど言葉すら忘れてはしゃぐだろうに。」
「男子の誰しもがあなたのような貪欲というわけではありませんわ。
あまり彼を言葉で汚すのはおやめになって下さりませんか?」
「失礼。そういうわけではないのだよ。
私も今は中年だが彼のような少年期が
あってつい羨ましくなってしまっただけだ。」
「・・・本題は何ですの?」
「そう睨まないでくれ。ライランドくんの容態が気になったのも本音だ。
ナイトメアカードの効果でまだ体が入れ替わったまま。
そんな状態でもし片方に命に関わるような事態が襲う事があれば
保護観察をしている我々が申し訳ない。」
「・・・・・・」
薄々この男には裏があると勘づいていた。
だから泉湯王国での出来事は大まかにしか説明していない。
少なくともチェンジで交代した人物の片方が死ぬと
もう片方も半死半生となることは伝えていない。
当然もう消滅したとは言え救済のカードや
ブランチに奪われた生贄のカードのことも。
性殺女神はブランチが生み出した力であり
それを破滅でライラが葬ったとだけ。
虚偽の報告はしていない。真実に違いはない。
ただ都合の悪い箇所を隠して報告しただけだ。辻褄も合う。
だから、何もかもを見透かしているようなあの目は
こちらの動揺を誘うための虚勢に過ぎない。
「・・・・・・」
しかし、それにしては余裕がありすぎる。
見透かしているというよりは見放していると言う感覚・・・。
まるでどのような事態が起きても全く問題ないと言わんばかりの・・・。
(・・・この男はどこまで裏を持っているのか。
大量の機械人形をあのラットン同様に暴走を騙って向かわせるつもり?
それとももしやこの男も手にしているのだろうか?悪夢の力を。)
「そう言えばそちらは大丈夫ですの?」
「何のことですか?」
「娘君が意識不明だと聞いていますわ。」
「ああ、あれは勘当したようなものです。
私も父親なのでね、多少の心配はしますがあの子ももう20で
家を放って実業団入りを果たしている大人。
あまり手をかけるつもりはないよ。私も暇人ではないのでね。」
「・・・淡白ですわね。」
「男というものは感情より理屈を優先させる生き物だよ。
尤も彼の場合はどっちだか分からないがね。」
「・・・・失礼しますわ。」
「おや、失言だったかな。
すまないね、興味の先を求めるためならつい他人の思慕が見えなくなる。
なんせ彼は余りにも珍しいケースだ。
・・・君はどっちだと思うのかな?」
「Hル卍大臣。
これ以上彼を侮辱するのであれば私はこのカードを使わざるを得ませんわ。
貴方が言うように女は感情を優先させる生き物なので。」
キリエが懐からブルーのカードを出す。
「っと、それは本気で困る。私にはほとんど魔力がないんだ。
ライフも適用されていないここで使われたら溺死してしまうよ!?」
「・・・・演技ではないようですわね。」
カードを懐に戻し、この場を去った。
「・・・・ふう、」
ステメラが冷汗を拭う。
同時に傍らの二人も深い息を吐いた。
空間支配系など先出しされてはいくら聖騎士たる二人であっても敵わない。
しかし二人の吐いた息は安堵の意味も含まれていた。
ステメラ本人だけという状況ならば
空間支配系で十分対処可能かもしれないと。
・病室。
「・・・そんなことが・・・」
「そう。私は母を殺し私を殺してこのような姿にした張本人を探していた。
あの男は逆光を使って過去に遡れば見つかると言っていた。
そして見つけた。2年前にブランチによって魔力を暴走させられて
その影響で私の母親と私を殺した人物、それはユイム・M・X是無ハルト。」
「・・・ユイムさんが・・・」
「あなたの経緯は父親から聞いたわ。
あなたには悪いけどでも、先に言っておきたかった。・・・これを。」
「これは・・・?」
「私の自爆装置。今日中に事を片付けるつもり。
だから日付が変わったらこの装置を作動させるといい。
・・・あなたに出来るのなら今この場で作動させてもいい。
でも、それが出来ないのなら黙っていて。
私は、私自身の復讐をする。そのためにユイム・M・X是無ハルトを殺す。」
「あ・・・!」
そしてラットンは窓を開けた。
同時にライラは1枚のカードを手に握る。
「・・・破滅のカード・・・」
「僕はユイムさんに危害を加えるものは誰であろうと
何であろうと許すつもりはありません。」
「・・・ならやろうか。」
ラットンがブースターを起動させてライラはスカイカーを呼ぶ。
そして寝巻きのままスカイカーに乗り込んで空をラットンと共に併走した。
・Hル卍居住。
「何?それは本当か?」
ステメラが私服に着替えつつ民子から傍受された音声を確認する。
「はい。ライラさんがラットンを追いかけています。
そのラットンは旧帝都向けて飛行中です。
が、その進行ルートにはここが含まれています。
万一に備えて避難しておいたほうがいいかと。」
「・・・いや、そういうわけにもいかない。
オメガは今固定作業中だ。せめて後一晩は動かせない。
ラットンめ、間の悪いことをする。」
「・・・如何なさいますか?」
「まだ機械人形があったな?可能な限り配備しておけ。
そして領域審判としてラットンもライランド・円cryンも撃ち落とせ。
先にユイム・M・X是無ハルトを始末して彼を無効化するつもりだったが
都合がいいかもしれないな。とにかくここへ近寄らせるな。」
「分かりました。」
民子からの連絡が切れる。
「ちっ!せっかくあの小娘を次会った時に
始末しようと思っていたと言うに!
もしここで頓挫してみろ・・・!チャンスがないばかりか私の野望が・・・」
「・・・お困りのようだな。」
「・・・お前か。今更私のやり方のケチを付けに来たか?
暇だ暇だとは思っていたが本当に暇なんだなお前は。」
「それで、どうする?力が必要か?」
「・・・いいだろう。ここは共同戦線と行こうか。」
ステメラが邪悪な笑みを浮かべる。




