表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラレルフィスト~交差する拳~  作者: 黒主零
3章:鋼鉄の謀略
70/158

69話「ひとりぼっちの人形」

13:ひとりぼっちの人形


・脳裏を焼いた最初の記憶は

12年前に起きたとされるスカイシップ墜落事故だ。

ミドリュエスカラナイトの人間の多くがこの事故で息を引き取った。

いや、実際死体が残ったのはごく一部だった。

「・・・・・うう、」

民子は生きていた。

しかし肉体の大部分を失いもう長くはないだろう。

指一本動かせないどころか動かす指も残されていなかった。

見たことない量の血液が自分を濡らしている。

視界に広がるは街1つを焼き払わんばかりの大火災。

全長6000メートルもの飛空艇が墜落すれば当然の帰結だ。

「・・・・くっ!」

激痛を超えた激痛がまるで体中を拘束しているようだ。

四肢が全く動かせない。

骨は砕かれていて力を入れているのに意味を成さない。

終わる時は静寂だけしか残らないと聞くがむしろ五月蝿いくらいに騒々しかった。

「・・・これは都合がいい。」

声がした。もしかしたら激痛が生んだ幻聴かも知れない。

姿が見えた。

それも天使などと言う幻覚を信じたかっただけの妄想かも知れない。

半分以下になった体重の持ち主が抱え上げられた。

「改造用ポットを。」

声がした。次いで自分は金属の塊に放られた。

洗濯機のように中身が空洞でそこに投げ込まれた。

「・・・・ここは、」

ありえない状態だった。声が出る。目が見える。

ありえない形相だった。首から下が金属だった。

「おめでとう。君は無事私の手駒として生まれ変われた。」

正面。そこにその男は立っていた。

当時4歳でしかも機械の体になったとは言え裸体を晒されていた。

否、妙に足までの距離が長くそれまでに谷間のようなものが見えた。

この時点で十代半ばから後半程度の機械の体が与えられていた。

もはや生身の部分はほとんどない。精々脳くらいだろう。

その脳にも色々と細工が施されているのか妙に思考回路がクリアだ。

様々な知識が湯水のごとく脳裏を埋め尽くしている。

まるで旧世紀のパソコンのようにわずかに疑問を持っただけで

すぐに答えが検索されて納得させられる。

男に声をかけられてから5秒で自分が置かれたこの状況が把握された。

この男の名はステメラ・I・Hル卍。

政府議会内閣府所属対外大臣。そして自分を回収して改造した張本人。

自分含めて人間から機械人形に改造されて無事起動した個体は一人だけ。

だからステメラの表情は純粋に嬉しそうだった。

「まず聞こうか。君の名前は何かな?」

「民子・ミドリュエスカラナイト。」

「そうか。だが本名ままでは少し物足りない。

君はJ型機械人形だ。だからミドルネームにJを加えて

民子・J・ミドリュエスカラナイトと名乗り給え。」

「・・・はい、分かりました。」

この男の言葉を拒むという選択肢は発想自体用意されていなかった。

それから男の実家であるHル卍の家に案内された。

その間に自分についての情報を無意識に収集した。

演算機能と無線通信機能が付いた以外は普通の人間と大差ない性能らしい。

ただ魔力に関しては4歳だった自分のものがそのまま使われるため

パラレルカードは多用できない。一日1枚使えるかどうかといった程度だ。

しかも使えばその日はまともに機能できない。

他の0から作り出された機械人形と比べると大幅に機能面は劣っているが

外見含めて人間そっくりに作られた自分は

そういう面での使いやすさはいいらしい。

実際人工肌をコーティングされた今の自分は

どう見ても中高生程度の少女だ。

そんな今の自分の仕事は現在8歳となっている彼の長女の飼育だった。

心身ともに人類でもトップクラスの強者にするために

8歳にするとは思えない英才教育とサバイバル生活を強要していた。

自分が彼女の飼育係に選ばれたのは

先代の飼育係が耐えかねて”自殺”してしまったからだ。

「はあ・・・・はあ・・・・」

幼女が両手足に5キロずつの錠を付けられた状態で

庭で機械人形と戦っていた。

機械人形は容赦なくハンマーで幼女を殴り飛ばす。

「ぐふっ!!」

壁に叩きつけられコンクリートの壁が凹む。

が、幼女は怯まず壁を蹴って跳躍。

機械人形の頭にアームハンマーを叩き込んだ。

幼女の両腕と機械人形の頭が同時に砕ける。

「うあああああああああああああああ!!!」

着地して今度はひたすら砕けた拳で機械の体を殴り続けた。

記録によれば彼女はこれを毎日8時間繰り返しているらしい。

次の8時間を勉学に、残った8時間で食事や睡眠を担う。

自分の役目は本当に彼女が死にそうになったら治療装置にブチ込むことと

飲食の配膳と片付け程度だ。

次に勉学の時間。両腕が砕けたまま6時間ぶっ通しで英才大学の講義を

映像で聞かせられて問題が提示されるとその問題を解き

間違っていたら96度の熱湯を頭から叩きつけられるか、

機械人形に指で穴を掘られるか、

顔を彫刻刀で刻まれるかの罰が与えられる。

それから4年が過ぎた。

彼女、ミネルヴァは初めて家の外に出されて地区大会の個人戦に参加した。

パラレルの試合でありながらカードの使用を禁じられた状態で。

当然ライフの効果で傷は負わないものの

容赦ないカードの攻撃が襲って来る。

しかしそれら全てを乗り越えて

出場選手すべてを徒手空拳だけで粉砕して無事優勝。

それからはカードの使い方を徹底的に教わった。

ずっと出されていた食事には基礎魔力を上げる薬が使われていたからか

一度もカードを使ったことがない状態でありながら

並みの選手の数倍以上の魔力になっていた。

ステメラの財力で数百枚以上のカードが与えられ

それら全てを完全に使いこなせるよう特訓が始まった。

隔週の土日に行われる地区大会を除いて再び鬼のような日々が始まった。

12歳になったことで今度は男の相手の仕方も叩き込まれた。

ステメラに議会で歯向かった議員を

その体で相手した後にカードでひたすら叩きのめす。

そんな中同性も相手するようになった。

その相手は自分だった。

技術の革新によりそろそろ次世代の機械人形が作られるようになり

旧性能の自分はそろそろ用済みなのだろう。

そこに悔恨は一切なかった。既に人間の心など失っている。

どうせならこの少女に女同士の戯れ方を教えてから自分を終了させよう。

そう思ってその日を迎えた。だが、その時は訪れなかった。

彼女は自分を壊さなかった。

「どうしたのですか?」

「・・・やめだ。あんたはあたしに一番長く付き合ってくれた。

勉強で習った。友達は見捨てるなって。あんたはあたしの友達だ。」

それからミネルヴァはかねてから貯めておいた誕生日プレゼントとして

ステメラに民子を要求した。

「この子をあたしの専属メイドにしろ。じゃなきゃこれ以上何もしない。」

「・・・そんな脅迫などしなくとも

年に1度はお前にモノをくれてやりたかった。

12年分のモノがその古臭い人形だというのならば喜んで差し出そう。

お前の好きにするがいい。」

あっけなく自分の所有権はステメラからミネルヴァに移された。

それから3年。

特訓メニューの全てを終えて

15歳になったミネルヴァは高校に通うことになった。

当然パラレル部に所属することになった。

実力は極めて高くタイトルに出れば

X是無ハルトですら敵ではなかっただろうが

「そんな低俗なものなどどうでもいい。今は経験を積むのだ。」

と言う指示から一切参加しなかった。

代わりに個人戦では3年連続で全国を制覇してきた。

しかし代償として練習相手となった

チームメイトは全員病院送りとなってしまった。

ミネルヴァが卒業して実業団に入った頃、

ユイムは魔力暴走事故を起こして初めてブランチと接触し、

ライラはユイムの試合を見てパラレルに熱中し出して

そしてラットンは新世代型機械人形の実験材料に選ばれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ