67話「王者陥落」
11:王者陥落
・夜。
ライラがX是無ハルト邸に戻りアルナカタタから事情を聞いた。
「・・・ラットンさんにはそんな裏が・・・」
「君から見てあの機械人形はどうだったかな?」
「・・・乱している部分はありましたが
彼女を人間以外の何かだとは・・・。
失礼な言い方ですが前までのミネルヴァさんの方が余程・・・。
それにそれ以上に今の僕の方が何もありませんから・・・」
「?それはどういうことかね?」
「僕はユイムさんを元の姿に戻したい・・・。
今はその一心だけで生活したりブランチと戦っていたりします。
でも、それ以外の僕は空っぽなんです。
ユイムさんにはシュトラさんがいますし。
きっとユイムさんと元の姿に戻ったらもう僕には何も・・・。」
「あなた、まさか一件落着したら私の前から姿を消すおつもりですの?」
「え?」
「確かに最近はあなたとの絡みも少なくなってきていますが
それでも私にとってはあなたはもう立派な家族。
妹さんと一緒にこの家に引き取ってもいいくらいですわ。
それともこの家では不満がありますの?」
「・・・キリエさん・・・。」
「あなたは空虚でも透明でもありませんわ。
もう少し自信を持ちなさい。
今のあなたにしか出来ないことは山ほどありますわ。」
「・・・はい。」
しかしその目は頷いていなかったのをキリエは見逃さなかった。
「まあ、そういうわけで今度からは
あの機械人形へは君から近付いちゃいけない。
何かあったら私かキリエさんを呼ぶように。いいね?」
「・・・はい。」
そうしてアルナカタタは帰っていった。
・浴槽。
「あの、」
湯船に浸かるライラ。
「どうしてまた一緒に入ってるのでしょうか?」
「何か不都合でもありまして?」
隣にはキリエがいた。当然裸である。
義手は充電中なのかそれとも防水加工されていないのか
外されていて久しぶりに断たれた面を見せていた。
「そういうわけではありませんが・・・。」
前回一度だけ一緒に入った時は気まずい雰囲気のまま終わってしまった。
当然あれから数ヶ月も経っているから日常的にはその空気は解けていた。
しかし同じ状況になってしまえば這い上がってくるような追憶に襲われる。
あの時と同じ静寂が湯船の波紋を目立たせている。
「あなた、あの時よりもひどい顔をしていますわ。」
「え?」
「まるでユイムを救えば後は
もう消えてもいいと思っているようなひどい顔。」
「・・・そんなことはないと思いますけど・・・」
「なくありませんわ。
あなた一度でもライランド・円cryンが喪失したときのことをお考えで?
ユイムとタイトル戦を行った時もそうですわ。
自分の体にあれだけ強烈な一撃を叩き込んで・・・。
予め強力な医療施設が予約されていなければあなたもユイムも
あのまま死んでいたかもしれないんですのよ?」
「・・・ユイムさんは死にませんよ。僕が守りますから。
・・・けど泉湯王国でそれは破られてしまった。」
「そういえばケーラさんから聞きましたがあの時もあなたは
もし他に手段がなければ救済のカードで自分を差し出して
ユイムを治そうとしていましたわね。
そんなことをして誰が喜ぶと思っているのですか。」
「喜ぶとかそういうんじゃありませんよ。
僕はユイムさんのためならば修羅にもなってみせます。
ユイムさんをブランチから救おうとしていた時はキリエさんだって
ビーストを使ってどうにか倒そうとしていました。
ヒカリさんが自らの命を使ってユイムさんを生き返らせた時は
内心喜んでしまいました。・・・最低でしょう・・・?」
「・・・あなた、最近どうしましたの・・・?
少しおかしいですわよ・・・?意固地になりすぎではありませんか?」
「・・・キリエさん。本当の僕はこんな感じなんです。
本当ならユイムさんに成り代わっていい人間じゃない・・・。
あの時チェンジで本物に戻った後に僕は
さっさとユイムさんから離れれば良かった・・・。
そうすれば泉湯王国でユイムさんが死ぬこともなかった。
ユイムさんのお友達であるティラさん達を奪うこともなかった・・・。
僕が・・・僕なんかがこうやってユイムさんの体を自由に使っている、
そんなことは本来許されちゃ行けないんです・・・。僕は・・・」
「もうおやめなさい。
それ以上はあなたを信じている私やユイム、
それにあなたの仲間達への侮辱になりますわよ。」
「でも、ティラさん達をまだ僕は騙し続けているんですよ・・・!?」
色々な表情でグチャグチャになったライラの顔が
必死に自分に何かを訴えかけてきていた。
それが何なのかはきっと本人にも分かっていない。
氾濫しすぎている気持ちに融通をきかせられていない。
だから、いま自分に出来ることは・・・。
「ライランドくん。」
「え・・・?」
この半年で初めてその名を呼んだ。
「あなたはもう十分に戦っています。傷ついています。
結果的にあなたはユイムや泉湯王国の方々を救ったヒーローです。
けど忘れないでください。あなた自身も被害者だということを。
だからそんな抱え込まないで、自分を蔑ろにしないで。」
「・・・・キリエさん・・・・」
「傷ついて壊れてしまいそうになったら逃げてもいいんです。
隠れても全てを放り出してしまっても・・・。
どんな器にだって限界はあるのですから
溜め込むだけではそれを早めるだけですわ。
ライランドくんはもう十分すぎるほど戦っています。
自分のためにもユイムのためにも仲間のためにも。
ですから今しばらくはお休みになられても構わないんですわ。
今のあなたを見たらユイムがどんなにお気楽でも心配のしすぎで
ユイムの方がどうにかなってしまいそうですわ。
・・・もう少しご自愛なさい。」
「・・・いきなりは無理ですが考えさせてください・・・。」
「・・・ごゆっくり。あなたを縛るものは何もないのですから。」
キリエがライラに身を寄せた。
きっと腕があったら抱きしめてもいただろう。
だから今はそのぬくもりに甘えておくことにした。
・翌日。
「え?ミネルヴァさん来てないんですか?」
隣のクラス。ケーラに訪ねるとミネルヴァはまだ来ていないらしい。
「ええ。一応連絡先は聞いているのですが応答がなくて・・・」
「・・・まさか何かあったのだろうか・・・。」
「ミネルヴァ様でしたら・・・」
「民子さん。」
「昨日夜遅くに帰ってきましたわよ。
怪我はあまりなかったのですが意識がありません。
命に別条はないようですが・・・。」
「そんな・・・僕が置き去りにしてしまったから・・・」
「お気になさらないでください。
あの方もあなたのことは言及していませんでした。
ただしばらくはお休みになられると思います。」
「・・・分かりました。お大事にと伝えてください。」
少し胃が痛んだ。
あの人は嫌な人だったが見捨てていい人でもない。
でも、怪我をしたのは間違いなく自分の・・・。
「っ!!!」
「!ユイムさん!?」
いきなり膝が床に落ちた。
でも痛みは膝ではなく胸を走った。
そして次の瞬間、
「・・・・あ、」
口から血を吐いた。ライラの、ユイムの口から鮮血が溢れた。




