63話「たった一人の逃亡者」
7:たった一人の逃亡者
・アルナカタタが管理しているパラレル犯罪者留置所。
夜遅くに鈍い音が響いた。
「う、うわああああああああああ!!!」
看守であった武装警官が悲鳴を上げて後ずさる。
「はあ・・・・はあ・・・・・はあ・・・・・」
鉄格子を破ってそれは外に出た。
一週間前に山TO氏と遠藤峰の試合の際に乱入した機械人形のラットンだ。
ミネルヴァに左腕をへし折られ半機能停止状態でここへ運ばれたが
一週間ほどで自己修復機能によって完全にダメージを回復したラットンは
覚醒を果たすと同時に麻薬の禁断症状かのように
暴れ始めて鉄格子を破った。
「・・・行かなくちゃ・・・」
そのまま壁を殴り破って脇と踵の
ブースターを起動させてどこかに飛んでいった。
・翌日。
「よ、」
教室。民子にラモンが話しかけた。
「私のこと覚えてるかな?」
「・・・ラモン。あなたは無事だったのね。」
「ああ、そうだよ。・・・今どこに住んでるの?
私はKYMに引き取られてるんだけど。」
「私は・・・Hル卍に。」
「Hル卍ってミネルヴァさんところの?」
「・・・ええ。Hル卍は機械人形を作ってる企業でもあるから
私は12年前の事故で負った傷を機械人形になることで直したの。
それ以来ずっとHル卍にいてミネルヴァさんの傍に仕えているわ。」
「・・・なるほど。まあお互いもう実家がない身だけど頑張ろう。」
「・・・・ええ。」
「あ、ユイムちゃんとシュトラちゃんだ!」
ティラが窓から見る。
予鈴が鳴って数分。急いで二人が体育倉庫の方から走ってくるのが見えた。
「・・・あっちからこの時間に走って来るってことは
昨日の今日であの二人また大胆なことをしていたってわけか。」
「大胆なこと?」
「そ。あの二人出来てるからねぇ。」
「・・・・・・・・ああ、なるほど、そういうこと。
という事はイグレットワールドさんは知っている可能性が高い・・・か。」
「ん?何をだい?」
「・・・いいえ、企業秘密。」
「ま、間に合ったぁ・・・!」
と、そこへライラとシュトラが走り込んできた。
「本当にギリギリだけどね。」
その頭を後ろから名簿でMMがコツン。
「MM先生、」
「女の子が朝から髪も汗も乱しながら来るもんじゃないわよ?
休み時間の間に整えてきなさいね。」
「は、はい・・・。」
「では、朝のHRを始めるわ。」
全員が席についてからMMが出欠確認を始めた。
・放課後。
部室にて当然これから部活が始まるのだが
「やあ、」
ミネルヴァが一番乗りしていた。
「まさか、昨日の続きをやるつもりですか・・・?」
「いやいや。またあれをやられちゃ堪らないからねぇ。
しばらくはあんたの指示に従うよ。
侮辱したことも謝ろう。けどあたしは考え方を変えるつもりはないよ。」
「・・・・そうですか。」
「ほら、練習をはじめようじゃないか。」
ミネルヴァが手を叩く。仕方なしにライラ達は更衣室へと向かった。
そして練習が始まる。やはりミネルヴァはレベルが違い、
簡単にメニューをこなしていく。
(・・・この程度のメニューなら徹夜でやっても問題ない。
それを1回で息を切らす程度がこの子達だ。
けど、どうしてあいつはそこまでこいつらに興味を向けるのか。)
ミネルヴァがライラ達を見て思う。と、
「え・・・!?」
突如壁をぶち破って1体の機械人形が突入してきた。
「またあんたか。」
ミネルヴァがそれを片手で止めて床に叩きつける。
「ェェェェェェェェェェェェェァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!
ミネルヴァの手を払って立ち上がる機械人形。
「ラットン、そんなことをしても誰も喜ばないよ!」
「え、あれがラットン・・・!?」
「ご存知なんですか?」
「ラットン・MK・Hル卍。私の純一双生児です。
ミネルヴァ姉様から見ても妹のはずですが・・・」
「残念だけどこいつはもうあの男に制御されていてまともじゃないよ。」
「は・・・離して・・・!」
「お?」
ラットンがミネルヴァの手を払って立ち上がる。
「はあ・・・・はあ・・・」
「驚いた。あんた意識があったのかい。
って事は体の方の制御を奪われているのかな?」
「自分の妹をロボット扱いしないで・・・!」
「ロボット扱いもなにも今のあんたは人間じゃないだろう?」
「人間よ!・・・たとえどんな姿に落ち着いても・・・!」
「ラットン!!」
そこへケーラが間に入る。
「・・・私の事を覚えていますか・・・?」
「・・・記憶にないわね。でも、何となくこの感じ覚えがある。」
「どきな、ケーラ。今のそいつはもう暴走マシンさ。
放っておいたらどれだけの被害が発生するか分からない。」
「ミネルヴァ姉様、ラットンはいい子です。
生物兵器のように言わないでください。」
「その子がどんなに平和的だろうとコントローラーがいる以上は
その子に責がなかろうとどうしても壊さんといかないだろう。
幸い機械人形は人間として扱われない。
ライフのかかっていないステージで
カードを使って始末しようと処罰には値しない。」
「あなたという人は・・・!」
「・・・ケーラ・M・Hル卍。私を庇う必要はない。
ただ私は自分が何者なのか探すために彷徨っているだけ。」
「・・・あなた記憶が・・・」
「・・・それじゃ。」
そう言ってラットンはまたブースターを起動して飛び去っていった。
「・・・・・・まあ、あんたがそう決めたんならそうすればいいさ。
ただあたしは全力であの男の陰謀は止める。
邪魔をすればあんたでも容赦はしない。それだけさ。」
「・・・・・・・。」
「そこまでにしてください。そろそろ練習を再開したいと思いますから。」
「・・・あいよ。」
「・・・分かりました。」
・一方。
裏路地。ラットンがそこに着地した。
「・・・分からない・・・。
記憶があまりにも乱れてる・・・。」
嵐のように荒れ狂う脳内。
それとは裏腹にどうしても消えようとしない記憶があった。
「ラットン、お前の機械としての寿命は持ってあと2か月だろう。
だからそれまでに・・・・・・・を・・・・・して来い。」
薄れた声。霞んだ視界。埋もれたシルエット。
そして遥か彼方に見える幼い少女が4人並ぶスクリーン。
「・・・分からない。私は誰なのか・・・。私は・・・」
ただ砂嵐が走った景色の中ラットンは彷徨い続けた。




