59話「キカイ仕掛けの転校生」
3:キカイ仕掛けの転校生
・9月。
多くの小中高校は初っ端から新しい生活が始まる暦。
「あれ?お姉さまはどちらですか?」
ライラが久しぶりにフリフリなユイムの制服に
着替えてリビングへとやってきた。
「はい。昨日より政府議会から招集が
ありましてお出かけになられています。」
「政府議会?
性殺女神の件での事後処理かな・・・?」
メイド達に作ってもらった朝食を食べて学校へ向かう。
スカイカー車内。
追憶するは一週間前の試合。
突如シュトラをぶっ飛ばして現れた機械仕掛けの乱入者。
そしてその乱入者をたった一人で圧倒したミネルヴァ・M・Hル卍。
ケーラの腹違いの姉だと聞いた。
いやそれ以前にその名前は聞いたことがある。
何年か前に全国大会の個人戦を3連覇した最強の高校生。
もしタイトルに挑戦していたらユイムはもちろん
キリエでも勝てたかどうか分からないと言われるほどの豪傑。
当然今の自分では勝機はないだろう。
それに、あの後事後処理としてやってきたのはアルナカタタ。
地区大会で解説役でもあった議会直属の聖騎士。
公式大会ならあの時のようにゲストで
呼ばれたかもしれないがあれは非公式の試合。
どうしてあの場にいたのだろうか。
「・・・また、大きな出来事が起きてしまうのかもしれない。」
窓に反射する自分の姿が目に映る。
「・・・なるべく無傷で返さないと・・・。」
やがてスカイカーが学校前に到着して
降りればすぐにスカイカーは去っていった。
「・・・そう言えばスカイカーっていつもどこに行ってるんだろう?」
「街にあるスカイスタンドだよ?」
「あ、ティラさんラモンさん。おはようございます。」
「おはよ、ユイムちゃん。」
「おはよう、ユイム。」
「それでスカイスタンドとは?」
「駐車場みたいなものだよ。
あと昔あったガソリンスタンドを合わせた感じ?」
「普段お呼びが掛かるまでは自動でそこに移動して整備されたり
電力を補給されたりするんだ。」
「ちなみにそういうシステムを作ったのは
ミドリュエスカラナイトグループだよ。」
「へえ・・・」
なおライラがかつていた田舎では古代における陸を走る乗用車同様に
それぞれの住宅に駐車場が設けられ
各自で整備や補給を済ませるタイプとなっている。
それでもどんな貧しい家にも一台は安値で供給されているのは
KYMグループの方針故だ。
3人が教室へと向かう。その道すがらにケーラやシュトラとも会った。
「むっす~~~」
「ま、まあシュトラさん。あの試合は実質シュトラさんの勝ちでしたよ?」
「実際勝てなきゃ意味ないじゃん。
大体私が気絶してる間に何があったのよ。」
「そ、それはその・・・」
「・・・・・」
隣に目を配る。しかし視線は返ってこない。
あの時の事情を詳しくは聞けなかった。
だからきっと何か深い事情があるのだろう。
それに関わってしまえばまたこの身を
危険にさらしてしまう可能性が生まれる。
それは可能な限り避けておきたい。
「では、また後で。」
ケーラと教室前で別れて4人で教室に入る。
と、何やら教室内でヒソヒソ話が続いていた。
「どうしたんですか?」
「あ、ユイムちゃんおはよー。今日転校生が来るんだって。」
「転校生?」
「そう。このクラスに一人、隣のクラスに一人。
しかも片方はあの元最強高校生なんだってさ。」
「最強高校生ってミネルヴァ・M・Hル卍さんですか!?」
確かもう高校の3年間を制覇してから数年は過ぎているはず。
「何か事情があるのかもしれないよ。」
「・・・・・」
「な、何だかまたイベントが起こりそうな予感だね。」
「・・・全く嬉しくはないけどね。」
ティラが苦笑い、ラモンはため息をついた。
それからMMが久しぶりに教卓へとやってきた。
「みんな、久しぶりね。夏休み中は元気にしていましたか?
噂で聞いているかもしれないけど今日は転校生を紹介するわ。」
MMが視線を開かれたドアの方へと向ける。
と、一人の少女が教室へと入って来た。
「・・・あれは・・・!」
後ろの席でラモンが声を上げた。
「・・・こんにちは。民子・J・ミドリュエスカラナイトです。」
彼女が自分の名前を発音した。
その名前を聞いて多くの目がラモンを映した。
ライラも恐る恐る二人を見比べた。
確かに似ている。どこかとはあまり言えないがどことなく似ている。
もしかして二人は親戚なのだろうか?
しかし確かミドリュエスカラナイトは12年前の事故で
ラモンを残して死んでしまったと聞いた。
「・・・数年前に高校を卒業したはずの元最強が
今更高校に戻ってきたかと思えば
このクラスには亡霊が来るとはね・・・。」
「亡霊・・・・確かにそうかもしれない。
でも亡霊というのは魂が入る器を失くしたから出来るもの。
私にはまだ魂を入れるだけの器がある。
・・・生憎とあなたと同じものではないけれどね。」
そう言うと民子は自ら教卓で制服の上を脱いだ。
当然女子高生らしき肌色の上半身が見える。
しかしそれは作り物だということがひと目で分かった。
「・・・機械人形・・・」
「少し違う。私はその技術であの事故で傷を負った体の大半を
機械で補ったサイボーグ。体は機械だけどまだ人間のまま。
・・・こんな体ですがよろしく。」
制服を着直した民子が頭を下げた。
やや遠慮気味な拍手が教室に響く。
それでも隣の教室よりはマシであった。
「・・・・あぁー、そのなんだ。
訳あってもう一度高校生やることになりました。よろしく。」
鍛えすぎて制服が入らないという理由で私服の、
それも山篭りか武者修行でもしている武闘家のような格好のミネルヴァが
非常に居た堪れない表情で挨拶をする。
「・・・・・・・・・・・」
唖然とする生徒達だがそれ以上に何とも形容しがたい表情のケーラと
一瞬視線が交錯した。
「あ、ちなみに一応そいつの姉なので。」
「くっ・・・!飛び火を・・・!」
そんな新たな始まりを告げる一日の朝が過ぎた。




