6話「腕に覚あり・前編」
6:腕に覚あり・前編
・日曜日。
ライラは初めてユイムとして公式試合に出ることになった。
田舎の試合でならそこまでレベルは高くなかったし
20回くらいは優勝している。
だが、ここは大都会。
どんな実力者が眠っているともしれない。
「・・・緊張していますの?」
道すがらのスカイカー車内。
キリエと二人で場所へと向かう。
「はい・・・。ユイムさんに恥をかかせてしまうのではないかと。」
「・・・はぁ。あなたは本当にどこまで行ってもユイムばかりなのね。
安心なさい。あなたはユイムに勝った。
それも圧勝だった。そんなあなたがこんな場所で負けるはずがないですわ。」
「・・・僕はどんな選手が相手でも負ける可能性に備えています。
この一週間でこの体に慣れつつあってもまだ他人の体です。
負ける可能性が万一だったとしてもその万一を引き当ててしまうかもしれませんので。」
「・・・頼もしい程心配症なのねあなたは。
強者相手にも弱者相手にも負ける可能性を一切考慮しなかった
ユイムが勝てないわけですわ。」
そして会場に到着した。
「こ、ここが会場ですか・・・?」
見上げんばかりの広大さ。
田舎で一番大きな大会の会場よりかも大きかった。
「これで一番小さな大会なんですか・・・・?」
「そうですわ。毎月行われている腕試しのような舞台ですわ。
ユイムも・・・あなたも小さい頃は参加していましたわ。
・・・さあ、エントリーしてきなさい。
尤も既に予約はしてあるから急ぐ必要はありませんが。」
キリエに言われてエントリー室に向かう。
部屋に入った途端にざわめきが起きた。
どれもやはりユイムに驚いているようだった。
考えてみれば当然だ。
記憶喪失であっても全国タイトルを6回連続で獲得、防衛している世界ランカーが
こんな一街の小さな大会に参加など普通じゃない。
普通に考えて勝てる見込みのある選手などほとんどいないだろう。
だからか一気に参加人数が減った。
心なしかスタッフの表情も険しくなった。
しかしその身構え方は驚愕というよりは警戒と言う感じだった。
そう言えばユイムはタイトル戦以外での公式試合は驚くほど少なかった。
それも何か関係しているのだろうか・・・?
ともかくエントリーを済ませる。
参加人数が200人ほどだったのがライラの入室で
一気に減少してたった8人になってしまった。
観客も2000人いたのがわずか数十人ほどにまで。
「あの、キリエさん。この子一体何をしたんですか?」
一度キリエのところに戻る。
「試合を行ったあなたならわかるでしょう?
あの子はとにかくド派手で強大なカードをガンガン使って
ワンサイドゲームにする戦い方。
あらゆる公式試合に出ては会場ごと次々と爆破していく。
だから警戒されているんですわ。」
「・・・な、なるほど。」
「まさかあなたはそんなことしませんわよね?」
「僕はそんな魔力ないので・・・。
僕の戦い方で行いますけどいいですか?」
「ええ、もちろん。」
そして試合開始時刻となった。
パラレルカードの公式試合ルールは、
1:1ラウンド5分間を最大3ラウンドまで。
2:使用できるカードは最大で10枚まで。
ただし1ラウンドで使用できるのは3枚までで
3ラウンド中同じカードを選択できるのは2度まで。
つまり最低でも6枚はカードが必要ということになる。
3:選手はライフのカードを使って勝負に挑む。
このライフのカードは使っている限り痛覚が数倍になるが
多少の集中砲火を受けようとも怪我をすることはない。
4:勝敗はどちらかが気絶するか
10秒以上立ち上がれなかった場合決する。
3ラウンド終了しても決着がつかなかった場合は判定で決まる。
以上だ。
「8人だから3回勝てば優勝か。」
「一応言っておきますがパラレルは男女混合。
今のあなたの体が誰のものなのか覚えておくように。」
「分かっています。彼女に傷は付けさせません。」
控え室へと向かい自分の番がくるのを待つ。
やはり控え室でも自分に対するひそひそ話が絶えない。
その批判的な視線を感じるほどユイム・M・X是無ハルトと言う少女が
どれだけいい意味でも悪い意味でも評価されているかが分かる。
その評価を良くも悪くもこの手で崩すという事がどういうことかも。
「ユイム・M・X是無ハルトさん。出番です。闘技場へ移動してください。」
「・・・さて、」
アナウンスが入り控え室を後にする。
長い廊下が余計に長く感じる。
そしてそれを抜けた時あらゆる視線が全方位から自分に向けられた。
まるでかつてあったサッカーや野球という競技の試合のように
闘技場を客席が囲んでいる。
そして正面の出入り口からは対戦相手が入ってきた。
「・・・やらなきゃ・・・」
一歩二歩と前を歩きこの大きなリングの正面に相手と向かい合う。
「男みたいな奴だな。」「へ?」
いきなり相手が口を開く。
「規則ではないがたいていの女子選手はミニスカにスパッツだが、
君は短パンだろ。それに内股が不自然だ。」
「・・・・・・・・」
「っと、失礼だったかな。スタジアムごと消し飛ばされるのはゴメンだからな。」
「両者の挨拶が済んだところで第一回戦、
ユイム・M・X是無ハルトVS伊達・リュフトX・ヴァルヴァッハ!
開始いたします!」
アナウンス。同時に両者が身構える。
「では、開始っ!!」
号令と号砲。同時に懐からカードを取り出す。
「スモッグ・行使!!」
伊達が呪文を行使し、周囲に煙幕が発生。
瞬く間に伊達の姿が見えなくなる。
いきなり先手を取られた。
しかしスモッグのカードは濃度が高い反面、効果範囲は狭い。
素早く後方にステップを踏み、より広範囲を見渡す。
煙幕の中及びその後方以外に伊達の姿はない。
つまり煙幕の中かその後ろに控えているということ。
「サンダー・解放!」
カードに呪文をエンチャント。
するとカードの中から電気の塊が出現して周囲に放電しながらまっすぐ進んでいく。
そして煙幕に命中すると同時にUターンしてこちらに向かってきた。
「り、解除!」
すぐにカードを元の状態に戻して事なきを得る。
「・・・反のカード・・・」
どうやらあの煙幕の中では姿だけでなく音も遮断されるようだ。
煙幕の中に閉じこもって放たれた攻撃を反射。
すると残った1枚は煙幕の中に
飛び込んだ際の迎撃用カードである可能性が高い。
きっとあの伊達と言う青年はユイムの
今までの試合を見て対策を練ったのだろう。
だからこそ勝てる。
今彼が戦っているのはユイムという少女ではなく
ライランド・円cryンという少年なのだから。
「ステップ・行使」
カードの効果で脚力が上がり、体感重力が半分以下になる。
それで一気に煙幕の周囲を走り回る。
発生した風で少しずつ煙が晴れていく。
とはいえタダの煙ではなくカードで発生した煙だ。
発動している限り無尽蔵で発生し続けるだろう。
しかし複数のカードを同時に使うことは出来ない。
自然発生系のスモッグなら一度発動を中止して
他のカードを発動しようとも少しの間なら煙幕が消えることはない。
だが、煙を出し続けている今ならばほかのカードは使えない。
5回転目に突入すると同時にドリフト。
スピードを殺さないまま煙幕の中に飛び込む。
「!?」
「まず一人・・・・」
背後から伊達に肉薄して後頭部に廻し蹴り。
反対側から煙幕を抜けると同時に煙が晴れて伊達が倒れた。
アナウンスがカウントを読み始めるが伊達に反応は一切なく、
そのまま10カウントを迎えた。
「第一回戦勝者はユイム・M・X是無ハルト!!」
「・・・今の、合格だよね・・・?」
控え室に戻る途中でつぶやく。
それから1時間ですべての1回戦が終わり2回戦へと突入した。




