58話「機械人形(マキナツェリナ)」
2:機械人形
・ケーラの義姉であるミネルヴァ。
「久しぶりだね。随分と大きくなったもんだ。」
「どうして、ここへ・・・?」
「つれないねぇ・・・。3年ぶりだってのに。
・・・ラットン知ってるよな?」
「ラットン・MK・Hル卍。私と純一卵性双生児だったと言う彼女ですか?」
「そうだ。あいつが来てないかと思ってね。」
「・・・?彼女が確か2年ほど前に亡くなったと聞いていますが?」
「ところがどっこい。機械人形として蘇ったんだ。
・・・全部あの男の仕業だがな。」
「・・・・・。」
「まあ、いいや。そろそろあたしや民子がそっちに顔出すと思うから
その時は宜しく頼むよ、邪魔したね。」
気さくに手を振ってミネルヴァは去っていった。
「・・・・・」
ケーラはその背中を見えなくなるまで見届けてから舞台へと向かった。
「遅くなりました。」
既に対戦相手は舞台に立って待っていた。
「では!第三試合を行いたいと思いまーす!!」
アナウンスが入りケーラがカードの入った懐に手をやった。
「・・・今は勝負に集中しなければ。」
「見合って見合って・・・始めっ!」
号令と号砲。
そして互いのカードが宙を切る。
・会場、ロビー。
「・・・来たね。」
ミネルヴァが缶コーヒー片手にエントランスを見やる。
自動ドアが開き場違いなほど立派な
服装に身を包んだ中年の男がやってきた。
「随分勝手に動いてくれるじゃないか。」
「勝手?あたしはただ妹と再会してただけだけどね。」
「私はそれを許可した覚えはない。」
「知らなかったな。たとえ父親とは言えそんな権利があるとは・・・。」
ミネルヴァと真っ向から視線を交差させる。
ステメラ・I・Hル卍。
ミネルヴァ、ケーラ、ラットンの父親であり政府における内務省大臣。
彼が今付き人のように傍らにつけているのはカードハンターの
マサムネとアルナカタタである。
「そんなけったいな人達を連れて力ずくでも
あたしを自分の手のひらに置いておきたいのか・・・?」
「・・・確かにお前は強い。
きっとタイトルに出せばあのX是無ハルトの連中でも歯が立たないだろう。
だが、表立った力。
特にあのようにどの民にも著しく誇示される力というのは趣味じゃない。」
「政府と言う世界の統治職について
そのトップ陣に入っておいて言う事か・・・!?」
「ミネルヴァ。どうしても私の手から離れたいというのなら条件がある。」
「条件?」
「ああ。かつて高校時代にお前が個人戦で3連覇したのは知っている。
ならば今度は団体戦で連覇してみせろ。」
「は?あたしはもう20だぞ!?」
「偽装手段などいくらでもある。あのX是無ハルトの次女のように。」
「・・・ユイム・M・X是無ハルトが何を偽装してるっていうのさ!?」
「・・・ふっ、本人から聞いてみるのだな。
それを上手く聞き出して自分の力にしてみせろ。
武力だけでなく権力で私に楯突くのだな。
今の世界はどうしようもなく平和なのだから。」
それだけ言ってステメラは踵を返して会場を後にした。
「・・・今更あたしに高校生をやれっていうのか・・・」
ミネルヴァは飲み終わった缶コーヒーを握りつぶして俯いた。
・3回戦。試合開始28秒でケーラは対戦相手を叩きのめした。
「相変わらずすごいですね。」
「・・・全くあの後に立つ私の身にも少しはなってもらいたいほどよ。」
シュトラが席を立つ。
「大丈夫ですよ、シュトラさんも確実に強くなっていますよ。」
「・・・そう言ってくれるのはいいんだけどね。
期待が高い方が悪い意味で心に響くというか・・・。」
ため息をつきながらもシュトラが控え室を去っていった。
「・・・シュトラちゃん何だか元気ないね。」
「まあ、ここまで連敗が続いていれば自信が
なくなるのも無理はないと思います。
でも、シュトラさんなら大丈夫ですよ。」
何故ならこの体の本来の持ち主であるユイムが選んだ少女なのだから。
それにシュトラの調子が悪いのには理由がある。
(・・・どうしてこの体なのに出来ちゃったんだろうか・・・。)
・廊下。
シュトラが気怠そうに歩く。
と、似たような表情のケーラが向かいから歩いてきた。
「ケーラさん、お疲れ。」
「シュトラさん・・・。頑張って下さいね。」
「・・・・うん。」
「・・・どうされたのですか?せっかくの美人が台無しですよ?」
「ケーラさんこそ大和撫子が神妙になったら怖いよ?」
「・・・ユイムさんと喧嘩でもされたのですか?」
「え?ゆ、ユイムさん・・・?」
「ええ。
あの日以来あまり仲良さそうにしていらっしゃらないのですが・・・」
「え、えっと、それはどっちの・・・」
「はい?」
「あ・・・ううん。なんでもない。他のみんなが勝ち続けてるのに
私だけ負けるなんて後味悪すぎるもんね。頑張らないと。
じゃ、行ってくるねケーラさん。」
「はい。」
ハイタッチをしてからシュトラが背後へと歩いていく。
「・・・少し意地悪でしたか。」
小さく呟いてからケーラは控え室へと戻っていった。
舞台。
珍しくやる気が出ているのかそれとも自棄になったのか、
その違いは自分にも分からないがとにかくシュトラはそこに立っていた。
自分は強い。
それは他とは違う無敗を誇るライラやケーラと同じメニューを
この4ヶ月間挑み続けてきたから間違いないはずだろう。
今まではただ相手が悪かっただけ。
実際地区大会でライラと一緒にタッグをやった時は相手に勝利出来ていた。
「・・・さあ、来い。」
懐のカードに手をやる。対面している相手も同じような構えだ。
あとはアナウンスが入るのを待つだけ。
「ではこれより第四回戦を始めますっ!
見合って見合って・・・・始めっ!!」
号令と号砲。同時にカードが宙を切る。
「ミラージュ・行使!!」
カードを発動しシュトラの周囲の光線が歪む。
シュトラ自身には通常に見えている
この景色も相手にとってはまるで万華鏡のようだろう。
実際相手の攻撃は脇を通り抜けていった。
そしてその隙に接近してコブラツイストを・・・。
「ぇぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁ・・・・・!!!」
「え?」
掛けようと相手の首に手を伸ばした瞬間だった。
地鳴りのような雄叫びが耳を刺激すると同時に舞台の壁がぶち破られて
一つの機影がこちらに突っ込んできた。
「な、」
反応した時には既に顔面に拳がぶち込まれていた。
「!?」
シュトラの体が回転しながら宙を舞い、
数メートル離れた壁に叩きつけられた。
「シュトラさん!?」
「・・・あれは・・・!」
控え室からモニターで見ていたライラとケーラの表情が歪む。
「こ、こ、これはどういうことでしょうかぁぁぁぁっ!!!」
アナウンスのいつもとは違う焦りの声が響く。
「はあ・・・はあ・・・・はあ・・・」
舞台に立つ鉄の影。それは人の姿をしていた。
脇と足の裏からはスカイカーのようなジェット噴射がされていた。
着地すると4つの噴射口が塞がれて普通の人型となった。
しかしまるで拘束具や培養基をそのまま体に移植されたような姿だった。
体の節々からはまるで旧時代の蒸気機関のように煙を放出させている。
青い髪の毛らしきものが鉄仮面から覗いていることから人間にも見える。
だが、同じくその鉄仮面から見える瞳は
まるで飢えた狼のように血走っていた。
その様相に違わずすぐ近くにいた対戦相手に掴みかかり首を絞める。
「あのままじゃ・・・!」
「行きましょう!!」
ライラとケーラが急いで控え室を出る。
「シュトラさん!!」
そして舞台に着いた時だった。
「およしな。」
鉄仮面は地面に組み伏せられていた。
「ェェェェェェェェェェァァァァァァァァァァ・・・・!!!」
「あんたはそんなものが目的じゃないはずだろ?」
「あれは・・・」
そこにいたのはミネルヴァだった。
ミネルヴァが鉄仮面を片手でねじ伏せていた。
「ミネルヴァ姉様・・・!?」
「よお、また会ったねケーラ。
そして初めましてだ、ユイム・M・X是無ハルト。」
ミネルヴァが片手で鼻を擦り二人を見下ろした。




