57話「夏の終わりに」
1:夏の終わりに
・8月下旬。
学生達の夏休みも残すところあと一週間を切った最後の週末。
ここ、山TO氏街のパラレル専用巨大競技場で本日試合が行われるのだ。
山TO氏学園高等部パラレル部と遠藤峰高校パラレル部の交流試合。
「では、ティラさんラモンさん。お願いします。」
「うん、任せて。」
「一度勝った奴に負けるなんて恥ずかしい真似はしてこないよ。」
控え室を出るティライム・KYMと赤羅門・ミドリュエスカラナイトを
見送るこの少女、ユイム・M・X是無ハルトの姿をしているのは
ライランド・円cryンと言う”少年”だ。
ちょうど5ヶ月ほど前にパラレルカードの関わった事件の被害を受けてしまい
交換のカードによって本物のユイムと体が入れ替わってしまった。
それ以来自分がライランドであることを多くの人間に隠した上で
ユイム・M・X是無ハルトとして生活をしていた。
パラレル部に所属して全国大会を目指すために日々仲間達と精進をしている。
今日は今月の頭にやる予定だったが中止となってしまった遠藤峰との
交流試合が行われる日であった。
当日はタッグ戦2つは決着がついていて1勝1敗だったのだが
仕切り直しとなったため最初からやることになった。
ティラとラモンは空中乗用車の大手メーカー・KYMグループの
次期後継者とその親友であり一か月前に新たな代表として選ばれた。
今月に起きた泉湯王国と性殺女神の事件によって
ドタバタしていたが今では社長としての業務を身につけるためにさらにドタバタしているらしい。
この二人は元々シングル戦向きの能力じゃなかったがこの4ヶ月強の
ライラの鬼指導によってだいぶ一人でも戦えるほど地力が上がり、
元来のタイミング合わせの良さなどからタッグ戦にはもってこいの実力である。
実際不調だった前回の試合でも辛勝出来ている。
「波・行使!」
ティラが発動するとカードから津波が発生して対戦相手の二人を飲み込む。
性殺女神によって水のナイトメアカードを行使し続けられていた
後遺症からか水のカードに魔力が波長が合ってしまい
軽く足下を掬う程度のカードでも二人丸ごと押し流してしまうほどの威力になっていた。
「壁・行使!」
一方、ラモンは得意なウォールのカードを使って押し流された二人の背後に
壁を出現させて無理矢理押し寄せる津波に突っ込ませていく。
そして押し流されて倒れた相手二人の背後に回り込み
「せぇーのっ!!」
「くらえ!!」
二人同時にコブラツイスト。首と右腕を同時に極めて関節を締める。
広範囲の自然干渉系カードで隙を作りつつ普段の練習で底上げされた
身体能力を最大限利用したプロレス技で確実に相手にダメージを与える。
それがライラ流の戦術である。
カードを用いた魔法格闘技と言うカテゴリに含まれているパラレルカードと言う
この競技であっても大事なのは身体能力である。
しかし多くの選手は疎かと言うほどではないが
カードを使った魔法戦闘に重みをおいているためどうしても比重を軽くしてしまう。
ライラはこの戦術を2年間鍛え続けた末に操られていてやや暴走気味であったとは言え
世界のタイトルを6回連続で防衛し続けてきたユイムに勝利している。
それほどこの業界を生きる選手にとっては効果的な戦術なのである。
「8!9!10!そこまで~!!
勝者・山TO氏高校パラレル部~!!」
アナウンスがかかり、二人が技を外す。
「すっかり万全だな。」
「どっかの誰かさんに沼地緊縛プレイさせられた借りがあったからねっ!」
対戦相手に軽口を叩きつつハイタッチをして舞台を後にする。
「次はあなた達ね。私みたいに負けまくるなんて悲しすぎるからね。」
シュトライクス@・イグレットワールドが次に出る後輩二人に声をかけた。
シュトラは最初にライラが自らの事情を話した部員であり
実はユイムとはレズカップルであったらしい。
・・・そしてついこの間ユイムから許可があったとは言え
欲求不満の限界が突破しつつあったライラとも一線を超えたばかりだ。
あと本人が言うとおり公式非公式あらゆる試合を見ても一度も勝てたことがない。
実力そのものは間違いなくあるのだが如何せん相手が悪すぎている。
対してそのシュトラに発破をかけられた後輩二人、
マリアとマリナは中等部でありながらタッグ戦の優秀さを魅入られていて、
今回のような非公式試合ならば出場出来るため参加できるのだ。
高等部は5人しかいないためどうしても数合わせが必要だという事情もあるのだが
この二人は1つ前のチーム風との公式試合では相手が発動した
空間支配系カードの穹を制御して新たな所有者となっているため
それなり以上の実力はあるのでただの数合わせではないのも確かだ。
「お疲れ様です。」
「格好よかったです。」
「君達も頑張ってねー。」
「今度は勝ってみせな。」
舞台へ続く廊下で先の二人と出くわしてハイタッチをしてからすれ違う。
・一方。
とある工場。
そこでは表向きには小型の機械製品の製造工場となっている。
しかし、現実は違う。
「はあ・・・・はあ・・・・」
一人の少女が息を切らせながらしかし一切汗のない表情で対面を見やる。
相手も自分と同じような姿をした・・・しかしそれは人間ではなかった。
倒れた彼女達は火花や電流を体中から放っていた。
そう、彼女達は人間ではなく機械人形である。
それに彼女達だけでなくたった今彼女達と戦っていた彼女、
ラットン・MK・Hル卍もまた機械の体を有していた。
「・・・耐久テストはこんなものか。」
声。自分の情報を集めているオーナーだ。
「48時間、合計2000体以上の機械人形と渡り合えてその程度の損傷。
耐久性能はまあまあといったところか。」
キーボードを打つ音とその無機質よりもさらに冷たい声が聞こえていた。
「修理作業に移る。速やかに行動しろ。」
「・・・・はい。」
ラットンはその場で着ていた服を脱ぎ去って別室に移動した。
「・・・・・・・・・・・」
それを物陰から見ていた少女がいた事にも気付かずに。
・試合会場。
インターバルを挟んで第二ラウンドに突入していた。
前回はこの直前に倒されてしまったが今回マリナとマリアは頑張っていた。
相手はどちらも高等部の先輩でありそれもかなりの実力者だ。
きっと一騎打ちなら手も足も出ないだろう。
それでも二人は力を合わせて何とか防衛戦に持ち込んでいた。
「はあ・・・・はあ・・・そろそろ・・・いいかな・・・?」
「ぜえ・・・ぜえ・・・・そ、そうだね・・・」
息も魔力も絶え絶えな二人が顔を見合わせて1枚のカードを出した。
「「穹・双行使!!」」
そしてそれを発動した瞬間景色の全ては蒼穹へと変わった。
地面も重力もない全面の空。この中での空力や推力は全て発動者の意思に担われる。
これが数あるカードの中でも5枚しかない最上級に当たる空間支配系である。
ユイムの姉であるキリエもその内の1枚である蒼を持っていている。
かなり強力であるが故に常人では制御できず暴走させてしまう危険性もある。
実際にこのカードを以前所有していた少女はそうなってしまった。
それを二人掛かりで制御していても数分程度しか持たないだろう。
だが、その数分さえあれば御せない相手はほとんどいない。
「「やああああああああっ!!!」」
二人が意識を合わせて推力を操作して対戦相手の二人に凄まじいGを掛けながら
四方八方にこねくり回す。
結果10秒程度でブラックアウトを発症させて気絶してしまった。
「そこまで~!勝者・山TO氏高校!!」
「や、やった・・・・!」
「ふう・・・・」
二人がエアリアルを解除することで景色が元の空間に戻る。
試合はライフのカードで守られながら行うため余程じゃなければ怪我すらしないが
もしライフが働いていない状況下で今のを受けていれば脳死していてもおかしくなかった。
「・・・次は私ですね。」
控え室。後輩二人の戦いを見てからケーラ・ナッ津ミLクは立ち上がった。
パラレル部の部長であり部員の中では唯一ライラと互角以上に渡り合える人物だ。
「ケーラさん、お気をつけて。」
「はい。・・・今回は大丈夫そうですね。」
「え?・・・・あ~!もうケーラちゃんひどいんだぁ!」
お菓子を食べていたティラに視線を送る。
前回はこのタイミングで性殺女神に操られたティラに
背中から刺されたのだが当然今回はもう大丈夫だ。
もちろんケーラなりの冗談である。
「では、行ってまいります。」
ケーラが控え室を後にする。
長い廊下を渡る。きっとそろそろさっき戦った後輩二人と出くわすだろう。
そう思っていたら思わぬ人物と会った。
「よ、」
「・・・ミネルヴァ姉様・・・!?」
壁にもたれかかるようにしてコーヒーを飲んでいた少女。
そのとても少女とは思えないほどの筋骨隆々な姿や余裕綽々の佇まい。
ミネルヴァ・M・Hル卍。
彼女はケーラの腹違いの姉だった。




