52話「決戦のサクリファイス・前編」
22:決戦のサクリファイス・前編
・泉湯王国を出て山TO氏にまで迫ってきているシキル。
あれだけの水量を持つ泉湯王国中の水を二日で
枯渇させるだけの吸水能力がもしこの都会で放たれれば・・・。
最悪の可能性になりかねないためライラ達4人はスカイカーに乗って
泉湯王国へと向かう。
もしティラを狙っているのならこちらから泉湯王国への
最短ルートを目指せばそれが即ち被害を最低限に抑えられる手段となる。
それでも起きてしまう被害は0ではないだろうが。
ところでこの車内。先程までとは1名追加されただけなのに
どうも空気が違ってきている。
特にシュトラはものっそい発言に注意していた。
事情を知らないティラがいるというだけでこの少年に対する接し方や
話し方を変えないといけない。
部活の時などはそこまで気を遣わず時折小声で”ライラ”と話すのだが
流石に車内と言うこの狭い空間ではそれも難しいだろう。
「・・・えっと、あたしお邪魔だったかな?
何だかすごく空気が重いような気がするんだけど・・・」
「いえ、ティラさんはお気になさらず。
シキルさん、
いえ性殺女神はあなたを狙っている可能性が
高いのですから下手に離れたら危険だと思います。」
なおライラは既にシリアスモードに
入ってるからか淡々と言葉を捨てていく。
キリエの方は今日だけで既に2回ブルーを使っているからか
もう半分眠っている状態だ。
この状態ならブルーは使えて後1回というところだろう。
それでもいざという時使ってもらうためには
今は眠らせておくのがベストだ。
「ところでケーラちゃんとラモンって平気なのかな?」
「はい、先程MM先生から連絡があってどちらもすぐに治療が出来たので
大事には至らないとのことでした。
それと試合の件ですがやはり向こう方にも負傷者がいたらしく
今回は中止という形になるそうです。」
「・・・そっか。全部あたしのせいだよね、ごめん。」
「ティラさん、過去は過去です。
どんな人間にだって取り返しのつかない過ちを犯した過去はありますよ。
まだない人だっていつかはします。だから気に病まないでください。」
「・・・ユイムちゃん、ひょっとして記憶戻ってたりするの?」
「え?」
そう言えばユイムは2年前に魔力暴走事故を起こしてたんだった。
「いや、そういうわけじゃないんですが・・・。
そう言えばティラさんはその時どうされてたんですか?」
「・・・あたしはね、ラモンと一緒に止めようとしたよ?
でもあまりに魔力が強すぎて・・・。」
「・・・ごめんなさい。今の僕じゃないとは言え、その・・・。」
「ううん、気にしないで。ユイムちゃんはユイムちゃんだよ。」
その言葉が胸に刺さった。シュトラの方を見る。
なるべく触れられたくないからか目を合わせようとしていない。
ここは、言ったほうがいいのだろうか・・・?
そう逡巡した時だった。
「・・・!ものすごい魔力が・・・!!」
前方を見る。点ほどの大きさしか見えないが何かが近付いてきていた。
「あ・・・。」
ティラが胸を押さえた。そこには葬海のカードがあった。
そのカードが脈を打っていた。本来のカードの役目とは逆だ。
まるでカードがティラに魔力を送り込んで性殺女神としての力を
再起動させようとしているようなそんな意図を感じる鼓動。
「・・・落ち着きなさい。」
その手をキリエが掴んだ。
「自分の魔力を制御するのです。
今までカードを使ってきた時と同じように。」
「・・・はい。」
「シュトラさん、援護をお願いします!」
「え、ちょっと!?」
ライラがドアを開けると同時にキリエがフェザーのカードを手渡す。
「翅・行使!!」
背中から翼を生やして飛翔する。
やはり向こうから突進してくるのは性殺女神となったシキルだった。
フェザーを使う自分と遜色ない速度で飛行している。
そのまま真正面からぶつかり合う。
空中でシキルの体に組み付いて逆エビ固めを極めながら地上に向けて飛ぶ。
そして二人揃って既に枯渇していた川に墜落した。
「ステップ・行使!」
フェザーを解除して脚力を強化。相手が立ち上がる前に接近する。
が、シキルの目が光ると足が止まってしまった。
「これは・・・」
両足の血液が吸い尽くされてまるで腐ったように力が抜けていく。
そして、シキルがライラから直接水分を吸い取っていく。
「ぐううううううううう・・・!!」
ミイラになるまで5秒しかない。
が、その時はこなかった。
「葬海・行使!」
ティラがカードを発動してカードから津波とも言える量の水を放出した。
それは川だった場所に流れ出し二人を押し流す。
それだけではなくライラの体に水分が戻っていく。
「やっぱり共有していたんだ。あたしとシキルちゃんの力は・・・」
「はい。ですがティラさん。
ナイトメアカードは負担も大きいです。多様は禁物ですわ。」
「分かっています!
でもユイムちゃんやシキルちゃんのためにあたしも・・・!」
シキルが吸水をする度に
ティラが給水を行い事実上互いを無効にし合っていた。
その隙にライラがステップで接近して
シキルの後頭部に廻し蹴りを叩き込む。
普通なら肉体強化を使っていない限りは大の男でも気絶するであろう、
この一撃をシキルはくらってさも平然としていた。
否、最初からシキル本人の意識は消えていた。
今ここにいるのは失われた力を求めてさまよう性殺女神と言う魔物だ。
「ならば・・・!」
ライラが破滅のカードを取り出す。
「大丈夫かな・・・?今日はもう2回目なのに・・・」
「・・・ならあたしが行く!!」
「え?」
突如ティラがスカイカーから飛び降りた。
「ティラ!?」
「あああああああああああああああ!!!」
「・・・・え?ティラさん!?」
まっすぐティラがシキルへと落ちていく。
そしてティラは光に包まれてシキルに吸い込まれていった。
「ティラさん!!」
・シキルの心の中。
自分のせいでヒカリもアルクスも犠牲になってしまった。
自分が生贄を発動してしまったから
4年間も泉湯王国の人々やアルクスは苦しんだ。
そして今や制御すら出来ずに自分が何をしているのかさえ分からない。
何も見えない何も聞こえない暗闇の中でただ体が悲鳴を上げている。
全身を巡る血流の中に混じった魔力が無尽蔵にどこかへ流されていく。
しかしその魔力が尽きることはない。
「・・・ただずっと一緒にいたかっただけなのに。
それは願ったらいけないことだったの・・・?
それはこんな、
こんなひどい未来を呼ぶためだけの奇跡だったというの・・・?」
後悔や絶望の一滴が無限に連なり海を呼ぶ。
それが醜くてとても受け入れられるものではなくてその海を消していく。
だけど、それでも悲しみが消えることはなくて無限ループ。
外で何が起きているのかは分からない。
自分の体がどうなっているのかも分からない。
もしかしたらこれがアルクスの言っていた
現象になるということなのだろうか。
こんな深い虚無を4年もの間巻き込んでしまっただけのアルクスに
負わせていたのだとしたら・・・。
「・・・もういい。私なんていなくなればいいんだ。
ただ、ありのままを受け入れてそして消えてしまえばいい・・・。」
絶望の雫が作り出した無限の海の中に心ごとその身を委ねた。
どこまでも暗い水の中に沈んでいく。
どんなに絶望の海が深くなろうとももう吐き出すものなんて何もない。
「そんなことないよ!」
「・・・・え?」
声がした?こんな深くて暗い海の底だというのに・・・?
「どんなに絶望の中に沈んだって必ず人は這い上がれるんだよ!!」
シキルの手を誰かが握った。
「・・・ティラさん・・・」
この少女こそ自分が求めていた存在・・・。




