50話「二人の性殺女神(セキシキルアルクス)」
20:二人の性殺女神
・ライラ達が枯れた街を歩きながら旅館への道を辿る。
道には脱水で倒れた民で溢れているが
しかし残念ながら恵んでやれるモノはない。
「ケーラさんがいれば
クイックで水を与えることも出来ましたけど・・・。」
「・・・ティラがそれを狙って刺したんだとしたら大したものだよ。」
「そのティラさんから何か連絡はありませんの?」
「・・・はい。P3にも応答がありません。
なのでいまどこにいるのかも分かりません。
当てずっぽうのようにここに来てしまいましたから。」
「でも、この状況。間違いなく何か関わっているでしょう。
・・・ところでいつまで歩かなくてはならないのですか?」
「すみません。前までは水路が無事だったのでカヌーで渡れたんですが
今はもう自分の足しか移動手段がないみたいで・・・」
「と言うかキリエさんはフェザーのカードがあるじゃないですか。
どうして空を飛んでいかないんですか?」
「・・・それは、
あなた方を置いて私だけ進んでも後味が悪いからに決まっていますわ。」
「・・・キリエさん・・・」
「それに移動の為だけにカードを
使っていてはいざという時対応できませんからね。」
「・・・そうなんですよね。だから僕もステップは・・・あ。」
1つ思いついた。
「・・・最初からこうすればよかったんですよね。」
ステップで脚力を強化したライラがシュトラを背負って走り、
キリエがフェザーで空から追いかける。
「・・・でもライラくん。
ライラくんはナイトメアカード使っても平気なの?
私を助けてくれた時にもあのスライトのカードを使っていたけれど・・・」
「あ、はい。僕にあのカードを渡してくれた人が言うには
希望のカードで生み出した
カードは生み出した本人にしか使えませんが
強い意志さえあれば怯むことはないそうです。
他のナイトメアカードは全身の血管が破裂しそうになるんですけどね。
あれ以来ビーストも使っていませんし。」
「へえ・・・。そう言えば私も救済を使っても何もなかった。
・・・ライラくんに裸見られたこと以外はね。」
「う、そ、それはあの時は非常事態でしたし・・・。
と言うかシュトラさん。僕の体をしたユイムさんには見られても平気なのに
ユイムさんの体をした僕はダメなんですか?」
「そういう質問をするってことは
私の体に興味があるってことでいいのかな?」
「いや、そうじゃなくて単純に疑問に思っただけといいますか・・・」
「お二人さん、夫婦漫才はいいので真面目に進んでくださいまし。」
「め、夫婦じゃないですよ・・・!」
「そうですよキリエさん!私の心と体はユイムさんだけのものです!
あ、子供が生まれた暁にはお義姉さんって呼ばせてもらいますね。」
「結構ですわ!・・・・あ、あれは!!」
キリエの進行が止まる。それに合わせてライラも立ち止まる。
「キリエさん!?何か見えたんですか!?」
「シキルさんですわ・・・!ですが救済を使った時かそれ以上に
神々しく禍々しい姿をしています。
あれは紛れもなくナイトメアカード・・・!」
「・・・やっぱりシキルさんか・・・」
進行を再開してシキルの許へと向かう。
「・・・・・・・・・・・・」
シキルもそれを確認するとまだ5キロ以上先だというのに
3人から水分を吸い取り始めた。
「・・・う!の、喉が・・・!」
「血液が枯れていく・・・・!」
「・・・っ!!蒼・解放!!」
キリエが咄嗟に蒼の空間を作り出しシキルからの干渉を防ぐ。
しかしフェザーを解除したことで空にいられず落ちてしまう。
「キリエさん!!」
ライラが跳躍してキリエを抱きとめる。
「申し訳ありませんわ・・・」
「それよりどうなっていますか!?」
「やはりシキルさんのあの力は水分を吸収する能力ですわ。
この蒼の空間の中にいる間は一切干渉されないようですが
5秒でもあれから狙われてしまえば博物館行きになりますわよ。」
「・・・5秒で体中の水分を・・・。」
「どうやって止めるの・・・!?」
「私の蒼の範囲は半径20メートルが精一杯ですわ・・・。
でもその範囲内に収まるのでしたら生贄の効果を上から押しつぶしますわ。」
「ならこのまま移動って出来ますか?」
「干渉を防ぎながら展開していられるのはあと30秒が限界ですわ。
それまでにたどり着けられるのでしたら・・・!」
「分かりました!!」
そのままライラが走り出す。
5キロを全速力で走り、20秒でシキルの眼前にまで到達する。
「キリエさん!」
「分かっていますわ!!」
蒼の空間に入り込んだシキルにキリエが暗示をかける。
カードを使わずにシキルとシンクロして少しずつ生贄を制御していく。
だが、それ以上先に進めなかった。
「キリエさん!?」
「な、なんということ・・・!生贄はこの子だけで発動していない!?
あと一人誰か別の人が発動していますわ!」
「え・・・!?」
「二人同時じゃなければ私の力では・・・くっ、もう時間が・・・!」
少しずつ蒼い空間が元に戻っていってしまう。
徐々に確実に抵抗が出来なくなり僅かずつ3人の水分が奪われていく。
しかし、枯渇するより前に突如として景色が変わった。
「・・・ここは・・・?」
気付けば波の音がする。
「・・・何とか間に合った・・・」
ラウラがいて、手には吸引のカードがあった。
「ラウラさん!」
「ここは泉湯王国の外で海辺。
性殺女神の力も泉湯王国の外までは通じない。
・・・とりあえず海水だけど水分補給するといい。」
実際ラウラも表情はあまりよくない。
先程まで枯渇寸前の肉体でここまで歩いてきたばかりなのだ。
「ラウラさん!一体どうなっているんですか!?」
「一週間前からシキルの様子がおかしかった。
そして一昨日からああいう風に・・・・」
「・・・そうだったんですか。」
「教えて・・・あれは性殺女神・・・?」
「はい、そうだと思います。
4年前の際にアルクスさんが一人で背負ったその力が
アルクスさんもヒカリさんも居ない今
シキルさんが何の準備も気負いもない状態で
100%引き継いでしまった。だから一切制御が出来ずに暴れている。
・・・僕もさっきまでそう思っていました。ですが実際は少し違う。
先程のキリエさんの発言で分かりました。
僕の友人であるティラさんも似たような状況になっています。
ですが行うのは吸水ではなく逆の給水。
そして50%ずつ性殺女神の力を持っています。
けど支配権が違うんです。シキルさんは性殺女神の力を
半分ほどティラさんに奪われた。それを奪い返すために、あるいは
自分の力を維持するために水を奪っているんです。
今のティラさんは街を水没させられるほどの水を扱えますが、
その水はこの泉湯王国から奪ったもの。
シキルさんはティラさんから力を奪い返そうとして水を奪っていますが
それが逆にティラさんが操る水の源となっている可能性が高いんです。
なのでシキルさんを先に止めてしまうことが出来ない。
ティラさんを先に止める必要があるんですが・・・。」
「そのティラが今どこにいるのか分からないのよ。」
「・・・もしその話が真実ならばティラさんはここには来るかどうかは
五分五分の確率だね。シキルから完全に力を奪うためにやってくるか。
あるいはシキルに制御を奪われないためにここへは近づかないか。」
「・・・前者ならばまだやり方はあるんですけどね。」
4人が水を飲みながら考える。
ティラとシキルの様子を見て思うことは
シキルの方は完全に意識を失って力を暴走させていること、
そしてティラは意識はあるがやはり力を制御出来ていないということ。
どちらにせよティラを見つけないといけないということ。
泉湯王国の現状から見るに
タイムリミットは極めて近いだろう。




