5話「パラレル交差する日・後編」
5:パラレル交差する日・後編
・翌日。
まだ廃部寸前という状態だがパラレル部の活動が
久々に行われた。
その前に、更衣室。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ライラの前で他3人が当然のように着替える。
「・・・?どしたの?もしかして着替え方分からないとか?」
「あ、いや、その、そういうわけじゃ・・・」
なるべく意識して視線を外すように着替える。
しかしそうしても見えてしまうは自分の好きな子の下着姿。
そうして困惑した隙に生まれた無意識で再び他3人の着替えを・・・。
・・・これはもはやその内出家した方がいいのかもしれない。
生えていないのに興奮しっぱなしだ。
・・・もし本来の持ち主に戻った時に変な癖がついていなければいいが。
ともあれ着替えを終えて部室に来た。
部で保有するカードは放電のサンダーと
短時間だけ痛覚を無くすペインキラーの2枚だけ。
本来はもっと多くのカードがあったのだが例の事件以来
もう廃部が確定していたようなものだったため
売り出してしまったらしい。
一応部員が個人で数枚ほどカードを持っているのだが
それを以てしても枚数は少ない方だ。
しかしパラレルカードはカードの性能だけで勝敗が決まるわけではない。
最も大事なのは身体能力。即ち自分自身の体術である。
ライラも本物のユイムもそこは重点的に鍛えていた。
それはあの時の試合で理解出来た。
それでも男子と女子の差と言うモノがあってか
結果的にライラが勝利してしまったが。
「だからまずは徹底的に身体補強から始めますよ。」
部室に来て早々校庭に移動してランニングを始めた。
一周が2キロあるため一周すればちょうどいい距離だろう。
しかし20分ほどで他3人はダウンしてしまった。
「ちょ、っと、ユイムちゃん飛ばしすぎ・・・」
「ご、ごめんなさい。つい癖で・・・」
持続的な筋力と瞬発的な筋力を鍛えるために
緩急つけて走り込みをしていたのだが
どうやら慣れていない人にはきついらしい。
実際ユイムの肉体でもいつも以上の疲労を感じていた。
体を壊しては意味がないため結局ゆっくり一周走って部室に戻る。
それからはまるで相撲とレスリングを合わせたような稽古が始まった。
「ねえ、女の子なのに相撲なの?」
「基礎身体能力とか体術能力を上げるにはいいと思うんだ。
ティラさんの言う通り女の子で相撲とかレスリングとか
滅多にしてる人いないからね。効き目は十分だと思うよ。」
実際男子同士で戦ってる場合でも効果はあった。
多くの選手は超至近距離での戦い方を知らない。
選手観戦者問わず多くの者がパラレルはカードの魔法で
勝敗を決するものと考えているがそれは違う。
最終的に勝敗を決するのは己の体力と体術である。
だから実を言えばライラはあまりカードは得意な方ではない。
かと言って純粋な格闘技で勝ち上がれるほど体に恵まれてもいない。
だけどその両方でなら勝てる。
人知の及ばないスケールの大きな戦いになればなるほど
緻密な戦術と己の体力精神力が確実に勝敗に影響を及ぼすものだから。
まずはそれを他の3人にも身につけてもらう。
理想は全員がユイム・M・X是無ハルトの打倒である。
「こんなものかな。」
「はあ・・・はあ・・・・ぜえ・・・・・ぜえ・・・・」
2時間。2時間をひたすら身体能力の底上げに費やした。
他3人はもちろんユイムの体も悲鳴を上げていた。
「まだ初日だし今日はこの辺にしておこう。」
ユイムの体を闇雲に傷つけても良くない。
だからこの日はお開きとなった。
「・・・・やっぱそうなるよね。」
ライラはシャワー室にいた。
そう、女子が汗だくになる部活動を終えたら
そりゃシャワーで汗を流すに決まっている。
先程はまだ下着までだったから良かった。
けど今は全裸だ。そりゃ仕切りはあるが見えるものは見える。
生えてないのに心のアレが勃起しているようだった。
と言うかクラスメイトの異性の全裸を目撃して
さも当然のように自分に接触してくるというこの状況。
例え絶対に元の姿に戻る未来がなかったとしてもどうにかなってしまいそうだ。
ただでさえ自分の裸体を見れば鼻血を出してしまいかねないほど
興奮するというのに。
それから、それぞれが帰路に着きライラはスカイカーを呼んで帰る。
「随分と女性としての生活に慣れつつあるようですね。」
帰宅して早々キリエから告げられる。
「・・・はい?」
「部活をやったということは部員である
女の子の裸を見たということでしょう?シャワー室で。」
「・・・・・えっとそれは・・・・・」
「まさか襲ったりしていませんわよね?
一応妹の初めて公になる犯罪が強姦では
それはそれで立つ瀬がありませんことよ?」
「いや、流石にそれは出来ませんよ。
ユイムさんの体ですし・・・。」
「なら元の体でしたらするつもりでしたの?」
「・・・断言しましょう。あそこで3年もいれば1度は必ずします。」
「最低最悪ね。それが男の性根というものでしょうか。」
「誤解ですよキリエさん。これは男なら制御できないものです。
女の子のあの日と同じようなものです。
僕もこの体になって初めてわかりました。」
「・・・そう。あなたは自分の好きな女の子の月経を経験したということですか。」
「・・・・そう言われると困ります。
いやもうはっきりと言いますね?
そろそろ色々と我慢の限界ですよ。可愛い女の子ばかりで・・・。
それに自分の好きな女の子の体を借りているんですから。
でも、僕・・・ユイムさんの体でそういうことしたくないんです・・・。
何だか本当にユイムさんを汚してしまうような気がして・・・」
「・・・何だか切実そうですわね。
そこまで辛いものなのですか?」
「そうですね、キリエさん。
今からひどいことを言います。いいですか?」
「どうぞ。」
「キリエさんが自分の手で何かを触りたいのと同じような気分です。」
「・・・・・・そう・・・・ですか・・・・・。」
キリエが袖を揺らす。
既にこの袖を通す物体は存在しない。
もはや自分ひとりでは排泄も更衣も出来ない。
もどかしいことこの上ない。
一瞬目の前の少女に怒りを抱いた。
しかし次の一瞬では憐憫を抱いた。
この少年は何も悪くはない。むしろどう考えたって被害者だ。
懇意の少女の体を贈呈したことでいい気になって
それで罪滅しが出来たと思ってるだけでその実何も問題は解決していない。
時間が経てば経つほどライランド・円cryンという少年は
この世から存在をなくしていく。
そうさせたのは誰でもない今この少年が使っている体の持ち主であり、
そして自分自身だ。
一刻も早くユイムを見つけ出しては
この少年を本来の生活に戻さなくてはいけない。
そう、決意したはずだったのに。
薄れゆき忘れかけた自分が憎かった。