46話「食は乙女の下僕なり?」
16:食は乙女の下僕なり?
・山TO氏学園高等部。
短いようで長くきつい状況が続いた臨海学校を終えて
その翌日から次の試合に向けて練習が始まった。
夏休み中旧帝都にいる予定だった
シュトラも戻ってきて練習に参加している。
「ところでケーラさん?まさかと思いますがシュトラさんに
僕の事情知っていることって話してなかったりしてます?」
ある日疑問に思ったライラが口にした。
「・・・そう言えばまだお話してなかったような気がします。
あの夜のこともシュトラさんはだいぶ精神的にも肉体的にも
消耗していましたし二人きりになる機会もありませんでしたし。
・・・何だかこのままでも面白そうな気がしまして・・・」
「・・・ケーラさんも最近ハッスルしてますよね・・・?」
「うふふ、どうでしょうか。」
二人で水分補給をしながら練習風景を見る。
MMが何か必死にメモをしていた。
「何してるんですか?」
「ああ、中等部の子達のね、
何が武器で何が弱点なのかを探っているのよ。
マリアとマリナだけでなくて他の子達も試合に出したいじゃない?
あなた達高等部だってずっと試合に出ずっぱりって訳にもいかないし。」
「・・・なるほど。MM先生最近本当に顧問してますね。」
「・・・まあ、今まであまり力になってあげられなかったからね。
・・・ほら、あんた達も早く練習に戻りなさい。
いくら無敗のあんた達でも鍛錬を
怠りながら続けられるほど甘くはないんでしょ?」
「はい、もちろんです。」
「行きましょう、ユイムさん。」
二人も練習を再開した。この二人がたとえ練習でも一騎打ちを始めると
ものすごい勢いで周囲の注目が集まる。
なんせ部活のトップ2エースで共に無敗同士。
正直どっちが強いかなんて本人同士にも分からないだろう。
戦った数だけ結果が変わるといってもいい。
そんなトップエース同士で数時間ほど練習。
朝からやり続けているため昼休みが待ち遠しい。
「え?僕達で作るんですか?」
家庭科室に呼び出されたと思ったらいきなり自炊指令が来た。
「ええ、今日は食堂が休みみたいなのよ。
材料は揃えてあるからここでみんなで作りなさい。
パラレルもいいけどせっかく女の子なんだからたまには料理もしなさい。」
とのことだ。
とは言うもののこの学校はどこぞの企業や財閥のご令嬢が多い。
一人じゃ電子レンジを使ったこともないような子だっているだろう。
文字通り箸より重いものを持ったことがないというのもいるかもしれない。
ところがこの部。よりにもよって料理上手ばかりであった。
実家がもはや絶滅寸前である和食料理亭であるケーラは寿司まで握り、
妹のたくさんいるシュトラもまた妹達の分やたまにユイムの分まで
食事を作っていたためこの程度お手の物だ。
ティラとラモンも父親から最低限以上の躾として一流シェフに
料理を習っているためこの前の臨海学校の時は二人がメインで
シキルを手伝っていたほどだ。
そしてライラも男子なれどほとんど家に帰らない義両親に代わって
リイラの面倒を見ていたこともあってたいていの料理はマスターしている。
「・・・・」
MMが口あんぐりしてその様子を見ていた。
どうしてか揃いも揃って
中等部のメンバーですら一人でまともに自炊が出来ていた。
と言うかこれだけいて同じメニューが1つもなく
全員がそれぞれ全く違うものを作っていた。
もはやそのままどこかの一流レストランに
全員シェフとして就職できるんじゃないかと疑うレベルだ。
ちなみにMM本人は全く料理ができない。
「あれ?先生は作らないんですか?」
「そ、そうね。私はみんなのを少しずつおすそ分けしていればいいわ。」
今日からでも遅くはない、
料理の勉強をしようと心に決めざるを得なかった。
「・・・あれ?」
「ん、どうしたの?」
「いや、そのティラさん胸縮んでません?」
「え?そうかな?エプロンしてるからそう見えるんじゃない?」
「・・・そうかなぁ。
でも1センチか2センチくらい小さくなってるような・・・」
「・・・私としてはどうしてそこまで目測できるのかが気になるわ。」
シュトラに睨まれるしケーラからは意味深な笑みを浮かべられる。
そして、隣にいたラモンはどこか遠い眼差しをしていた。
まあ、乳房も所詮は脂肪の一部。
ダイエットをすれば一緒に縮むことがあると聞いたことがある。
・・・だからきっと頭の中をよぎったこの可能性は勘違いなのだろう。
それからみんなで昼食を食べたあと少し休んでから練習を再開した。
「今度の交流試合の相手は地区大会で本来4回戦で当たる相手だった
遠藤峰高校よ。準決勝で負けてしまったようだけれど実力は本物。
まずここに勝てないようじゃ全国へはいけないわね。」
「大丈夫です。みなさん前より強くなっています。
あの時にはいなかった後輩達だって今はいます。
みんなで全国へ行きましょう!」
ケーラが挨拶をしてそれから試合に合わせた練習を始めた。
「・・・そろそろ私勝ちたいんだけど。」
シュトラが薮から棒に睨みつけてきた。
「えっと、それで僕にどうしろと?」
「最近怠けていたこともあるし何か技とか教えてよ。」
「・・・技と言われましても。
シュトラさんはあの升子に対していい勝負をしていたじゃないですか。」
「・・・あの子は呼び捨てなんだね。」
「まあ、昔馴染みですから。
・・・そうだ、でしたら彼女と同じようにグラビティの重力下で
特訓してみますか?そこで筋力をつければ・・・」
「・・・体重が0になったと思ったら今度は超重力なの・・・?
私の体大丈夫なのかなぁ・・・?」
ともあれ結局やることになった。
グラビティで最初は2倍から始めた。
「くっ・・・・・くっ・・・・!!」
腕立て伏せが滅茶苦茶きつかった。
これをさらに1,5倍の重力で普段から慣らしていれば
そりゃトンクラスの物体も軽々と持ち上げられるようになるだろう。
と言うかあの少年が妹以外の女の子を呼び捨てにしていた。
その事実が驚愕だ。
・・・ここのメンバーで一番彼と親しいのは自分のはず。
それなのに未だにさん付けで敬語・・・。
「・・・まだまだかなぁ・・・?」
「そうですね。まだまだ2倍は難しいですね。」
「・・・そうじゃないんだけどさぁ・・・」
「はい?じゃ、3倍にしてみます?」
「・・・やめておきます。」
今だってきっと明日の朝には大変なことになってそうだ。
それにしても随分とこの少年との付き合いも長くなってきたものだ。
時間で言えばユイムと一緒だった時間の方が圧倒的に長いというのに。
・・・同じ姿をしているからそう感じるだけなのだろうか。
「シュトラさん?」
「何でもないよ。それより基礎筋力つける以外に技とかないの?」
「・・・こだわりますね。」
「だって私だけ脳筋みたいな戦い方なんだもん。
しかもそうしてるのに純粋に力でも負けることが多いわけだし。
と言うかあの升子って子には力でも技でも負けていた・・・。」
「・・・じゃあシュトラさんは升子がライバルなんですか?」
「・・・ライバル・・・考えたこともなかったや。
でも、そうかもしれない。あの子には勝ってみたい・・・。
年下だけどあの子にだけはいつか勝ってみたい・・・!」
「・・・その気持ちがあればシュトラさんはどんどん強くなれますよ。」
「・・・じゃあライラくんのライバルって誰?ユイムさん?」
「そうですねぇ・・・。ユイムさんは憧れですから。
今までユイムさん以外の選手はみんなあの人への通過点で、
だからあまり他人は意識していませんでした。」
「じゃ、ケーラさんは?」
「・・・彼女ですか。確かにライバルかもしれませんね。
でもあの人なら直ぐに僕なんか追い抜いてしまいますよ。
僕と違って正式に武術を習っていて練習を怠っていませんから。
それに僕の戦術ってあまりパラレル向きじゃありませんから。
きっと王道スタイルである彼女は
いつか追いつけない場所まで行ってしまいます。
ケーラさんならその内ユイムさんにも追いついてしまうかもしれません。」
「・・・でもライラくんユイムさんに都合3回は勝ってるじゃない。」
「いえ、最初の2回はブランチに操られていましたし
最後の1回はチェンジが解けていなければ
マットに沈んでいたのは僕でした。
・・・僕は彼女達と比べてそこまで才能がないんですよ。」
「・・・・・」
いつでも強いと思っていた彼が時折見せるこの儚さ。
それが何なのか、まだよく分からなかった。




