44話「性殺女神(セキシキルアルクス)」
14:性殺女神
・臨海学校二日目。
当然のようにお葬式ムードな学生達。
MMも他の教師と相談している。
「・・・そうですか。」
ライラはキリエに連絡をして今までの事を話した。
性別を性殺女神に殺されたこと、
そしてユイムが死んでしまったことも。
「・・・すみません。」
「あなたが気にすることではありませんわ。
・・・むしろあなたの方が気がかりですわ。
賭けてもいい、今のあなたはとても冷静ではない。
・・・今から私が向かいます。それまで迂闊な行動をしないこと。
いいですね?」
「・・・・はい。」
P3の電源を切って前を見る。
布団には包帯&フリーズなユイムと眠ったままのヒカリ。
そしてもはや壊れつつあるシュトラ。
きっとこのままではシュトラも危険だ。
「・・・今日決着をつけます。協力してください。」
「もちろん・・・。」
「・・・はい、元はといえば私のせいなのですから力は惜しみません。」
「僕も全力を出させてもらうよ。」
ケーラ、シキル、ラウラと共に外へと向かった。
まずはラウラがアルクスをバキュームで引き寄せられるか試してみる。
「・・・盲点だった。」
「どういうことですか?」
「バキュームは周囲100メートルから引き寄せたいものを
自由に引き寄せるカード。
実質的に100メートル以内のレーダーにもなる。
・・・100メートル以内にアルクスがいる。」
「え・・・!?」
「それだけじゃない・・・。反応がおかしい。
100メートルどころかこの国全体からアルクスの反応がある・・・。
アルクスは人間の姿をしていない・・・。
この国全体と一体化しているみたい・・・!」
「・・・ならまだアルクスは性殺女神と言う現象ということ・・・!?」
「・・・恐らくそうだと思います。
ですがシュトラさんと接触してカードを渡した以上
元の人間の姿にも戻れるのでしょう。
・・・一度昨日シュトラさんと戦った場所まで行きましょう。
あの時は回収できませんでしたが
救済のカードが落ちているかもしれません。」
「・・・ライラさん。
それでもしキュアがあったらどうなさるつもりですか?
発動するのですか?誰かを犠牲にしてユイムさんを・・・」
「・・・まだ分かりません。でもそれしか方法がないのなら・・・!」
「・・・そうですか。」
カヌーを使って4人で国境沿いの高原まで向かう。
旅館を出てから1時間ほど。
そろそろ国境が見えてくる。
が、そこで再び無数の異形が遮った。
「ブランチ・・・!」
カヌーから4人が降りる。
「答えろ!一体何を企んでいる!?」
「我々が望みは1つだけ・・・。繁栄し過ぎた人類の衰滅。
そのためにごく少数の存在にだけ人知を超えた力を与える。」
「どうしてそんなことをするんだ!?」
「それが我々の役目・・・、
お前達がここでしようとしていることは我々の邪魔になる・・・。」
「・・・邪魔になれるんだな?
なら喜んで!!ステップ・行使!!」
脚力を強化して次々とブランチを蹴散らしていく。
「杖・行使」
ケーラがレンゲルを出してまるで嵐のように次々と倒していく。
しかしブランチは次々と出現していき4人の進路を塞ぐ。
「昨日よりも多い。
ということは昨日よりも間に合って欲しくないということ・・・!」
「ライラさん!先に行ってください!ここは私が!」
「・・・分かりました!」
脚に可能な限りの魔力を集めて一気に走り抜ける。
増殖していくブランチの間をすり抜けて先へ急いだ。
・国境沿いの高台。
400メートルの距離を10秒で駆け抜けてライラがそこに到達した。
そこにはひとりの女性がいた。
美青年と見紛うような十代後半か、二十代前半ほどの。
「・・・あなたがアルクスさんですか?」
「・・・ああ、そうだよ。私が神様さ。」
「どうしてこのようなことをしているのですか!?」
「・・・性殺女神はもう止められない。誰にもね。
今の私に出来ることはそれにこの身を任せることさ。」
「キュアのカードなんて危険なものを使わせてでもですか!?」
「あれはあの子が望んだものさ。例え同じくらい大事な人を殺し
世界の理を覆してでも救いたい命があった。
私はその手助けをしてあげただけ。
そしてそれを目的や思いが同じなはずの君が邪魔をした。
さらに結局同じことをするために君はここへ来た。滑稽じゃないか。
それに君はあの子以上の過ちを犯そうとしている。」
「シュトラさん以上の過ち・・・?」
「君はここへは間に合うべきではなかった。・・これを。」
アルクスはキュアのカードを渡した。
「それを使えるのは1度だけ。君がそれで誰を選ぶのか興味深いね。」
そう言ってアルクスは消えた。
「・・・まさか・・・!」
急いでケーラ達の方へともどる。
再び10分間で到着する。
そこでは、傷だらけのケーラが未だに無数のブランチと戦っていた。
その脇腹にはあの時のユイムと同じような刺し傷があった。
医療も警察もまともに機能していないこの国であのケガはまずい。
それに国境に近付けさせないように展開される無数のブランチ。
この状況は確かにまずい。
「ケーラさん!一度戻りましょう!」
「・・・分かりました・・・!」
傷口を押さえながらケーラと
ライラがカヌーに戻り旅館までの道を逆に辿る。
「・・・すみません。力になれなくて・・・」
「戦闘用のカードを持っていないのなら仕方ありませんよ。
シキルさん達は怪我はないですか?」
「・・・大丈夫。」
「ですがこの傷・・・」
カヌーではライラが櫂を押し、横になったケーラを二人で応急手当する。
しかしケーラの刺し傷は意外と深く、このままではまずいかも知れない。
「旅館に戻れば他の生徒達がいる。
一人くらいは回復系のカードを持っているかもしれない。」
その僅かな可能性にかけてカヌーを進ませる。
・国境沿いの高台。
そこへキリエが到着した。
「・・・嫌な気配が充満していますわね。
フライ・行使」
翼を生やして空からライラの言っていた旅館へと向かう。
と、その空に飛行型ブランチが大量に出現した。
「残念ながらあなたはお呼びじゃないよ。」
そしてその中にはアルクスの姿もあった。
「そう仰らずに。私の妹と弟が世話になってるようですので。」
「・・・ならあなたにも泉湯王国名物の整形をしてあげようか。」
「必要ありませんわ。私このプロポーションが気に入ってますの。
むしろあなたこそ顔色が悪いようですね。私の蒼で染めてあげますわ。」
「空間支配系。楽しみだ。ナイトメアカードとどっちが強いのか。
けどここで使う気かい?落ちるよ?君。」
「ご心配なく。蒼・行使・・・!」
そして迷いなく発動した。
空のブルーをさらなるブルーが塗り替えていく。
そのまま翼のないはずのキリエもその蒼の上を歩いていく。
「・・・これは・・・!」
アルクスが表情を変えてその場から離れようとするが
既に体の自由が奪われていた。
「あなたは今現象となっている。泉湯王国全域の。
ですが今私の空間が一部だけとは言え泉湯王国の空を書き換えた。
それはいわばあなたの体の一部を私が支配したも同じ。
残念でしたわね。ナイトメアカードは確かに強力ですが
所詮は人間の操りしもの。相性というものがありますわ。」
「・・・・くっ・・・・!」
既にブランチも全て蒼の空間に飲まれて消えていた。
「確かに私のブルーではあなたを倒しきることは出来ないでしょう。
ですがこの通りにあなたを完封することは出来ますわ。
さあ、殺された性別を全ての民にお返しなさい。
さもなくば僅かずつとは言えこの空全域に連続でブルーを発動して
可能な限り大部分の領域を支配していきますわよ?」
それはアルクスの全身に少しずつがん細胞を生んでいくに近い所業だった。
「・・・私が言うのもなんだけどあなたって本当に悪魔みたいね。」
「早くなさい。このブルーは1度で3分しかもちませんの。
でも連続で発動できる。あなたが悩んで時間を稼げば稼ぐほど
あなたの領域は私の蒼が蝕んでいく。
どんなに蝕もうとあなたは既に生物ではない以上死ぬことはないでしょうが
しかし下手に人間の姿を残している以上苦痛は避けられませんわ。」
「・・・仕方ないね。」
アルクスが口から大量の人魂のようなものを吐き散らす。
それらが国中に広がってすべての人間に宿った。
「これで少しずつ性別が戻っていくはずだよ。
いくら私でも一気に戻すことは出来ないからね・・・。」
「それでいいですわ。」
「・・・でも、こんなことをしてどうなっても知らないよ・・・?」
「?それはどういう・・・」
直後アルクスの体が爆ぜて霧散した。
「・・・性殺女神が消滅した。
維持するためのエネルギーが消えたのだから当然でしょうが・・・。
しかし何か引っかかりますわ。一度あの子達と合流しましょう。」
キリエがブルーを解除してフェザーを
発動して旅館の方へと向かっていった。




