43話「泉湯王国(アク・サスファンテ)の死んだ日」
13:泉湯王国の死んだ日
・それは、4年前のことだった。
シキル11歳、ヒカリ8歳、ラウラ10歳はPんパ麗℃の旅館で
よく遊ぶ幼馴染だった。
この国には学校がないため大人から何でも教わると言う
かつてあった風習が未だに息していた。
だから3人は女将の妹、つまりシキルの叔母である
アルクス・SAY・或ハンバラから授業を受けていた。
教える側も教わる側も頭がいいためかこの歳で既に一流大学に
入学できるほどの知識や学習能力があった。
しかしこの国には他国程パラレルカードが馴染んでいない。
とりわけこの3人は話でしか聞いたことがなかった。
ある日、旅館の裏山にカードがあるという噂を聞いた3人は
アルクスの授業を終えてから裏山にカードを探しに行った。
一応心配になったアルクスが後から付いていったが
その日はにわか雨が降り出した。
この時代において雨というものはほとんど降らない。
一番年上だったシキルが前に1度降ったのを覚えているくらいだ。
ともあれ山の斜面は滑りやすくなり地面がぬかるみ、土砂崩れも起きやすくなっている。
そんな知識のない3人は戻るかどうか悩みながらも先に進み、
その先でついに3枚のカードを発見した。
生贄、転送、吸引の3枚だ。
他2つならともかく3人は生贄の意味を知らなかった。
ただ、みんなずっと一緒になれればそれで良かった。
そんな想いがその時、頭の中で突如存在感を示してきた。
「・・・生贄・行使」
シキルがそれを発動した。
一番大人しく冷静で、年上だったシキルが躊躇いなく。
「シキル!待って!!」
そこへアルクスが来たが間に合わずそれは発動した。
生贄。
それは発動者にとって大きな存在を生贄にして
その大きさに比例した奇跡を起こすカードであった。
「シキル・・・・あ!」
同時に土砂崩れが起きてラウラは麓の方へ流されていってしまった。
そしてサクリファイスのカードにより
その場にいた3人は1つの存在となってしまった。
「たった一つの前進が全てを揺るがす。」
声がした。人間ではない何かの声。
目を開ければシキル、ヒカリ、アルクスの3人はひとつとなり、
まるでメデューサのような姿になってしまっていた。
寿命を超え物理限界を超え触れずしてあらゆる存在から力を奪う
人工の女神・性殺女神となったのだ。
「うああ・・・・うああああああああああああああ!!!」
力を抑えきれない。少し手を動かしただけで周囲数百メートル以内にいる
全ての人間から性別を奪った。そしてそれをエネルギーに変える。
雨が止み、山からは怪物が猛スピードで飛来して
呻きながら国中の人間から性別を奪っていく。
「うううううあああああああああああ!!!」
今度は吸い取って増幅した魔力を制御できずに勝手に解き放ち、
それが大寒波を引き起こした。
「・・・はあ・・・はあ・・・」
気が付けば旅館の近くにシキルは倒れていた。
すぐ近くにヒカリも倒れていた。
だが、確かあの場にいたはずのアルクスの姿が見当たらなかった。
「・・・シキル・・・」
「アルクス・・・?どこにいるの・・・アルクス・・・!?」
「今私は性殺女神の力を一人で引き受けているの。
まだ幼いあなた達ではこれは・・・無理。
だから無理矢理引き剥がした。
・・・二人共性別を失いヒカリは記憶まで失ってしまったけれど・・・。」
「ヒカリが・・・」
「私はもう人間の姿には戻れない。
誰かの目に触れることもない。
それでも私は時折無意識に性別を殺してしまうかもしれない。
私はそう言う性殺女神と言う現象となった。
もう誰にも私は止められない。
シキル、ヒカリとラウラを連れて泉湯王国を捨てなさい。
もうあなたの性別は戻らないけれどこの死んでしまった泉の国にいては
あなた達の心まで死んでしまうわ。・・・おいきなさい、シキル。」
それ以来アルクスの声は聞こえなくなってしまった。
シキルはとりあえずヒカリを連れて旅館の中に入る。
そこでは突如として飛来した怪物に性別を殺されたことで
パニックになった旅客の大人達がいた。
男からは陰茎が消えて髭もごっそり抜け落ちた。
女からは胸が絞み髪があまり伸びなくなった。
そしてどちらも股間はわずかに尿をするための穴があるだけ。
「子供は!子供はどうなっているんだ!?」
「え・・・?」
シキルは殴り倒され服を引き裂かれ全身をくまなく触られた。
子供も性別を殺されていると言う絶望を認識できないのか
さらには自分の陰茎がなくなっていることも認識できなくなったのか
シキルは一晩中ない股間に全身をなぞられたり
殴り続けられたりを繰り返された。
糞尿は出ることが確認されたためそれを認識するまで
ひたすらシキルを文字通りの肉便器として扱ったりしていた。
「シキル!!」
三日後にラウラがやってきて糞尿と血液まみれのシキルを発見した。
既に死にかかっていた。
大人達はどこかへ行っていた。
ここへ来るまでこの国のあらゆる場所を見てきたが
どこもかしこもひどい有様だった。
国全体が狂った暴徒で溢れているような地獄絵図だった。
それから一ヶ月ほどはそういう状況が続いたが
やがて大人達は暴動を起こす気力さえ尽きてしまい
皆一様に家にひきこもるようになってしまった。
当然シキル、ラウラ、ヒカリ以外にも子供達はいた。
だが多くは暴力に耐え切れずに死んでしまった。
それ以来他国から訪問者が来ても即座に性別が奪われてしまい
この国は他国によって国交断絶状態とされてしまった。
この国で起きたことは闇に葬られ知る者はいない。
また記憶の多くを失ったヒカリは国外にいる親戚に引き取られた。
年下ということもあり記憶喪失ということもあって真実は話されなかった。
しかし流石に自分の体に疑問を抱く年頃になってからは
飽くまでも政府に知られているレベルでの真実が語られた。
そう、ヒカリが性殺女神の一部だったことを
知っているのはシキルだけであった。
自分も含めて性殺女神の一部だったことを
言ってしまえばどんなことをされるか分からなかったからだ。
だがヒカリが国外でブランチと接触してナイトメアカードの事を知り、
テレポートの他にエターナルを入手。
そして性殺女神の呪いを解くために
なるべく多くのナイトメアカードを集めることにした。
丁度同じ頃ユイムがブランチに接触して
ナイトメアカードを数枚手にしたと聞かされた。
それ以来ストーキングしていたのだが同じ条件で
正面から挑むにはユイムはあまりに強すぎた。
一度だけ練習試合をさせてもらい、
そこでナイトメアカードを奪おうとしたが
あまりの実力差に病院送りにさせられてしまった。
そんな矢先ユイムとライラの試合中に事故が起きたと聞き、
事故で負傷した状態なら勝てるかも知れないと考えたヒカリは
ストーキングを再開した。
だが、どうにも以前のユイムとは様子が違う。
記憶喪失だとは聞いていたがそれにしても別人のようだった。
そしてついにシュトラと会話しているのをステルス状態で盗聴した。
このユイムはチェンジの効果で入れ替わったライラであることが分かった。
なら今ライラでいるのが本物のユイムで
そちらにナイトメアカードがあるのだろう。
しかし旧帝都は遠い。それに仮にも男の体を得たことで
ユイムのパワーはさらに上がっていることだろう。
どうしたものかと考えていたところで地区大会の3戦目。
ライラがナイトメアカード・ビーストを発動した。
それを見てライラもナイトメアカードを持っているのだと確信した。
だからそれ以来ライラを尾行し続けてきた。
そして2週間前。
ブランチを倒すためにライラが発動した破滅のカード。
あれは今まで見たどのナイトメアカードよりも強力だった。
あの力があれば性殺女神にも勝てる。
だから病院から戻ってきたライラに接触を開始した。
スライトがどこまで応用できるのか試すためにスカイカーを破壊した。
久々に泉湯王国に戻ってきた際に
本物のユイムまで来ていたのには驚いたがちょうど良かった。
シキルから貰ったチェンジを使って
ライラの体を使ってライラをおびき寄せることには成功した。
だが、性殺女神が再び活動を再開してしまい
ライラは性別を殺されてしまった。
それ自体には何の問題もないがシキルの方は焦っていた。
やはり泉湯王国に自分達3人が揃うと
性殺女神が発動してしまう。
だからヒカリに協力してナイトメアカードを集めて
アルクスを止めようとした。が、既にアルクスの声は聞こえなくなった。
・シキルが全てを話し終えた。
「・・・以上です。ヒカリがしていたことは本人から聞いた話なので
本当に正しいかは私には保証できませんが・・・。」
「・・・・・そうですか。」
ライラが頭の中で整理をする。
「・・・アルクス・・・・?」
と、シュトラが口を開いた。
「知っているんですか?」
「・・・私に救済のカードを渡した人・・・」
「え・・・!?」
「アルクスが人間の姿に戻っていたんですか!?」
「・・・すごい綺麗な人だった。自分のことを神様だって言ってた。」
「・・・一体どういうことだろう・・・?」
「・・・ユイムさん・・・」
またシュトラはぐるぐる巻き&氷漬けになったその遺体を抱きしめた。
「・・・ならそのアルクスさんを探しましょう。
ユイムさんの件も性殺女神の件も
どちらの鍵も握っていると思われます。」
やっと目に光を取り戻しライラが立ち上がる。




