41話「走る川・死の川」
11:走る川・死の川
・午前1時。
川のせせらぎが静かに夜の帳を歌い一夜と言う子守唄を奏でる。
その川をしばらくぶりに渡るカヌー。
「・・・・・」
ライラがカヌーに乗って水路を渡っていた。
考えてみればステップで空から探すにも陸地は限られていて
完全には見渡せない。
それよりもこの国全体は一本の水路で繋がっているのだから
カヌーで渡ったほうが早い。
「・・・・集中して空気宙を漂う魔力の残滓を・・・・」
ライラ程パラレルに浸透していて魔力を操ることに長けた逸材ならば
空気宙を漂う魔力の残滓を見つけて
その発信源がどこかをある程度探ることが出来る。
ただ比較的魔力が使われることの多い都会ではそこら中から
魔力の気配がするためこの手段は使えないのだが
今この国ではカードを使うどころか外出している人物すらほとんどいない。
シュトラとケーラはきっと外に出ているだろう。
そしてもし何かあればカードを使うのは必然。
だから魔力の反応がなければ何事もないということでもある。
「・・・あ、」
だが、見たくはないものが見えた。
道に血液がこぼれていた。それもまだ新しいもの。
そしてわずかだが魔力の反応もある。
「・・・まさか出血するほどの攻撃を受けて逃げている・・・!?
急がないと・・・!」
出血の跡を追うようにカヌーを加速させた。
・運悪くライラと入れ違うようにケーラ達が旅館へ戻ってきた。
そこでケーラが今までの状況を聞く。
「・・・・なるほど。そういうことだったんですか。」
「・・・はい。
ですから性殺女神を倒すことは絶対に不可能なんです。」
シキルがすべてを告白する。
「・・・・そんな・・・・」
それを聞いたラウラは初めて表情を変えた。
まだ眠ったままのヒカリを見下ろす。
「・・・ならやっぱりこいつも殺さないと・・・」
「落ち着いてください。殺意では何も解決はしません。
・・・今はシュトラさんが
無事ユイムさんを病院まで送れるかどうか・・・。」
「・・・あれ?ケーラちゃん?」
と、そこへティラがやってきた。
寝ぼけ眼やはだけた浴衣からしてトイレに起きただけなのだろう。
「何かあった・・・?」
「・・・いえ、何でもないですよ。
少し眠れなかっただけです。ティラさんおトイレは?」
「もうしたよ~~?」
「そうですか。なら一緒に帰りましょう。」
「・・・・うん。」
まだ完全に覚醒していないからかソファで
寝そべるライラの姿には気付かなかったらしい。
「・・・分かってるとは思いますが勝手な行動はなさらないように。」
「・・・はい。」
最後にそれだけ言ってケーラはティラとともに部屋に戻った。
「・・・・。」
残されたのは眠ったままのヒカリとラウラ、シキルだけ。
「・・・ごめんなさい。もう手遅れで・・・。」
「・・・・・・・・こうなったらもう仕方ない・・・。
すぐには割り切れないけどでも、どうしようもない・・・。
まさか・・・性殺女神がもう死んでいたなんて・・・」
・国境まであと少し。
シュトラがそこでついに立ち止まってしまった。
「・・・ユイム・・・さん・・・?」
背中の鼓動が途絶えたからだ。
「ユイムさん・・・ねえ、ユイムさん・・・」
背中から下ろして必死に肩を揺さぶる。
しかし、一切の反応はなかった。
「そんなのって・・・そんなのってないですよ・・・。
私・・・どうしたらいいんですか・・・?」
涙。月のない夜にシュトラが今は違う姿の想い人に涙をこぼす。
と、足音が聞こえてきた。
「君、その子を救いたいかい?」
「・・・え・・・?」
見上げれば青年と見紛うような美しい女性が立っていた。
「君がどうしてもというのなら私が叶えてあげるよ、その願い。
ただし、対価は支払ってもらうけどね。」
「・・・あなたは・・・・」
「私の名はアルクス・SAY・或ハンバラ。一言で言うなら神様さ。」
・段々と深く濃くなっていく流血をライラが追いかけた。
「・・・・・・・・・」
当然嫌な予感しかしない。
これほどの出血、
ふたり分ならきっともう反撃できないほど弱っているだろう。
そしてもし一人分だったならその人はもう・・・。
「僕が・・・また僕が巻き込んでしまった・・・。
全部僕のせいだ・・・僕の・・・・。」
カヌーが川に流されていく。ライラはその流れに身を任せた。
すると、流れの先に何かがいた。
それは最近どこかで見たような気がする異形だった。
「・・・ブランチ・・・!」
前回見た時はミノタウルスのような外見だった。
しかし今はまるでインスマウスのようだ。
まるっきり姿形が違うというのにひと目で分かるのは
きっと自分も奴の声を聞いたからだろう。
こう思考している間にも敵影はどんどん増えていた。
まるでこの先にはいかせないようにしているかのように。
「・・・どいてもらう。ステップ・行使!」
脚力を強化してカヌーを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたカヌーが正面にいた
2体のブランチに命中してバラバラになった。
「はあああっ!!」
そして水面を走って進み増殖していくブランチを次々と蹴り砕いていく。
前にブランチと戦ったキリエやリイラ、シュトラの話から
ブランチには物理攻撃しか通用しない可能性がある。
だから自分との相性はいいはずだ。
第一今の自分は冷静ではない。
きっと今まででも上位に入るくらい焦っている。
「そこをどけぇぇぇぇーっ!!!」
だから適当に蹴散らすと進路を急いだ。
「・・・追ってこない・・・?
と言う事は阻止ではなく時間稼ぎが目的だったのか・・・?」
一度振り返って分析。既にブランチの姿はどこにもない。
そして走ること数分。国境を目前とした陸地。
そこにユイムが倒れていた。しかしヒカリの体だ。
「ヒカリさん!?どうしてここに・・・?」
傍に駆け寄る。と、出血の源がこの少女であり
そしてその生命活動が終焉しているということがひと目で分かった。
「・・・一体誰が・・・」
「それは、ヒカリ・軽井沢・SKAだよ。」
声。しかし前でも後ろでもない。
まさかと半信半疑で上を向いた。
月のない夜だったはずなのにそこには月と見紛う明るい何かがあった。
「・・・シュトラさん・・・?」
それは宙に浮かぶシュトラだった。
ただ体にはスライトを使った時の自分と同じような白い鎧と、
そして彼女を中心に12個の光弾が浮かんだ姿をしていた。
「まさか・・・ナイトメアカード・・・!?」
「ライラくん・・・・。
私のために、そしてユイムさんのために死んでくれないかな?」
「・・・どういうことですか・・・?」
「そこに倒れているの、ユイムさんなんだ。」
「え・・・?」
「ヒカリとチェンジしてそして刺されて・・・死んじゃった・・・。
でも私のこの力なら誰か一人の犠牲があればユイムさん生き返るんだよ。
だからライラくん、死んで。後その体も返して。
元々ユイムさんの体なんだから・・・。」
いつもの表情。しかしどこか硬い表情でシュトラは自分を見下ろす。
「・・・・・」
感情が邪魔をしてくる。
この状況絶対におかしい。シュトラが今持っているあの力は普通じゃない。
確実にナイトメアカードを使っているだろう。
だからこの状況は全部ブランチ
あるいはこうさせた物の思惑通りのはず。
だけど・・・。
だけど、シュトラにケーラにユイム。
沢山の人達を巻き込んでしまった自分の
至らなさがどうしても後ろ髪を引いてしまうのだ。
もう、いいではないか。
きっと今を逃せばこの3人には一生顔向けできない。
最低最悪の男として生きていくことになるだろう。
だからこの身と命を差し出した程度で
丸く収まるというのなら喜んで差し出そう。
きっとそれがいいに決まっている。
「・・・もう、いいかな。」
そして1枚のカードを出した。
「破滅・行使!!」
発動して破滅の鎧とライフルを装備した。
「・・・何のつもり?」
「確かに僕は至らない奴だよ。どうしようもないほどに愚かだ。
でもそれでも諦めちゃいけないんだ。
この体をユイムさんに本当の意味で返すまでは。
もしかしたらシュトラさんの言っていることは正しいのかもしれない。
もうそれしか方法がないのかもしれない。
・・・奇跡なんてないのかもしれない。
でも、それでも僕は破滅する!都合のいい奇跡をすべて殺して、
そしてその上でユイムさんを元に戻してみせる!
だから今はあなたを倒します。シュトラさん!」
その銃口が宙を舞うシュトラに向けられた。




