39話「死BOMB」
9:死BOMB
・客室。
痴漢騒動とライラ、シュトラが性別を殺されたことにより
完全に旅行ムードが消え去っていて生徒達は皆部屋に閉じこもっていた。
ライラとシュトラは念入りにケーラ達に体を調べられたが
胸は絞み股間はなくなっていて
完全に性別が殺されていることが確認された。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
互いに何も言えず顔を見合わせるだけだった。
その後シキルにより全員分の食事が作られたがあまり賑わいはなかった。
「・・・あれ?ヒカリちゃんは?」
「・・・そう言えば姿を見ないね。」
「・・・ねえ、ライラくん。まさか・・・」
「・・・・・・・。」
「・・?どうしたの?そんなにショックなの・・・?」
「・・・だってユイムさんの体なのに体重だけじゃなくて
こんな・・・人間じゃない体にしちゃった・・・。
もう合わせる顔がないよ・・・・。」
「・・・ライラくん・・・」
それから食事をして再び部屋に戻る。
もうあとは眠るだけだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ライラは他4人と離れて窓際の椅子に座っていた。
「・・・やっぱりショックだったのかな・・・。」
「そりゃそうだろうさ。ただ胸が絞むだけならともかく・・・」
「・・・どうにか出来ないものでしょうか・・・?」
「・・・・・・。」
シュトラもショックであることに変わりはなかった。
けど、それは自分にしかショックしていないことにショックを受けていた。
ライラは自分の体でないにせよ他人の心配しかしていない。
今まであの少年があそこまで塞ぎ込んだことがあっただろうか。
考えても見ればこの一週間だけで様々なことがありすぎた。
自分も彼も体重を失い、そして性別までもが奪われた。
さらにはユイムかもしれない少年があのようなことを・・・。
「・・・性殺女神を探そう。」
「え?」
「まだ性殺女神が何なのかさえ分かっていない。
でももしかしたらカードかも知れない。」
もしかしたらあの時の怪物・・・ブランチかもしれない。
「でも、ヒカリちゃんが言うには
次は精神を殺されるかもしれないって・・・」
「カードがあれば抵抗できるんでしょ!?
私はこのまま一生女でも男でもない姿のまま終えるなんてゴメンだわ!」
それにもしかしたらこの状態だと
ユイムとの間の子が生まれないかもしれない。
それだけじゃない。連絡が繋がらないユイムも気になる。
「・・・・・」
ちらっとライラの方を見る。
これ以上借り物の体で何か失う可能性があるなら
あの少年は動けないだろう。
だから、ここは自分が動かなければならない。
ユイムのために、ライラのために。
・夜。
そろそろ消灯時間になるというその時間にシュトラは動き出した。
体重がないということは足音もないということ。
それを利用して廊下を全力疾走する。
見回りに見つかりそうになったら天井に着地してやり過ごす。
まずはヒカリを探す。
ナイトメアカードを持っている上
この旅館に来てから姿を見ないことは怪しい。
もしかしたら得体の知れないカードで
このような事態を起こしているのかもしれない。
「・・・査・行使」
サーチのカードで旅館内の人間の位置を調べていく。
集中する上発動中は身動きがとれないためあまり多用は出来ないが
今は何かを躊躇している場合じゃない。
「・・・あれ?」
その中で妙な反応があった。
「・・・こっちかしら。」
気配を殺してその妙な反応のあった場所へ向かう。
そこはシキルの部屋だった。
当然この旅館に住んでいるためか客室とは作りが違う。
そしてこの部屋だけサーチが通用しづらかった。
「・・・なら影・行使」
今度は影のカードを使ってドアの隙間から影を室内に伸ばす。
視覚は届いていないが影を這わせることで内部の状況を把握できる。
どうやら部屋は無人のようだった。
しかし別の空間へと続く扉がある様子だった。
「・・・入ってみよう。」
影でドアの鍵を開けて中に入る。
女の子特有の可愛らしい匂いがこもった部屋だ。
ただほとんどこの部屋にいることはないのか私物は少なかった。
「・・・・・・ここか。」
布団の下。そこに隠し扉らしきものがあった。
「小!」
念のため体のサイズを10分の1にしてからその扉の向こうへ向かった。
隠し階段が広がっていてよく見えないが今のこの体なら
転ぶということがないため問題なく先に進んだ。
「・・・女の子の匂いがする。」
やがて小さな個室に到達した。
リトルを解除してから再び扉の前でシャドーを使って内部を把握する。
室内にはどうやら誰かいるらしい。
身長は140センチ程度。体の形・・・性別不明。
つまり性殺女神に性別を殺された誰かが
この部屋にはいるらしい。
ただ扉の内側を触っても鍵のようなものは見つからない。
内側には鍵がないようだ。
つまり本来この部屋は人間が入るべき部屋ではない。
「・・・閉じ込められている・・・?」
一度影を戻してから今度は外側に開いた鍵穴に影を伸ばして
何とか開けようとしてみる。
しかしカードキー式なのか上手く開けられない。
「・・・仕方ない。」
シャドーを解除して新たなカードを手にする。
「エルブレイド・・・!!」
そしてエルブレイドを使って扉をぶち割った。
「・・・あ、」
部屋の中には両手足を縛られたヒカリがいた。
「・・・シュトラ・・・」
「え、ど、どうして、どういうこと・・・!?」
「シュトラ、僕だよ!ユイムだよ!」
「え、ユイムさん!?」
「そう!この子にチェンジを使われたの!
この子はナイトメアカードを使ってる・・!僕と一緒だよ!
それにここの旅館の子もグルだよ!」
「・・・分かりました。」
とりあえずエルブレイドでユイムを縛るロープを切る。
が、そこでやっと腹部の傷が見えた。
「ゆ、ユイムさん・・・それ・・・」
「・・・だいぶ血出しちゃったからね・・・。
正直もうダメかと思ってた。シュトラありがとう・・・。」
「わ、ユイムさん!」
力尽きるようにユイムが倒れてきた。
カードの力ではこうはならないだろう。
つまり純粋に刃物で刺されたかもしれない。
だいぶ血が乾いている。
ざっと見ても2,3時間以上前には刺されているようだ。
つまり今見える出血量はそこまででもないが
現実はその何倍も出血しているかもしれないということ。
そして本来のユイムよりもさらに小柄な少女の体でこの重傷だということ。
これらを鑑みるとかなり切羽詰った状況かもしれない。
自分に治療用のカードはない。
今の自分に彼女を、何より大事な人を助けられる力はない。
そんな時、足音が聞こえてきた。
「・・・見つかった・・・!?」
ユイムを後ろ手にエルブレイドを構える。
「・・・ここまでやる人がいるなんて。」
そこへシキルとライラの姿をしたヒカリがやってきた。
「あんた達・・・!」
「大人しくしておいた方がいいんじゃない?
私にはあんた達の命を気にする必要なんてないもの。
カードで人を怪我させればすぐに見つかってしまっても
こう言う純粋な方法ならそうそう見つかることはないわ。
1000年以上昔ならともかく
現代でカードもスカイビハイクルも使わない
障害犯罪なんて滅多にないもの。
そしてこの泉湯王国では
ほとんど法治機能が機能していない。」
「・・・あんた達の目的は何・・・!?」
「性殺女神。私達にもその正体は分かっていない。
だけどナイトメアカードがあればどうにかなるかもしれない。
私の持ってるナイトメアカードじゃ種類が足りないからね。
・・・でも、ユイム・M・X是無ハルトはもうナイトメアカードを持っていなかった。
私の後にブランチからカードをもらったはずなのにね。」
「ブランチのことまで知ってるの・・・!?」
「先輩。私ナイトメアカードやブランチに
ついてはあなた方よりも先輩なんですよ?
どうやらユイムさんはナイトメアカードを手放してしまったようですが
すごく勿体無いことをしましたね。」
「・・・ふん、そのカードが7枚あれば願いが叶うとか
52枚揃えたら真の後継者にでもなれたりするというの?」
「そんなファンタジーじゃないわ。
ただ、10枚以上のナイトメアカードが
あれば出来ないことはないと言われている。
たった1枚でもナイトメアカードの威力は凄まじいものよ。
空間を無視して移動できるテレポートとか、
そもそも生物としての能力を超越できるエターナルとか。
それを集めて私は性殺女神を探して討つ。
そうすれば私の性別も元に戻るはずだから。
・・・私に逆らわないでこの部屋に居続けるなら命は保証するわ。
でも逃げようとしたら許しはしない。まずは・・・」
「ここから逃げるのが先決だな。」
「誰!?」
直後シュトラとユイムの足元に穴が開いた。
「え!?」
吸い込まれるように二人が穴の中に消えていった。
「・・・今のはまさか・・・」
急いでヒカリとシキルが地上に向かう。




