4話「パラレル交差する日・前編」
4:パラレル交差する日・前編
・ところで、ライランド・円cryンはかつてそこまで成績は悪い方ではなかった。
偏差値も60はあった。
しかしこの学校の勉強はレベルが違った。
入学条件として偏差値が70以上要求されるだけあって
授業はまるで意味がわからなかった。
幸い今はまだ記憶喪失という後ろ盾があるからそこまで問題視はされていないが明らかに危機感を覚えるレベルだった。
「……ふう、」
衝撃的すぎる午前の授業を終えて昼休み。
「ねえユイムちゃん。お昼どうする?」
「お昼……か。僕は食堂があったらいいなって……」
「じゃ、一緒しようか」
ティラとラモンと3人で食堂へと向かう。
ここの食堂はなんと無料で賄われているらしくいくらでも食べ放題だ。とは言えここは女子校。
男子ほど食べる生徒はあまり多くない。
一応元男子高校生だったライラとしては少し物足りなくなりそうだが考えるほど量は少なくなく、普通に他二人と量を合わせていたら満腹になった。
「・・・やっぱり意外と注目されてるね。」
ライラが周囲を見る。
それとなくとは言えひそひそ話がされている。
「まあ、ユイムちゃん有名人だったからね。パラレルで去年から6回連続でタイトル防衛でしょ?」
「えっと、うん。まあね。」
思わず同調してすごいと言いそうになったが喉が堪えてくれた。
前いた学校でもユイムの話になるとウズウズしてたまらなかった。
親しい友人の間では完全にユイムファンとして名が知れていた。
……その友人達はどうしているのだろうか。
自分がいないあの街はどうなっているのか。
「・・・あれ?」
無意識に視線を回していると食堂で何かを配っている女子生徒がいた。
チラシのようだった。
「ああ、ケーラちゃん。またやってるんだ」
「あれ何をしてるの?」
「部員募集だよ。パラレル部の」
「パラレル部って確かゆい……僕が昔やらかしちゃったんじゃ……」
「……そう。ほぼ全員が病院送り。
かなりトラウマになったのか一気に退部しちゃってね。今残ってるのはあたし達二人とあの子だけだよ」
つまり3人しかもう部員がいない。それではもう試合どころか存続が危うい。
「今月中にあと二人入らないと廃部になるんだって」
「これって僕がやってもいいのかな……?」
「え?」
「……やっぱ僕パラレルが好きだからさ。あんな暴れっぷりはしないから……ダメかな?」
「MM先生次第だね。あの人顧問もやってるし。
でも難しいと思うよ。言っちゃ悪いとは思うけどユイムちゃん元凶なわけだし……」
「そうだけど……」
それから手早く食事を済ませると職員室へ向かった。
「え、パラレル部に?」
「はい。……やっぱりダメでしょうか?」
「……今のあなたに言うのは筋違いかもしれないけれど、かつてあなたが何をしたか知らないわけじゃないでしょ?」
「……参考までにどうして部員ほぼ全員を半殺しに?」
「……あなた短気だから。
当時50人いた部員全員に勝てるかどうかで揉めてその結果魔力を暴走させて森1つを更地にしたのよ」
「ど、どれだけ怖い人なんですかそれは……?」
「……まあ、今のあなたなら試す価値ならありそうね。ちょうど今度の日曜日にこの街でパラレルの小さな大会があるわ。そこで誰ひとり病院送りにせずに優勝できたら入部を認めるわ」
・放課後。
早速先程チラシを配っていたケーラ・ナッ津ミLクさんを訪ねた。
「いいですか?」
「あなた……X是無ハルトさん……」
「昔僕が君達にどんなことをしてかは分からない。でも、そんな僕でも君達の力になりたいんです。
……僕じゃダメですか?」
ライラがMMとの条件などを説明する。
「・・・そう、ですか。先生がそう言うなら止める資格はありません。
でも本当に大丈夫なんですか?記憶喪失とは言え同じ人間です。
あの時いた人達はいずれもかなりの実力者でした。
そんな方々でも抵抗できないまま一方的に蹂躪され、森をも消し去る攻撃で病院送りにされました。
今のあなたにはそれをしないと断言できますか?」
「……出来ます。僕はもう誰も傷つけたりはしません。」
「……なら、」
ケーラは1枚のカードを出した。
それは広範囲を攻撃するカード・サンダーだ。
「この部屋でこれを使ってこのターゲットだけを破壊してみてください。
カードには非殺傷設定がついていますので法律には引っかかりません。
ですがこのターゲットは生半可な耐久じゃありませんので」
ケーラが自分の顔のすぐ横にターゲットを設置する。
確かにあのターゲットはかなり頑丈なタイプ。
適当な出力では例え攻撃型のカードでも破壊はできない。
しかしそのターゲットを自分の真横に置いている。
ケーラの顔から距離は50センチほど。
サンダーの出力を最大にすればターゲットは粉みじんだろう。
しかしそれだと彼女の顔もまた……。
いや、そもそもあのターゲットは非殺傷設定のカードでは破壊は不可能なのでは?
あれを破壊するとしたら殺傷可能設定にするしかない。
これはパラドックスだ。どっちを選んでも彼女の意にはそぐえない。
「……1つ質問いいですか?」
「何でしょうか?」
「使えるカードはこの1枚だけとして使えるのはこのカードだけですか?」
「どういうことですか?」
「つまりこの部屋でサンダーを使ってそのターゲットだけを破壊できるのなら
手段は選ばないということでいいですか?」
「……何をするのかわかりませんがいいですよ」
「なら、」
サンダーを発動する。
高電圧の塊がカードから発せられる。
本来ならその状態で塊を無数の電撃波にして広範囲に放つ。
が、こういう小細工は得意だ。
その電気の塊を逆に小さく凝縮させる。
そして鞄から一本の鉛筆を出してその芯の部分だけにまとわせる。
そしてその鉛筆を素早くターゲットに投げた。
「!?」
光の速さで鉛筆はターゲットに命中してターゲットは墜落。
落下と同時に鉛筆が爆発してターゲットもまた小さく爆発して炎上した。
「ウォーター」
すぐに水のカードを出して消火した。
「……今のじゃダメですか?」
「……まさか、こんなことが」
彼女は本気で驚いていた。
それもその筈ケーラの算段ではユイムは諦めるか、逆上して最大出力で放電して自分を半殺しにするかのどちらかと思っていた。しかしこんな方法は予想も出来なかった。今までこんな手段は素振りを見せたことすらなかった。
「……あなた、本当にユイム・M・X是無ハルトなのですか……?」
「……僕じゃダメですか?」
疑問は尽きない。
だが、条件は確かに満たしていた。
だからその参加を認めざるを得なかった。
・「それで、参加するつもりなわけね。……私になんの断りもなく。」
家に帰ってくるとキリエにすごい睨まれる。
「すみません……。でもユイムさんの汚名を雪ぎたいですし……」
「何のために? ただでさえあの子は大罪人。無事戻ってきたとしても無期懲役か死刑は避けられないのよ」
「……だって僕ユイムさんのこと好きですし」
「……はぁ。ですがあなたユイムと同じ風に戦うつもりですか?
それともライランド・円cryン風に戦うつもりですか?」
「それは……ユイムさんと同じように戦ってもいいのですがあの戦い方は危険なので僕のやり方じゃダメですか……?」
「怪しまれないといいですが、一応言っておけばユイムのファンもあなたのファンもいないことはないのですのよ」
「え、僕のファン!?」
「そりゃあなた故郷の国で一番強いのでしょう?
それにあの日のユイムとの試合は結果自体は事故で中断したと言う事になっていますがそもそも6冠王であるユイムとエキシビジョンとは言え戦えるのはかなり倍率が高いこと。あなた本当に今までユイムのことしか見ていなかったのですか?」
「……えっと、多分そうだと思います。僕中学1年までは苛められてて、両親も行方不明でしたし……。
それからの2年間はずっとユイムさんへの憧れだけを糧にパラレルカードに生きていましたから……」
「……妹の事とは言えむず痒いですわね。それに、正直気の毒と言うか罪悪感さえ芽生えてきますわ。あなたのその一途さには。」
「え、どうしてですか?」
「あなたがそこまで愛してくれたあの子があんな事件を起こしてたくさんの人の命を奪ってあまつさえ自分をきっと誰より見ていてくれたファンを囮に使って行方を眩ませていることに生き残った唯一の身内としては感謝と申し訳なさでいっぱいですわ……」
今ここで初めてキリエが表情を歪めた。
今にも泣きそうだった。
「……キリエさん……」
「ですがあなたの人生というものもあります。長くともこの半年はあなたの好きなように生きなさい。
その体を自由にしていいですわ。……恐らくあなたとあの子が会えるチャンスはあと1度あるかどうかですし」
「……」
やはり彼女は妹を見つけたら今度こそ始末するつもりだ。
そして、きっとそれを止めることがいま自分が生きている原動力なのだろう。
だから見つけるんだ。パラレルを通して誰よりも先に本物のユイムを。唯ひとつの夢を。




