32話「これが30世紀のスポーツ大会だ!」
2:これが30世紀のスポーツ大会だ!
・一学期終了を目前に控えた山TO氏高校。
この学校では学期の終了一日前に体育祭や音楽祭などの
イベントをやるらしく一学期ラストは体育祭が行われる。
小中高全学年が一斉に行うため軽いオリンピックのような規模だ。
「ねーねーユイムちゃんはどの種目に出るの?」
「そうですね・・・。どれも見たことないのばっかりですし・・・。」
種目は全部で60種目。
その中でかろうじて意味の分かる種目は
4000フィートフルマラソン、百十二丸フットボール、
フルコース早食い競争in1200メートル、メソポタミア式玉入れの4つだけだ。
「ティラさんとラモンさんはどの種目に参加するんですか?」
「えへへ、あたしはフルコース早食い競争in1200メートルかな?」
「旧英国のフルコースを食べてから1200走るんだ。
並大抵の胃袋じゃ競争どころじゃないだろうしね。」
「ぼ、僕にはちょっと無理かもしれません・・・。」
なんで女子校にそんなワイルドな競技があるのかは不明だが
これは避けておいたほうがいいだろう。
下手するとユイムの姿で醜いことになりかねない。
「百二十丸フットボールか。」
蹴り飛ばされると120回拡散するボールを蹴り飛ばして
より多くのボールをゴールに入れた方が勝ちという種目だ。
所謂サッカーと違うところは敵味方全員がキーパーで
且つそれぞれの側に1個ずつボールがあるということだ。
つまり一度蹴られたら最大で240個ものボールを目で追わないといけない。
「けど4000フィートとか楽そうなんだよね。」
4000フィートフルマラソンはスカイカーで高度4000フィート、約3,2キロを
42,195キロ走って競う種目だ。
つまり本人が走る必要性はない。
しかし用意された専用スカイカーは全て足こぎ式。
場合によっては競輪並に脚を使うことになる。
「でも、ステップを使えれば楽だからこれでいいか。」
「じゃ、それ私も出るから。」
と、シュトラがやってきた。
「シュトラさん?」
「ふたりっきりになれる状況じゃないと話せないこともあるからね。
この競技1~3人用だからいいじゃない。」
「は、はあ・・・。僕は全然構いませんが・・・。」
どうせ何を聞かれるかはわかりきっているし。
「・・・あれは、」
グラウンドを見る。
ケーラが走っていた。あの競技は恐らく魔障壁競争だろう。
ラモンの使う壁のカードに近い動く壁が無数に右往左往する
全長5キロのコースを走り、順位を競う競技だ。
当然普通に5キロ走るより何倍もきつい。
とにかく動く壁の移動速度が速い。
プロの選手が反復横跳びしまくっているようなスピードだ。
躓く人は最初の1枚目で躓く。
ところがケーラは完全に壁の動きを見切っているのか
速度を一切落とさぬまま走り抜けている。
まるで壁がケーラのためにタイミングよく道を開けているようだった。
「・・・相変わらず超人だなあの人は。」
シュトラも思わず苦笑いしていた。
二人が観戦しながら4000フィートマラソンの会場に向かうと、
既に参加者がいっぱいいた。
しかもほとんどが競輪部や陸上部、テコンドー部に踏絵部だった。
「・・・のんびり話してる余裕なさそうですね。」
「いいじゃない。パラレル部の2エースの力を見せてあげましょうよ。」
「・・・2エース?」
「な・に・か!?」
「あ・・・いえ、別に・・・。」
そして二人が専用スカイカーに乗り込みいよいよレースが始まった。
「シュトラさん、ダブルで行きますよ。」
「了解!」
二人で脚力強化のカードを握る。
「「ステップ・双行使!!」」
二人同時に発動して二人の脚力が強化される。
「よーい、ドン!」
号令と号砲。同時にものすごいスピードでペダルをこぎ始める。
どんどん他の選手を追い抜いていくがそれでもトップランナーの背中が見える。
「・・・カード使ってる私達相手にカード使わずに勝ってるあのメンツの
脚力どうなってるのよ!?カードの効果は最高5分しかもたないっていうのに・・・!」
「き、鍛えてるからだろうね。」
「・・・まあいいわ。それよりライラくん。」
「ユイムさんの事?」
「そうよ!未だに連絡が取れないんだけどユイムさん何してるの!?」
「い、いや、僕に言われても・・・。電話してみる?」
「え?ライラくんユイムさんの番号知ってるの!?」
「まあ、ユイムさん僕の昔使ってたP3使ってるし。」
「それ先に言いなさいよ!」
足をガンガン動かしながらライラがP3を操作する。
「あ、もしもしユイムさんですか?」
「そうだけど、どうかした?ライラくん。」
「いえ、シュトラさんが話がしたいそうなのですが。」
「シュトラが?いいよ、代わって。」
ライラがP3をシュトラに渡す。
「は、はい!あのあの!ユイムさん・・・ですか!?」
「そうだよシュトラ。久しぶりだね。」
「ユイム・・・さん・・・ぐすっ・・・ぐすっ・・・!!」
「ちょっとシュトラ!?何泣いてるのよ。」
「だってぇ・・・もう4ヶ月以上ですよ?最後に会ってから・・・。
もう私寂しくて寂しくて・・・」
「う~ん、それは僕もだけど。今この姿で会ってもねぇ・・・?
ライラくんの体だし。ヤっちゃうと子供作れちゃうよ?」
「構いません!ユイムさんとの赤ちゃん・・・えへへ・・・。」
何だかすごい会話がされているのだろうと思いながらも
敢えて聞かなかったことにするためのと足を動かし続ける努力を怠れないライラ。
「う~ん、僕一応保護観察処分中だからなぁ・・・。
なら今度ライラくんと一緒にこっちまで来てよ。
場所ならライラ君に聞いてさ。」
「はい!むしろこのまま行きたいです!」
「い、いやシュトラさん!今レース中ですから!」
「私とユイムさんの間にそんなつまらないものを巻き込まないで!」
「う、本気で怒られてる・・・」
「あははは・・・。じゃ、今度の週末にでも。
シュトラ、ライラくんに代わって。」
「はい!」
気持ち悪いほどのすっごい笑顔なシュトラがP3をライラに返す。
「はい、代わりましたよ。」
「あのね、ライラくん。1つ聞きたいんだけど。」
「何ですか?」
「・・・どうしてあの日が来るのかな?」
「あの日?・・・ってあの日ですか?」
「そう!どうして!?」
「い、いや、僕に聞かれても・・・。そういう仕組みだからなのでは?」
「・・・これには僕も驚きを隠せないよ。
まあいいや、今度この体についても教えてもらうからね。」
そして通信が途絶えた。
「ライラくん。」
「はい?」
「チェンジのカードってまだあるかな?」
「チェンジですか?ユイムさんが持ってるはずですけど
パラレルに戻ってますから元の姿には戻れませんよ?」
「見た目だけでも戻れない?」
「見た目だけでしたら平気です。チェンジって本来そういうカードですから。」
「そっかぁ~!じゃ、いよいよ本来の姿のユイムさんと・・・。」
何だかいろんなところがキュンキュンしてそうな表情だった。
と、突然スカイカーが激しく振動した。
「え、何!?」
「何かが下からぶつかりましたね・・・。魔力ダメージのようです。」
「魔力ダメージ・・・?あ、そうか!今学校じゃ超銀河ノックフライヤーやってるから
誰かが魔力ボールをここまでかっ飛ばしちゃったんじゃ・・・」
「え、地上4000フィートですよ!?」
「私達と同じようにカードを使って飛距離を伸ばしたり
腕力上げたりすればすごい人だったら届くんじゃないのかしら?
・・・それよりもこのスカイカー落ちてない?」
「・・・え!?」
窓の外。確かに景色が前後ではなく上下に変わっていた。
スカイカーはGを感じさせないための機能が付いているためか気付かなかった。
先程の衝撃でエンジンが破壊されて飛行できなくなり落下しているのだ。
「ど、どうするの!?私飛行系のカードなんて持ってないよ!?」
「・・・僕も普段使ってるスカイカーを呼ぶための
コールはルール違反になるからって更衣室の中ですし・・・。」
「テンペストの風で落下の衝撃を和らげるっていうのは・・・?」
「少し無理がありますよ・・・!でも何か方法が・・・」
懐を探る。触れるのは想い人の微かな温もりと数枚のカード。
「・・・あ。」
足元に1枚のカードが落ちた。それは破滅だった。
「・・・ライラくんが言っていたナイトメアカード・・・」
「・・・使用は厳禁って言われてました。ですが、命の危機です!
シュトラさんもユイムさんの体もここで守らないといけません。
そのためならば僕はどんなことだって破滅させられます!
だから!!破滅・行使!!」
カードを発動させる。
体操着姿のライラに漆黒の鎧が装備され右手にライフルが出現した。
全方位にジェット噴射するように過剰魔力が放たれて窓が割れる。
「・・・これが、ナイトメアカード・・・」
「まずは、」
銃口をシュトラに向けた。
「ら、ライラくん・・・・?」
迷わず発砲。銃弾がシュトラに命中し、その皮膚を突き破る。
が、貫通はせずに銃弾は彼女の体内で霧散していく。
「こ、これは・・・」
「とりあえずシュトラさんの体重を破滅させました。
これでどんなに高い場所から落ちても一切怪我しないでしょう。」
「で、でも体重がなくなったら落ちなくなるんじゃ・・・?」
「僕達が今何に乗ってるかお忘れですか?
スカイカーには重さがある。だから落ちるんです。
それでも僕達には体重がないから落下ダメージはない。
ただ移動を借りるだけです。・・・僕も。」
ライラが自らに発砲して体重をなくす。
その数秒後、スカイカーは墜落して大爆発した。
その寸前に二人が脱出して無事着地に成功した。
「・・・ライラくん。」
「はい、なんですか?」
「・・・体重戻らないんだけど。」
「・・・え?」
それに気付きスライトのカードを中断する。
しかしそれでも二人の体重は0のままだった。
「・・・まさか、スライトで破滅させた概念は戻らない・・・!?」
「そんな!?どうして気付かなかったの!?
確かユイムさんや君自身にも使ったんでしょ!?」
「・・・あの時は傷を破滅させた。
傷は戻らなくていいことだから気にしていなかった。
でも、僕は今体重という概念を壊してしまった・・・。
・・・もう、僕達の体重は戻らない・・・」
力なくその場に肩を落とし俯く二人。
それからすぐにセキュリティが来てスカイカーや二人の回収を行なった。




