22話「世界への道」
22:世界への道
・時間より速く動ける葵を相手にケーラはカードを抜いた。
「ブリザード・行使!」
最後のカード。
それが発動されると一面猛吹雪が吹き荒れる。
「ふっ、その程度なら。」
葵がタキオンの2回目の発動を念じる。
と、時間が停止する。
体感時間で3秒しか持たないがその間に距離を詰める。
3秒経過して時間が止まると同時に3回目を発動。
再び3秒間時間を止め、ケーラの懐に潜り込み
ブリザードのカードを奪う。
3回目が終わり、タキオンの効果が切れると同時に
カードが奪われたことでブリザードの効果が中断された。
が、直後葵を背中から何かが押した。
それは水だった。
「は!?」
「やはりタキオンを2回分使ったようですね。」
水に押し流される葵からカードを奪い、ブリザードを再発動。
それにより葵の体の水が一気に凍結した。
「ぐっ・・・!いつの間にクイックを・・・・!?」
「おや、知らないのですか?
どうして水を使うカードなのに全く水と関係しない名前なのか。
それはこのカードはあなたのタキオンと同様に
時間よりも’早く’発動できるからです。
あなたがタキオンで時間を操るよりも先に私はクイックを打てます。
純粋な威力はアクアとかウェーブとかのカードの方が上でしょうが
早さならどんなカードにも負けません。」
そしてケーラがポールを出す。
「お、おい、まさか・・・」
「大丈夫。ライフがあるので。」
凍って動けない葵に向けてケーラがハンマー投げの要領で
ポールを振り回す。
そして可能な限り加速した見えない鉄球が葵に叩き込まれる。
「ぐっ・・・・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
すべての氷が粉砕されライフの上から強烈なダメージが
葵を襲い、客席すら飛び越えて見事ホームラン。
「・・・少しやりすぎましたか。」
勝利のアナウンスが掛かると同時にケーラがカードを戻す。
「・・・すごい。ケーラさんあの俣野さんに勝つなんて・・・」
「そんなに凄いの?」
「そりゃそうですよ。
あの人は中学生だった頃には既に個人戦で全国に行ってるんです。
その人を相手に初戦で勝ってしまうなんて・・・。」
「ライラくんより強かったりしてね。」
「・・・僕も負けてられないな。」
「まあその前に私が勝たないとね。」
シュトラが席を立つ。
控え室を出て長い廊下を渡る。
「シュトラさん、」
逆方向から来たケーラと出くわす。
「タッチはさっきしたからいいよね。」
「ええ。頑張ってください。」
「もち。」
そのまますれ違い、シュトラが舞台に上がった。
対戦相手は珍しく女子だった。
それもかなり小柄だ。
「・・・いるもんだね。私達以外にも女子の選手が。」
「パラレルに性別は関係ありませんから。」
シュトラと対戦相手である佐野升子が言葉と視線を短く交わす。
「では、これより第四回戦を始めますっ!
山TO氏高校、シュトライクス@・イグレットワールド選手と
チーム風、佐野升子選手のシングル戦!
見合って見合って・・・試合開始っ!!」
号令と号砲。
同時にカードが宙を切る。
「そろそろ一回くらい勝っておきたい・・・!
グリップ・行使!」
握力を強化して先ほどの試合で凍った地面を
畳のように引っペがして升子に投げつける。
「ゴリラみたい。下品。」
そう言って升子はカードさえ使わずにそれを回避した。
「え・・・!?」
「身重に無理は出来ないけどあなた程度なら余裕。
ヴァジュラ・行使」
そう言ってカードから出したのは
長さも重さも軽自動車くらいありそうなマサカリだった。
しかも2本。
「っと、」
それを片手ずつでまるでお手玉でもするように
取っ替え引っ替えしながらシュトラに迫る。
「あ、あんたの方がよっぽど・・・・ぎゃああああ!!」
そして雪崩のような連続攻撃がシュトラを襲った。
「・・・へえ、」
それを全てシュトラは握力だけで受け流していた。
「だ、伊達にケーラさんの杖の舞を相手にガードの練習してないわよ・・・!
今度はこっちの番!」
その場で逆立ちし強化された握力で一気に跳躍した。
「腕でジャンプ・・・!?」
「のおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
そのままフライングダブルチョップ。
ガードに使われた升子のヴァジュラの片方を打ち砕き、
もう片方を掴んでヴァジュラごと升子を振り回す。
「ご、ゴリラ女・・・!」
「うっさい怪力チビ!!」
そしてハンマー投げのようにヴァジュラを投げ飛ばした。
が、シュトラが手を離したと同時にヴァジュラはカードに戻り
升子はシュトラの背後に立っていた。
「バラクノア・行使」
そして次なるカードを発動した。
「・・・・嘘・・・でしょ・・・・!?」
シュトラが我が目を疑う。
升子の頭上。
そこに巨大な船が浮かび上がっていた。
「よっと、」
升子が飛び乗ると船が猛スピードで向かってきた。
「さ、流石にそれはきついって・・・!」
そう言いながらも逆に突っ込んでいき、
加速しない内に両手で正面から受け止める。
が、あまりに馬力が違いすぎた。
「・・・・あ、」
トラックに撥ねられたようにシュトラの体が宙を舞った。
「くっ!」
腕から着地して衝撃を和らげる。
多分ライフがない現実だったら粉々になっていた。
「・・・ふふ、」
空高くからこちらを見下ろし小さく笑う升子。
「頭くるぅぅぅ~~~!!」
地団駄を踏むシュトラ。
やがて再び船が突進してきた。
「使うことになるとは思わなかったけど!
インフェルノ・行使!」
シュトラが次なるカードを発動する。
それにより地面から火柱が上がり、
突進する船を下から貫いた。
「どう!?」
「・・・お粗末さま。」
直後。
升子がシュトラの背後に立っていた。
そして背伸びしてその首筋を軽く掴む。
「あ・・・・」
ただそれだけでシュトラは気絶してその場に倒れた。
「あらやだ。間違えちゃった。ご苦労様だったわね。」
くすくすと笑い、勝利のアナウンスと同時に升子が踵を返した。
・控え室。
最終戦の前に壊れた舞台の応急処置作業があるため
1時間ほど休憩時間が設けられた。
まだ試合のあるライラ以外は全員昼食を取っている。
「・・・悔しい。」
シュトラがブツブツ文句を言っている。
「仕方ないですよ、あの子もかなり強い方だったから。」
「あんな小さくて小熊みたいな女の子なのに
どうしてあんなに強いのよ。
と言うかあの子肉体強化系使わずにトンはありそうな
斧振り回してなかった?」
「あの子、昔からねぼすけでいつも温室で
ゴロゴロしてたんだけどそれを悪く見た先生に
ずっとグラビティのカードでお仕置きされてたんだ。
でもすっかりグラビティの3倍重力に体が慣れちゃって・・・」
「デフォルトで怪力女になったって事・・・?」
「・・・うん、そんな感じだと思う。」
「・・・あの子野菜宇宙人か何か?」
「・・・・・・」
すると、ケーラからの視線に気付く。
「ケーラさんもお疲れ様でした。
もう実力でも僕より上なんじゃないでしょうか・・・?」
「いえ、流石にそこまでは・・ないと思いますが。」
「今度個人戦に参加してはどうでしょうか?
同じように個人戦で全国に行った俣野さんを破ったのですから
ケーラさんも全国にいけると思います。」
「・・・ユイムさん。どうしてそこまで相手チームに詳しいのですか?」
「え?」
「確かユイムさんは記憶がないはずでしょう?
あったとしても今までの公式戦の記録を見るに
ユイムさんは旧帝都までは来ていないはずですし
チーム風のメンバーとも戦っていないはずです。」
「・・・それは・・・何となくというか、
そういう記憶があるといいますか・・・」
「・・・まあ、試合前にする話でもないでしょうが・・・
いつかは話してくださいね。」
「は、はい。話せるようになりましたら必ず・・・」
相変わらず優秀な人だ。
僅かに戦いではリードしているかもしれないけれど
近い内に間違いなく抜かれてしまうだろう。
少なくとも自分は。




