17話「MMの調書」
17:MMの調書
・ユイム(ライラ)の復学から一ヶ月と半分が過ぎた。
廃部寸前であったパラレル部も5人という最低人数だが
復活して大会にまで参加して3回戦も突破した。
怪我が原因で4回戦は棄権したがそれでもかなりの好成績だ。
「・・・まさか、ここまでとは思わなかった。」
職員室。
MMがため息をつく。
どうせすぐ潰れるだろうとタカをくくってあまり顔を見せなかったが
まさかここまでうまくいっているとは思わなかった。
地区大会で優勝すればと言ったがほとんど出任せだ。
3回戦を突破した時点で全国への切符は目前。
きっと怪我がなければあの5人なら4回戦も突破して
5回戦=決勝も勝ち上がれただろう。
決勝まで進めればそのまま全国大会に参加出来る。
次の地区大会は半年後。
そして1年に2つある地区大会の優勝と準優勝の最高4校が
年末にある全国大会に参加出来る。
「あんた達個人戦は出ないの?」
月曜日。
放課後で相変わらず仲良く部活をしている5人に尋ねた。
「誰か出たい人いますか?」
「あたしは無理だよぅ~」
「私も。正直タイマンでやれるレベルじゃないよ。」
「私は出てもいいけど・・・。」
「私も参加は賛成ですが団体戦に
支障が出ては仕方ありませんので今回は・・・。」
と、5人全員が個人戦には参加しないようだった。
「そうなんだ。
・・・後、今までごめん。
みんながここまで真面目にやるとは思わなかった。
去年も同じ5人集まって練習はしても一度も大会には出なかった。
だから今度もそんな感じかと思ってた。
けど、地区大会で4回戦まで行った。
見直したよ。部費に関しては私の方から掛け合ってみる。
それと今日からはちゃんと顧問の仕事もするから。」
素直に頭を下げた。
当然何を咎めるもなくMMも加えて練習が始まった。
「ふわあ・・・」
「MM先生寝不足ですか?」
「あ、ユイムさん。そうね、以前話した親戚の弟いるじゃない?」
「え、あ、はい。」
「あの子にもまた妹みたいなのがいるんだけど
その子から昨夜遅くまで愚痴のメールが届いてね。」
「・・・・あー」
そういえば忘れかけていたけれど義妹は
タイトル戦で全国放送のあの場でキリエに容赦なく瞬殺されていた。
そりゃ愚痴の1つも言いたくなるだろう。
と言うかあの子はMMのアドレスを知っていたのか。
「兄の帰りが遅いだの
タイトルでボコボコにされたのを全国放送されただの
飽きるまで聞いてやっていたらね。
あの子も今日学校だっていうのに。」
「小学生が夜更かしはあまり褒められた話じゃありませんものね。」
「そうなのよ。・・・あれ?私あの子の年言ったっけ?」
「え、あの、僕もテレビ見てたんで・・・。」
「そう言えば話題になっていたわね。
11歳でタイトル挑戦だからね。・・・結果はあれだけど。」
「あれは僕でも理屈すら分かりませんでしたからね。
リイラが手も足も出ないのも仕方ありませんよ。」
「・・・やけにあの子のこと知ってるのね。」
「え、いや、そんなことないと思いますよ・・・?」
「でもあなたが見知らぬ女の子を呼び捨てにするなんて珍しいじゃない。
ほぼ毎日顔を合わせている部員にすら敬語だというのに。」
「い、いや、そういうわけでは・・・・」
言い訳に詰まる。
そう言えば昔からこの人に誤魔化しが通じたことがなかった。
この人に事情を話せば色々と都合がいいのかもしれないが
しかし下手に身内と言うのが曲者だ。
何となくかなり気が引ける。
と言うかやっと部活が認められたというのに
一昨日あのような事故を起こした挙句自分の正体を
話したりなんかしたら色々と面倒なことになるだろう。
結果的に岩窟景蓮にはバレてしまったが
口の硬そうな人だから言いふらそうとはしないだろう。
シュトラもちゃんと自分の事を分かってくれてるし目的は同じはずだ。
だからもうしばらくは今のままでいいのかもしれない。
キリエのあの様子からして本物のユイムはまだ見つかっていないようだし。
「ちょっと聞いてるの?」
「ユイムちゃーん、タオルとってー!」
同時にティラの声が更衣室から聞こえた。
「あ、只今ー!」
慌ててタオルを持って更衣室に向かった。
「・・・なんか怪しい。」
夜。
MMが帰宅して風呂に入りながらリイラにメールを送る。
<あんた、ユイム・M・X是無ハルトって知ってる?>
数分後。
<MMお姉ちゃん、私にその名を出さないでって言ってるでしょ!>
怒られた。
「・・・知り合いとかって言うんじゃないかぁ・・・。
一応記憶喪失だとは伝えてあるんだけどなぁ・・・。」
P3をメールモードから動画モードにして
入浴しながらドラマを見ることにした。
・数日後。
「・・・うわあ・・・」
ライラが思わず情けない声を上げた。
授業を終えて他の4人とともに部室に来ると
パラレルカードが積み込まれたダンボールが2箱置いてあった。
「お、来たね。」
MMがテーブルで何か書類を見ていた。
「MM先生、これは・・・?」
「部費が出たのよ。
とりあえず半分ほど使っていいカード補充しておいたから
見ておいてよ。」
「・・・わ、わあ、太っ腹だね・・・」
ティラが思わず苦笑いする。
ざっと見ても枚数は500枚を超える。
1枚が安くても2000円はするだろうから100万円は掛かっているはずだ。
「ど、どれくらい入ったの・・・?」
「ん?300万くらい。この学校部費の口座が独立してて
この2年間も廃部にはなってなかったからずっと入りっぱなしだったみたいね。
さ、そんなお金の話より使いたいカードを選ぶといいわ。
一応ここにリストがあるから。」
MMが自分で見ていた書類をライラに手渡す。
「あ、ありがとうございます。」
「ところで部長って誰?
昨日思わず校長にはユイムさんって言っちゃったけど。」
「え、僕が部長ですか!?」
「そう言えば決めてなかったね。」
「2年前までは先輩がやっていたけれどみんないなくなったし。」
「ユイムちゃん、やってみたらどう?」
「い、いや僕なんかよりもケーラさんがいいと思います。」
「私ですか?」
「はい、ずっとお一人で頑張っていたんです。
それにお強いですし。ダメでしょうか?」
「・・・ユイムさんがそういうのでしたら・・・。」
「じゃ、ケーラさんで決まりなのね。
そうそう、中等部からだけど入部届けが結構届いていたわ。」
「え?中等部から?」
「そう。今度の地区大会には参加できないけれど
一応学校は同じだから部活には参加できるわ。
どうする?入部許可しちゃう?」
「はい、お願いします。」
ケーラが笑顔で応える。
待ちに待った新入部員だ。
それも結構ということはそれなりの数が入ってくるということだ。
それは長年この部にいた4人だけでなく
ライラにとっても当然喜ばしいことだった。
・翌日。
20人ほどの中等部の生徒が入部してきた。
整列する20人、その前に並ぶ高等部の5人。
そして中央には部長であるケーラ。
「まずは皆さん。
入部していただき本当にありがとうございます。
部長となりましたケーラ・ナッ津ミLクです。
皆さんはまだ半年後の地区大会には参加出来ませんが
来年の大会には参加出来ます。
まだ1年間ありますがしっかり練習して
いい結果を出せるように日々頑張っていきましょう。」
挨拶が終わり頭を下げると一斉に拍手が上がった。
その拍手が止まってもケーラは頭を上げられなかった。
それから25人で練習を開始した。
今まではライラが指揮をしていたが今日からはケーラが行う。
もちろんライラも声をかけられたら手伝いをするつもりだが
ケーラ自身が優秀であり真面目であるからかあまり必要はなさそうだった。
そして新しく入ってきた20人ももちろん素人も多かったが
何人かは経験者で才能が光る子もいた。
「なら今度別の学校と交流試合を行いましょう。
公式大会じゃないから中等部の子も参加できるわ。
私がツテをあたってみるから。」
MMがすぐに手配をしてくれた。
それから、シャワー。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ライラが著しく困惑していた。
「変な気起こしたら許さないわよ。」
シュトラの言葉が刺さりながらもしかし気にしない方がおかしい。
今まで5人だけだった。
それでも見知った仲間と裸で過ごすこのひと時は慣れなかった。
だのに今度は20人もの中学生が加わったのだ。
当然全員女子であり見慣れた4人以外にも
成長途中な発達途上ボディが一縷の衣類も纏わぬ姿で
そこらじゅうをウロウロしているのだ。
きっと下半身だけでも元の姿だったらそれはもう立派な槍となっていただろう。
・「随分と楽しそうじゃない。」
帰宅後。
何やら妙に不機嫌そうなキリエに出迎えられた。
「えっとキリエさん?」
「聞いたわよ。中学生の女の子が20人も入部したんですって?
そして一緒にシャワーを浴びた、と。」
「・・・・・・・・・・・・・・・あの、下半身だけ元に戻すカードとかってないですよね・・・?」
「やっと絞り出した言葉が銃身をくれですか?
与えたらどこにどれだけ撃ち散らすか分からない人に
与えると思いまして?第一そんなエキセントリックなカードないですわ。」
「・・・ですよね。」
か・な・り不完全燃焼状態なライラが深い溜息をこぼした。