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パラレルフィスト~交差する拳~  作者: 黒主零
1章:交差する拳
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16話「姉妹」

16:姉妹


・キリエは久々の試合に臨んでいた。

一応はこの前の変装した状態でのライラ戦があったのだが

あれは目的があったとは言えほぼおふざけだ。

「・・・・・」

義手の手を握る。

感覚まで本来の腕と寸分変わりがない。

当然カードも使用できる。

「・・・・・・・」

控え室を見回す。

2年前、自分がタイトル防衛をし続けていた時と変わらない風景。

しかし、一度日常に戻れば何もかもが違う。

もし自分がバトンをユイムに渡さなければ

あの悲劇は起こらなかったかもしれない。

あの少年を巻き込んでしまうことは避けられたかもしれない。

「・・・過去を悔やんでも意味はないですわ。」

「キリエ・R・X是無ハルトさん。そろそろ出番です。」

スタッフが直接部屋まで赴きキリエを呼ぶ。

「分かりましたわ。」

今日使う10枚のカードを懐にしまい戦闘服姿のキリエが部屋を後にした。

長い廊下を渡り舞台に上る。

「皆様お待たせしました~!

これより第601回パラレルカード杯タイトルマッチを行います!!

なお諸事情によりタイトル保有者は前回まで6回連続で防衛し続けてきた

ユイム・M・X是無ハルトさんから彼女の姉であり

それ以前に3年連続で防衛し続けてきたキリエ・R・X是無ハルトさんとなります!」

歓声が湧き上がりキリエが手を振りリングの上へと上がる。

「対しまして100年以上続くX是無ハルトのタイトルを

奪うがため挑む挑戦者はなんと歴代最年少!

11歳での出場となりますリイラ・K・円cryンさんです!!」

「え・・・円cryン・・・?」

驚くキリエの前に小柄な少女が現れた。

まだあどけなさの残る顔、

とても格闘をやるようには見えない体格、

可愛らしく一本結びにした赤い髪。

「戦いが終わったら色々と聞きたいことがありますので!」

「は、はぁ・・・。」

そして何より何故か妙に気合が入っている。

「では、これより第601回タイトルマッチを行います!

お互いに構えて・・・試合開始っ!!」

号令と号砲。

同時に二人がカードを懐から取り出して発動する。

「ブルー・解放トルード!」

「アトム・行使サブマリン!」

キリエを中心に空間が青く染まっていく。

対してリイラは全身に単分子で出来た甲冑を纏った。

「行きますわよ。

蒼の戦姫と呼ばれたこの力、見せて差し上げます。」

キリエが髪をかきあげる。

と、周囲の蒼がまるで宇宙のように他の空間から明度を奪っていく。

瞬く間に視界の光がキリエとその周囲の蒼だけに吸われていく。

既に自分の手元も足元も見えなくなっているはずのリイラは、

当然のようにキリエに向かっていった。

「はああああああっ!!」

見事な縮地で一気に距離を縮めてキリエに拳を放つ。

が、その見えない拳はキリエの蒼に吸い込まれた。

「・・・!?」

「ただの体術では私に届きませんわよ。」

リイラは続けてラッシュを打ち込む。

しかし、まるでキリエが映像であるかのように全ての攻撃に手応えがない。

確かにそこに存在するはずなのにまるで当たってはくれない。

自然干渉系を完全に超越した存在・空間支配系カード。

世界に5枚あるかないかと言われているそれが今

リイラの目の前に広がっていた。

「なら・・・!ブルーム・行使サブマリン!」

リイラが2枚目のカードを行使する。

と、どこからか穏やかな風が吹いてきた。

「これは・・・眠気を誘う風のカードですわね。」

「これならどう!?」

しかし、その風は柔らかくキリエの髪を撫でるだけであった。

「そんな・・・・」

「・・・ホント二人揃っていいセンスをしているわ。」

軽くつぶやき指をパチンと鳴らす。

と、今度はリイラの姿が蒼に染まっていく。

「や・・・何これ・・・・・」

「あなたの淀み、清らかなる蒼で洗ってあげるわ。」

そしてその声を最後にリイラの意識は蒼き闇に途絶えた。


・この試合、かなり後半の方からだが見ていたライラは

思わずテレビの前にに立ち尽くしていた。

「お嬢様?」

メイドが後ろで心配そうな声を上げるが耳に残らない。

青一色だったテレビの画面がやがて通常空間に戻ると

キリエの前でリイラが倒れていた。

「何ということでしょう!

流石は若くして18回連続でタイトルを防衛した蒼の戦姫!

試合開始34秒で対戦相手を蒼の中に葬り去りました!!」

テンションの上がった実況が耳に響く。

ライラの脳裏にはただただ衝撃しかなかった。

自分の義妹がタイトルに挑戦していたのも驚きだが、

キリエのあの異常な強さにはもっと驚きだ。

空間支配系カード。

噂には聞いたことがあったがまさか

こんな身近で所持している人が居るとは思わなかった。

あれでは例え先程封印したばかりのビーストのカードを

そのまま発動したところで勝てるビジョンが見えない。

そもそもあれは恐らくほぼ全ての物理攻撃を無効にしてしまう。

破るにはカードを無効にするか純粋に膨大な魔力で打ち破るしかないだろう。

「・・・・あ、」

映像で意識を失っていたリイラが立ち上がった。

「・・・あなたのせいでお兄ちゃんは・・・」

「・・・え?」

「う、うわああああああああああああん!!!」

突然泣き出してリイラはどこかに行ってしまった。

インタビューもなくただただ呆然とした時間だけが過ぎていった。

「・・・・」

ライラはリイラのP3に連絡をしようとした。

だが、今の姿ではどうしようもない。

自分がかつて使っていたP3もあの日なくしてしまった。

せめて自分が生きていることだけでも知らせておきたかったが、

今はどうしようもない。

ようやく落ち着きを取り戻してから食卓についた。


・翌日。

早朝に目が覚めた。

「・・・・あ、」

ここ最近は大会に向けて朝練をしていたのだが

もうその必要がないという事実が後を追いかけてきた。

そして両腕の痛みもまた。

「・・・自分の体とは言えユイムさんの姿で

怪我をするのはちょっと苦しいな。」

両腕にはまだ包帯。

医療技術の発達した現代においては

車に轢かれても死なない限りは数日で完治する。

そういう特殊な材質で出来た包帯や処方箋をもらった。

しかし魔力暴走は怪我とは少しわけが違う。

カードを使うようになった人類には血管を血液の他に

魔力が流れるようになった。

それを使えば使うほど流れる魔力量も上がって行く。

しかし魔力暴走は魔力が制御出来る量を超えてしまい

血管を傷つけてしまう状態だ。

もらった薬には魔力を抑制するモノもあった。

恐らくユイム本人も常用していただろう。

しかし気になるのはこの体の血管は

以前に何度も魔力が暴走した形跡があると言う診察結果だった。

そんな過去は自分にはない。

チェンジのカードも本来ナイトメアカードの力ならまだしも

パラレルのチェンジだったら外見を真似るだけのカードのはず。

あの時、この姿になって初めて意識を取り戻した際に

持っていたチェンジのカードは確かにパラレルのチェンジだった。

それともあのメールに書かれていたパラレルをナイトメアに変える方法で

ナイトメアになったパラレルカードは使用限界を超えると

元のパラレルになってしまうのだろうか?

だとしたら辻褄が合う。

ナイトメアカードのチェンジは体質や怪我の名残と言った部分まで

真似ることが出来て限界を超えたカードは元のパラレルに戻る。

確かに魔力暴走体質と言った部分まで似せてしまうなんてことは

普通考えられないだろうからそこまでされた自分は囮にうってつけ。

「・・・ユイムさん・・・一体今何をしているんだろう・・・。」

生まれたばかりの朝焼け空を窓から眺める。


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