148話「パラレル交差する未来へ」
29:パラレル交差する未来へ
・ブランチとの戦いは終わった。
マサムネ率いる警官隊が隈なく調査したが
ブランチの生存は確認できなかった。
ただ代わりに柩のような箱が発見された。
「ブランチの残党かもしれなん。十分警戒するんだ。」
マサムネが指示を飛ばす。
10人の隊員が慎重に箱を開けていく。
と、
「・・・おいおい、」
箱の中には女性が二人眠っていた。
・病院。
ライラ達はゴールデンウィークを使って入院することになった。
パラレルの状態で天死の力を使い、
さらに3枚のナイトメアカードまで使ったことで6人の体へ強い負担がかかっていた。
「しばらくはパラレルカードは愚かまともな生活も出来そうにありませんわね。」
キリエが6人の見舞いに来た。
なお、いつの間にか剣人はいなくなっていた。
確かに一緒に病院に搬送されたのだが。
ただ、ガイアスのカードは枕の上に置いたままだった。
「言伝がある。私をパルフェの許へ返してくれと。」
「了解いたしましたわ。」
キリエがガイアスのカードを懐に入れる。
と、P3にマサムネからメールが来たので中身を確認した。
「・・・これは・・・」
キリエがまだ眠り続けているライラの顔を見た。
・三日が過ぎた。
「・・・何だかすっごい眠っていた気がする。」
ライラがやっと目を覚まし6人全員が検査を受ける。
検査の結果6人の魔力がかなり減少している事が判明した。
そしてそれはこの先回復することはないだろうとの診断だった。
特にユイムは暴走するほどの魔力もなくなった。
「・・・う~ん、僕のアイデンティティがなくなっちゃったよ。」
「これじゃチャージ2回じゃ全然足りないかも。」
「と言うより試合自体が難しいんじゃないのかな?」
「・・・かもね。」
「大丈夫です。パラレルは魔力が全てではありませんから。」
それぞれ反応を示してはいるがやはりどこか寂しい表情だった。
「ライラさん。」
「キリエさん、どうかしたんですか?」
「後で議会に同行してください。確認したいことがあるんです。」
「はい、分かりました。」
「あ、僕も行くよ。姉とは言え他の女の巣に一人で行かせられないもん。」
「・・・あなたは何と戦っているんですの。」
・政府議会。
ライラがここへ来るのは12月にチェンジを打ち消した時以来だ。
とは言えあの裁判所の法廷みたいな部屋ではなく
まるで研究所のような場所に今日は来た。
「先日、ブランチと戦ったあの森で調査部隊があるものを発見したのです。」
「あるもの?」
「ええ。柩のようなものです。
しかし中に入っていたのは遺体ではありませんでした。
二人の女性が入っていたのです。
・・・その二人をあなたに確認してもらいたいのです。」
「・・・僕にですか?」
長い廊下を歩きながら説明を受け、そして最奥部の特別室に入る。
その広い部屋には数十人ものスタッフが何かの作業をしていた。
そしてその中心にはキリエの言う柩らしきものが置いてあった。
さらに、その隣にはカプセルのようなものが2台あり、
中に一人ずつ女性が入っていた。
最初は意味が分からなかった。
こんなものを見せて自分にどうしようというのか。
しかし、カプセルの中の二人を見て顔色を変えた。
「お父さん!?お母さん!?」
走った。
タックルでもかますかのようにカプセルに走った。
カプセルの窓に手を当ててその顔をしかと見やる。
自分と大して変わらない背丈に少女じみた顔。
あの赤い天死と同じ綺麗な赤い髪。
それは間違いなくライラの父親であるハイキュリアス・円cryンだった。
そしてその隣のカプセルで眠っているのは母である霞・S・円cryンだ。
「ど、どうして僕の両親がここに!?」
「・・・やはりそうでしたか。」
後からゆっくりとX是無ハルト姉妹が歩いてきた。
「理由は分かりませんが状況からして
ブランチと何か関係があったことは間違いありません。
しかし検査の結果この二人は少なくとも5年以上は眠ったままだそうです。」
「5年以上も・・・」
「命に別条はないそうなのですがいつ意識を取り戻すかは・・・」
「・・・でも、嬉しいです。
信じてなかったわけではありませんがまさか、生きてまた会えるなんて・・・!」
涙を流し何度も何度も両親の顔を見るライラ。
やがて涙とは別にその両目を赤く染める。
緋瞳で二人の体を見やった。
それによれば二人は深い休眠状態にあった。
しかしライラの緋瞳の視線を受けた途端に様子が変わった。
脳からの電気信号が強くなり、手足に電流が走る。
血流が正常に戻り指がピクリと動く。
「・・・まさか・・・」
そして、ライラの目の前で二人は目を覚ました。
「て、天死!?あだっ!!」
ハイキュリアスが驚いたあまりキャノピーに頭をぶつけた。
「・・・・・。」
キリエが目配せをするとスタッフがカプセルを開けた。
「痛た・・・。もう、いきなり何だー?」
「あんたがおっちょこちょいなだけでしょうが。」
そうして今度こそ二人がライラの前に立った。
「・・・あんた、ひょっとしてライラ・・・?」
「はい!お母さん!お父さん!!」
「ひ、緋瞳使ってるのに喋ってる!?
えっと、ライラ?お父さん言ったよね?その目は使うなって。」
「はい。でも、もう大丈夫なんです。」
「だ、大丈夫って・・・確かに大丈夫そうだけど・・・うわっ!!」
「お父さん!!」
そのままライラは父に飛び込んだ。
「お父さん・・・お父さん・・・お父さん!!!」
「ああ~うんうん。分かった、分かったよライラ。」
まるで状況が分からないハイキュリアスだが、
とりあえず自分の胸に飛びつく娘をあやすことにした。
2時間後。
精密検査を受けて全く問題ないことが分かった二人は
X是無ハルトの家に案内された。
その間にライラは今までの5年間を両親に話した。
「うはぁ~、天死としても女の子としても受け止めてその上で
女の子と結婚して子供まで産んじゃったんだ~。
あたし完全にボロ負けじゃん・・・」
このどう見ても女子中学生にしか見えない父親は半泣きで項垂れた。
「子は親を超えるでいいじゃない。
まあ、それにしたってX是無ハルトに嫁入りしていたのは驚きだったけど。」
娘を抱きながら霞は言う。
「あ、そこのユイムさんが僕の相手です。」
「あ、どうも。ユイム・M・X是無ハルトです。」
いきなり話を振られて飲んでいたジュースを零しそうになる。
「わっ!わっ!凄いよ霞!普通に女の子だよ!」
「・・・あんたにとって私は普通の女の子じゃなかったんかい。」
霞が娘を抱いたまま夫を殴った。
その姿はどう見ても夫婦ではなく親子だった。
それからX是無ハルト邸に到着し、
食堂でシキルの作った食事をしながら事情を聴くことに。
「いやあごめんね。ひなたに全部任せちゃって。」
ハイキュリアスがたらふく食べながら言う。
「えっとひなたって・・・?」
「私のお母さん。つまり叔父さんの妹だね。」
リイラが超スピードでその母親あてに何度もメールを送っていた。
「それでお父さん。今までどうしていたんですか?」
「うん。5年前にエマを説得しに行ったの。」
「エマ?」
「さっきあんた達の話に出てきた赤い髪の天死の事だよ。」
「あ・・・」
「でも会えなくてね。途中で変な黒い奴に追われちゃって・・・」
「それってブランチでは・・・?」
「結局何も出来ないままその黒いのの中でずっと眠ってたってわけ。」
食事を済ませハイキュリアスは3人の孫を見やる。
「わおプリチー。ってかあたしこの歳でもうじいさんか!」
「えっとお父さん?色々とカオスです。」
それから一人ずつライラの彼女を紹介することに。
「ユイム・M・X是無ハルトです!レズです!」
「あーうん、何となく分かる。」
「と言うか実際に娘とヤって子供作ってるから全員レズって分かるわよね。」
「あ~、えっとそれはその・・・」
ライラ含めた関係者一同が赤面した。
「次!シュトライクス@・YM・X是無ハルトです!」
「おお、美奈萌みたいな子だね!」
「みなも?」
「いや、昔の知り合い。
でもYって事はちょっと関係あるのかな?」
「えっと、この子は円cryンにも嫁入りしてるの?」
「はい。ライラくんとも結婚してます!」
「凄いよ霞!重婚だよ!いやあ、すごいよね!」
「・・・あんたそこまでして三行半突きつけられたいのか?」
「え!?いや、そういう意味じゃナイデスヨ!?」
「あの、お父さんお母さん。
久々の再会で離婚の危機とか色々リアルで怖いのでやめてください。」
「で、来斗って子のお母さんは?」
「・・・・・私です。」
そこでやっと陰に隠れていた升子が姿を見せた。
「あれ?升子ちゃん。君もライラを貰ってくれたの?」
「いや、その、私の場合ちょっとありまして・・・」
口ごもる升子。その肩をユイムが抱いた。
「お父様?来斗くんのお母さんは升子ちゃんですけど、
お父さんは僕なんですよ?」
「・・・え!?ユイムちゃんもふたなりなの!?」
「いや?違いますよ?」
「・・・ライラ。現代って生えてない女の子同士でも出来るの?」
「いや、その、来斗に関してはちょっとワケありでして・・・」
などと久々に再会した家族の会話は日が暮れても長く続いた。