140話「泉湯王国(アク・サスファンテ)復興試合」
21:泉湯王国復興試合
・ここは泉湯王国。
ライラ達が訪れたらほぼ100%壊滅する現状唯一海に面した国である。
12月の天死襲来によって国民は全滅した。
と思われていたが週末にシキル達3人が旅館に戻ってみると
まだ数百人ほどだが生き残りがいた。
そのほとんどが未成年の学生であった。
どうやら天死の大群が押し寄せた時に学校の地下に隠れていたらしい。
政府議会からの復興支援もありあれから4ヶ月でとりあえず
生存者達の住居やライフラインの修復が行われた。
なおこの事は担当が違うためかキリエも知らなかったらしい。
「え?試合?」
部室。ライラが声を上げた。
「はい。泉湯王国での生き残ったメンバーは
ほとんどがパラレル経験者。なので復興支援試合を行うって議会から言われたんです。」
シキルが政府議会の印が刻まれた手紙を渡す。
それによれば同意次第で来週末に山TO氏パラレル部と
泉湯王国のチームの練習試合が行われるそうだ。
ルールは公式試合と同じため山TO氏側は高校生のみの出場となる。
「ラウラさんはどうしますか?」
ベンチでボーッとしているラウラ。
「・・・僕にはその試合に出る資格はないよ。
結果的に僕が天死を率いたことで泉湯王国は滅んでしまった。」
「・・・そうですか・・・」
「ラウラ・・・」
「しかしそれは無効!」
そこへヒカリが下着姿でやって来てラウラにヘッドロック。
「・・・何のつもり?」
「ラウラは私と一緒に向こうのチームに参加するんだから。」
「・・・は?」
「本当はシキルも一緒が良かったんだけど流石に素人に
いきなり試合に出てもらうのは無理だからね。
だから私とラウラの二人は泉湯王国代表の方に行くのだ。」
そして当日。
前日に帰国していたシキル達3人を除いた山TO氏のメンバーが
泉湯王国にスカイバスでやって来た。
「お前ら、何だかんだで新学年に入って初めての公式試合だ。
キリエが抜けたからって敗北は許されない。気張っていけよ。」
ミネルヴァが言い、今回の試合シフトが配られる。
タッグ戦1はティラとラモン、
タッグ戦2はライラとシュトラ、
シングル戦1はケーラ、
シングル戦2はラットン、
シングル戦3にユイムとなっていた。
「・・・何だか懐かしい構成ですね。」
「そうだね、あたし達はいつもと変わらないけど。」
「ミネルヴァ姉さまにそのような気遣いが出来るとは思いませんので
恐らく偶然このような形になったのでしょう。」
「どういうこと?」
「シングル戦1までの3戦は丁度1年前に
僕達が最初の5人で大会に参加した時と同じ構成なんです。」
「え?じゃあ、シングル2と3は?」
「2はシュトラさんが、3は僕がアンカーでした。」
「・・・5人でよくやったわね。」
今では考えられないやりくりに遠い目をするライラ達と
呆れ顔のラットンとユイム。
「意外だねライラくんはシングル戦担当だと思ってたけど。
意外とタッグ戦の方が多いんだね。」
「そう言えば・・・そうですね。
でも、中等部の皆さんが入ってからの非公式試合では
僕がシングル戦3を担当していましたよ。」
「チーム風との一回しかライラくんの出番はなかったけどね。」
会話を弾ませながら試合会場まで向かう。
泉湯王国の姿は12月に比べればまだマシなものの
国として正常かと言われればここを生きた国だとはとてもじゃないが言えない程度。
何も知らない者が見れば廃墟だと思われても仕方がないだろう。
とは言えこの4ヶ月で数千万人もの議会所属労働者によって
外見はどうあれ人が暮らせる土地には戻っている。
現に政府からの補助があったとは言え数百人ほどの生き残りは
4ヶ月をここで過ごしているのだから。
試合会場は学校の校庭だった。
とは言えパラレルでの試合に必要な最低限の設備は用意されている。
当然ギネス認定された実況アナたるDJも連れてきた。
「では!これより山TO氏高校パラレル部と
チーム泉湯王国の試合を始めたいと思います!
まずはタッグ戦1!
山TO氏高校からはティライム・KYM選手と赤羅門・ミドリュエスカラナイト選手!
チーム泉湯王国からは
マイケル・J・バウアー選手と西郷・T・ひろみ選手です!
それでは!見合って見合って・・・はじめっ!」
号令と号砲。同時に4枚のカードが宙を切る。
「壁・行使!」
素早くラモンが畳程の大きさの岩壁を召喚してそれが相手方に向かっていく。
わざわざ地面を擦りながら移動するのはティラのチャージを隠すため。
「クラッシュ・行使!」
マイケルが素早く壁を粉砕したことでティラのチャージが露見された。
「ステップ・行使!」
西郷が脚力を強化して一気にティラへと向かう。
「そのカードはもう見慣れているよ!ブレイン・行使!」
ラモンがカードの効果によりその体感時間が伸ばされて
世界がスローモーションで再生される。
それにより本来ならば目で追うのがやっとなステップで強化された西郷の動きも
簡単に捕捉出来、その進行方向に先回りする。
(足を極めて動きを封じるか・・・?
いや、下手に足に触れて数倍にも強化されたキックを受けたら
腕がちぎれ飛ぶくらいの衝撃になる。ならば・・・!)
ラモンが西郷の前に出ると懐から新たなカードを取り出し、
「サンダー・行使!」
ブレインを解除すると同時にサンダーを発動して
まっすぐ向かってきた西郷に電撃をお見舞いする。
「があああああああああああっ!!」
完全なる不意打ちを受けた西郷は防御も回避も出来ずに感電し、倒れる。
「チャージ・行使!」
同時にティラが2回目のチャージを終える。
ここであのカードを使うのは少し気が引けた。
しかし、この国は最も水が似合う国だから。
「ラモン!」
「あいよ!」
ラモンがバックスキップでティラの隣に就き手を合わせる。
「海・行使!!」
2回分のチャージと二人分の魔力を糧に甚大な瀑布が放たれる。
壁のない校庭会場のため瀑布は留まるところも知らず
対戦相手を飲み込んで校庭を小さな湖に変えてしまう。
当然ライフは作動しているため溺死することはない。
しかし広すぎるフィールドはダイダロスの威力を下げていた。
「・・・くっ・・・!」
無防備で食らったにも関わらずマイケルも西郷もまだ意識を保っていた。
水の国・泉湯王国の民だけあって
他国の人間では真似も出来ないような自然体での泳ぎで陸まで移動する。
「フィッシュ・行使!」
二人が同時に同じ2枚のカードを発動させる。
と、二人がまるで半漁人のような姿へと変貌した。
再び水の中に潜るとものすごいスピードで水中を進む。
「な、何なのあれぇぇっ!?」
「ティラ、落ち着いて!今すぐリターンを!」
「え?あ、そっか!」
「キェェェェェェェェェェィアァァァァァァァァァァッ!!」
マイケルと西郷の爪がティラとラモンに迫るその直前に。
「ダイダロス・リターン」
「へぼぁっ!!」
ダイダロスが解除され一瞬で湖は消えて元の校庭に戻る。
水中活動能力に特化した姿になるカードを使っていた二人は
突如陸地に上げられて打ち上げられた魚のようにぐったりと倒れる。
呼吸が辛い中二人がフィッシュを解除すると同時に
ティラとラモンにコブラツイストされる。
連続で呼吸器が襲われた事で呼吸が持たず抵抗すら出来ないまま
マイケルと西郷の二人は意識を失った。
「そこまで~~~~っ!!勝者は山TO氏高校の二人です!」
アナウンスが入りライフが解除される。
「さ、さすがは全国大会準優勝校。」
「遊びでやってる俺達じゃ歯が立たないな。」
「いえいえ。ダイダロスの直撃受けて気絶しないあなた方には驚かされました。」
「いや、本当に。そんな人間いるんだなと。」
4人が握手をして会場を後にする。
そしていつもよりも遥かに短い廊下。
「行きましょうか、ライラくん。」
「はい、シュトラさん。」
シュトラとライラが控え室を後にして会場へと向かう。
いつもは5分ほどかかる廊下も1分もしないでティラ&ラモンと遭遇した。
「後よろしくね。」
「改めて実力の違いを見せつけてきなさい。」
「当然!」
「頑張ります。」
4人がハイタッチ。
乾いた音が響くと互いにすれ違い、ライラとシュトラが会場に入る。