136話「怒りの日・後編」
17:怒りの日・後編
・ライラ、ラットン、民子の3人がミハエル・ロダンの居場所を目指す。
スカイカーでは気付かれてしまうためティラに要請して
超特急でスカイホースをレンタルして低空飛行で目的地を目指す。
緊急時ということもあって通常の数倍の速度まで出せる
専用のスカイホースを出してくれた。
「・・・ユイムさん・・・どうか無事でいて下さい・・・!」
ただそれだけを祈りライラが空走る馬を駆る。
やがて目的地であるロダン邸別荘が見えてきた。
「・・・まずいかもしれません。
あそこはカードの使用認可エリア外です。
よってカードは使えないと思われます。」
「そんなの関係ありませんよ!」
「いざとなったらこのホースごと突っ込んでやるわ!」
3人がロダン邸に向かう。
一方。
そのロダン邸では。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
ユイムは全裸のまま両手を鎖で繋がれていた。
「・・・くふふ。まだ屈しないのか。強くなったじゃないか。」
手前にはミハエルがいた。
その手に握っていたのは最上級の媚薬だった。
通常の人間の神経なら欠片程でも投与すれば意識が飛び
数日間は腰を動かし続ける猿と化す。
それをユイムは1カプセル丸々全て投与されていた。
上の口からは涎、
下の口からは愛液がそれぞれ水たまりが出来るほど流れていた。
「入れて欲しかったら早く言いたまえよ。
君の方から誘ってきたと言えば強姦罪は適用されない。
今まで少女ばかりを食ってきた君に男の味を、
本当のセックスというものを教えてやりたいからね。」
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
その目はとうの昔に褪せていた。
意識などもうほとんど残っていない。
それでも頭にライラとシュトラの顔が浮かぶ限り
ユイムは決してこの男に身を委ねる言葉を発するはずがなかった。
「マスター、こちらに向かってくるものがいます。」
部屋の奥に控えていた機械人形が10人やってくる。
「誰だ?」
「ライランド・円cryン、ラットン・MK・Hル卍、
民子・J・ミドリュエスカラナイトの3人です。」
「・・・キリエ・R・X是無ハルトはいないか。
よし、使用認可外におびき寄せてから丁重にもてなしてやれ。
私の私有地でならばいくらでももみ消せる。」
ミハエルが言うと10人の機械人形が出撃する。
「確かライランド・円cryンは君の新しい恋人だったかな。
そうだな、予定を変えよう。彼女の前で君を陵辱しよう。
それとも君の前で彼女を陵辱しようかな?
どっちを選べば君の姉君はX是無ハルトを手放してくれるだろうか。」
ミハエルはその屹立した己の化身を隠さぬままユイムの頬に擦り当てる。
つい口がそれを迎え入れようとしてしまう。
が、ギリギリのところで持ちこたえた。
その結果にミハエルは思いの外機嫌を損ねたのか
舌打ちの後に両手で正面からユイムの頭を押さえつけ
逃げ場をなくしてからその口へ己を突き進ませる。
その時だった。
「ユイムさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
壁をぶち破ってライラが飛来した。
「何!?」
「・・・ライラ・・・くん・・・」
「ユイムさん!!」
血だらけの足元には原型をとどめていないほど損傷したスカイホース。
そのライラの目には陵辱されかかっていたユイムの姿。
いや、角度やユイムの状態からして陵辱されたと判断してもおかしくない。
「随分と手荒な登場だ。弁え給え。」
チャックを閉めミハエルが服装を直す。
そして懐からはボウガンを出す。
そのボウガンには既に6発の毒矢が装填されていた。
二人の距離は10メートルもない。
別段射撃が得意でなくとも6発あれば十分当てられるだろう。
それに見たところライラはスカイホースで壁に突撃して
ここまでやってきたようだ。瓦礫か何かで切ったのか
その両足からは大量の出血を起こしている。
あれではボウガンの回避は愚かまっすぐここまで歩くことすら困難だろう。
それでいてその両目は自分への憎悪の色だけに燃やしているのだから
思わず邪悪な笑みがこぼれてくるのも仕方がないことだ。
しかし、ライラは懐からカードを出した。
「おいおい、ここはカードの使用認可エリア外だぞ?」
「それが・・・どうした!?ステップ・行使!」
構わず発動する。同時にカードの中のプログラムが始動して
発動の中断命令が下る。が、それより早くライラはミハエルとの距離を詰める。
「ちっ!」
一発目を発砲。
毒矢はまっすぐ放たれるがライラは既にその軌道上にはいない。
前に突き出した右腕のすぐ下にいた。
が、ステップは中断されさらに持っていたカード全てが機能停止してしまう。
しかしそれに構いはなくライラがミハエルの右腕を掴む。
「はあああああああっ!!」
腕を引きちぎらんばかりに背負い頭からミハエルを床に叩きつける。
「・・・意外とやるじゃないか・・・!」
が、ミハエルは残された左手だけで受身を取っていた。
「こう見えて私は未成年だった頃はパラレルをやっていたんだ。
それも君と同じ近接格闘タイプのね!」
ライラの手を払い体重の乗った蹴りをその腹に打ち込む。
「ぐっ・・・!!」
両足に力が入らず浮いた体重ではその威力を殺すことは出来ず
ライラの体はユイムの隣の壁に叩きつけられた。
「ライラ・・・くん・・・」
「ユイムさん・・・!僕は確かに女性を選んだのかもしれない。
でも、今日、この時ばかりは僕は愛するものを守るため、
それを穢した男を必ず粉砕するためにもう一度だけ男となります。」
血まみれの足で立ち上がりユイムを背に歩き出すライラ。
「何をブツブツ言っている!?」
ミハエルがボウガンを放つ。
2発目の毒矢はライラにまっすぐ迫った。
が、それはいとも容易く片手で受け止められ握りつぶされた。
「・・・・・・・・・・・」
ミハエルを睨むライラの目は天死と同じ緋瞳と化していた。
その腕は変貌こそしなかったが既にどの生命体の腕力をも超えていた。
「な、なんだよこの化物!!」
3発目。やはりライラに刺さる前に容易く受け止められる。
そして4発目を放つため引き金に指をかけた瞬間。
「・・・・・・・・・・・」
ライラが眼前にいた。
そしてボウガンを握るミハエルの右腕を肩口から引きちぎる。
「が・・・があああああああああああああああ!!!」
「天死でもいい、男でも構わない。
僕はユイムさんを守る。ただ、それだけのライランド・円cryンだ!!」
そして握った拳がミハエルの顔面に叩き込まれた。
「ごべぎゅぎぐあああああああああああああ!?」
一瞬でその口から砕けた歯が吐き出され歪みきった表情の
あちらこちらから血が吹き荒び不自然なほど上半身がねじれ曲がり
ミハエルの体が弾丸のように吹っ飛ぶ。
後方のいくつもの壁を粉砕し、100メートル以上離れた屋外まで飛ばされた。
「あれは・・・」
空中で機械人形と戦いながらラットンが見下ろす。
外壁の残骸の中に変形したミハエルの姿を確認した民子は
キリエに連絡。キリエを通じて警官隊が瞬く間に出撃してロダン邸に突入した。
違法に武装された機械人形は全てが専用の施設に送られる。
ミハエルは奇跡的に息の根はあったが既に人の形を留めていなかった。
ユイムも媚薬の症状が強かったが数日程度で元に戻った。
「・・・・・・」
だが、ライラは緋瞳を元に戻せなくなっていた。
猛禽類が空から獲物を狙う時のように目に見える全てのものの
動きを捉えたまま離さない狩人の目となってしまった。
これは政府議会の技術ではどうしようもなかった。
「ラウラ、どうにかならないの?」
「・・・ライラ次第だよ。
でもライラは緋瞳を、天死の力を使って生物を虐殺する喜びを
感じてしまったかもしれない。
その誘惑を断ち切って人間としての理性を保てるなら
緋瞳程度なら元に戻ると思うよ。・・・僕がもう緋瞳を出せないように。」
シキルに対してラウラが答える。
夜になった。
ライラが黙ったまま自分の部屋にいる。
あれからずっとこもったままだった。
一度はユイム達と顔を合わせたのだがその目で見た彼女達は
どうしてもその手で引き裂くたくて仕方がない対象に見えていた。
このままではこの手で守ると決めたはずのユイムを
あろう事かこの手で傷つけてしまうかも知れない。
「・・・僕は・・・どうすればいいんだろう・・・」
歪んでしまった自分の目を押しつぶさんばかりの力を込めた
両手で覆っても答えは出てこなかった。