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パラレルフィスト~交差する拳~  作者: 黒主零
5章:パラレル交差する明日へ
135/158

134話「Hル卍一家の一日」

15:Hル卍一家の一日


・X是無ハルト邸から14キロ。

駅から歩いて30分の小さなアパート。

「・・・一つ言いたいんだけど。」

「おう、なんだよ。」

ミネルヴァ、民子、ラットンが暮らす一室。

民子がコンピュータを操作しミネルヴァが筋トレをしている中

紅茶を飲みながらラットンが口を開いた。

「私、海行きたいんだけど。」

ミネルヴァがダンベルでお手玉するとその衝撃でテーブルが揺れる。

「海?海底火山エルデでの戦いに参加できなかったのがショックか?」

「いや、そういうわけじゃなくて・・・」

「ミネルヴァ様、ラットンは海に行きたいと言っているのです。

ですのでその理由としておそらくは・・・」

「・・・あ、なるほど。魚が食いたいんだな?

よし、今日はサンマの踊り食いだ。」

「・・・・・」

300キロのダンベルをペン回しの要領でクルクル回しながら

言うミネルヴァに二人はため息をついた。

「あの脳筋は放っておくとしてラットン。

あなたの悩みは分かりました。」

「・・・ミネルヴァの後だから不安なんだけど・・・」

「いえ、水着が欲しいのでしょう?

それも体の機械の部分を隠せる水着が。」

「・・・あんたすごいわね。よくそこまで・・・」

「古今東西年頃の女子が海へ行きたいと言えば

新しい水着が欲しいと相場が決まっています。

・・・どこかの脳筋はそんな年頃には春を鬻いでいましたから

分からないでしょうが。」

「そうね。今時20歳にもなっていればもう少し色気があるものを。」

「おいそこの妹ども。あまり調子に乗って姉を貶めるなよ?」

そういう今のミネルヴァは

男性用スポーツブラとボクサーパンツという姿だった。

「・・・民子、付き合ってくれる?」

「分かりました。」

「・・・お前ら頼むからそんな哀れんだ目で姉を見ないでくれ。」

それからラットンと民子は水着を選びに向かった。

まだ春先だがしかし逆に買うなら今である。

だが二人の体に合った水着を選ぶというのは中々骨が折れる。

体格という面では全く問題ない。

二人共女子高生としては何ら違和のないプロポーションだ。

だから問題なのは外見だ。

民子は首から下が、ラットンは上半身の内側が機械である。

外から見ても普通の人間と差がないようにペイントしてはあるものの

間近で見られたらもしかしたら違和感を感じられてしまうかもしれない。

その僅かな危険性が乙女心に黄信号を示しているのだ。

「あら、」

水着を吟味しているとケーラに出会った。

「お二人共も水着ですか?」

「ええ、そうよ。」

「布地の形状を吟味しているのです。」

「・・・ああ、なるほど。」

流石はケーラ。

3姉妹で一番ミネルヴァに近い思考回路だが然と乙女心は持ち合わせていた。

持つべきは脳筋な長姉ではなく確かな教育を受けた末妹である。

「ミネルヴァ姉さまは?」

「あの方がこんな場所へ来ると思いますか?」

「あのボディビルダーの事だから褌一丁で冬の海を泳ぎそうだしね。」

「・・・そこまでは・・・いや、有り得る・・・かも・・・。」

3人の脳内ではその鍛え抜かれた海の男と

大差ない素肌を冬の荒海に晒してマグロと戦う姉の姿が容易に用意された。

そして本人も拳を握りながら反論するだろうが

恐らく実際にその時になったらやるだろう。

「ケーラはどんな水着選んだの?」

「私は動きやすいスポーティなタイプを・・・」

「似合いそうだけどもっと可愛いのを選んだらどう?

せっかく姉に似ないで可愛い女の子に育ったんだから。

・・・あ、姉っていうのはミネルヴァのことね。」

「存じています。」

けろりとさも当然のように答えラットンがケーラの水着を選びなおす。

「そう言えば海行ったんでしょ?どうだった?」

「はい。まだ見ぬ強豪と戦えました。」

「・・・ダメだ、どんどんケーラまで脳筋になってきてる・・・。」

「冗談ですよ。・・・そうですね、こんなこと言うのもなんですが

あまり綺麗ではありませんでした。

それこそプールの水の方がまだ透き通っていました。」

「・・・そうなんだ。」

「はい・・・。まあ、初めて眺めたのがだいぶ潜ってからだったので

波打ち際程度でしたら問題ないと思います。

泉湯王国アク・サスファンテにもそのまま水路に使われているようでしたから。」

泉湯王国アク・サスファンテかぁ。

12月に行った時なのよね。その時は国が死んでたし。」

「・・・いいところでしたよ。

活き活きとしていたのは一週間くらいでしたが。」

去年の8月に全てが終わった後に皆で泉湯王国アク・サスファンテを満喫した時のことを思い出す。

思えば平和な泉湯王国アク・サスファンテを見たのはその時だけだった。

「・・・まだ天死ってライラ達以外にいるんだっけ?」

「12月に戦った赤い天死が生きていれば彼女が・・・。」

「どんな力を持っていたとしても一人でコネもない状態では

もう何もできないでしょう。」

「・・・ここ最近ブランチも全く姿を見せていないし

いつまでも平和が続けばいいんだけどね。」

「おや珍しい。あなたのことですから退屈を嘆くと思っていましたのに。」

「なによ、私だってちょっと機械仕掛けなだけで

普通に女子校生なのよ?いくらでもやりたいことがあるっていうのに

ブランチだの天死だのがのさばってくれていたら

出来るものも出来ないわ。」

両手に携えた水着を真剣な眼差しで吟味しながらラットンは言う。

隣にいたケーラと民子は一瞬驚いた顔をしたが

すぐに同意の念を込めて顎を上下した。

一方。

「へえ、そんなことがあったんだ。」

X是無ハルト邸。

ヒカリ、シキル、ラウラがお菓子を食べながら話を聞いている。

「ええ、あの頃は僕も体調を悪くしてしまって

あまり皆さんのお力になれなかったんですけど。」

ライラが去年の10月の、Hル卍一家についての話をしていた。

「その時に初めて憧れのユイムさんの処女を頂けたんでしょ?

もう別の意味で血を吐きたくなったんじゃないんですか?」

「え、えっと・・・それは、その・・・」

「あまり下世話な話をしてるんじゃないわよ。」

向かいのソファで升子とリイラが来斗にミルクをあげていた。

特に升子は不満そうな顔をしていた。

「ご、ごめん。リイラ、升子。」

「別にいいわよ。もうユイムで慣れたわ。」

「ライラももう父親なんだからもう少し男っぽく出来ない?」

「それは・・・」

「それはもう出来ない。」

と、ここでラウラがクッキーを食べながら口を挟む。

同時にその場にいた全員の視線がラウラに集中する。

「本人も気付いていると思うけれど

ライラ・・・先輩はもう男にはなれない。」

「どういうこと?」

「僕が天死に覚醒した姿、あの時僕は男の体になっていた。

僕と先輩は対になっている天死。

だからふたりが同じ性別になることは出来ない。

あの戦いでカードの力で僕達二人のリンクは断ち切られたけれど

僕が完全に男性の姿になったってことは

先輩は無意識の可能性もあるけど自分の意志で女性であることを選んだ。

男でも女でもない状態から自分の性別を確立させた。

・・・すぐにその体に生えた男性器がなくなるわけじゃないけれど

多分1,2年以内までにはなくなって完全に女性に戻ると思う。」

「・・・・・。」

ラウラの言葉にライラがやはりといった表情で俯く。

実を言えば最近ユイムとのセックスでも

確かに絶頂を迎えるのだが射精が弱くなって来てる気がしていた。

それどころか前まではユイムほどのテクニックの持ち主で

弄られない限りほとんど感じることがなかった女陰の方が

快感を生むようになってきていた。

とりわけユイムと寝ない日に独りでする時は

竿を掴んでいた指が自然と下の割れ目に移動するようにもなっていた。

あと、ユイムには言えないが胸も大きくなりつつあった。

それに口に出す時はもう癖で僕と呼ぶ事が主になっていたが

頭の中では自分のことをまた私と呼ぶことも増えてきた気がする。

「・・・その顔を見るに自覚はあるようだけど。」

「え、ええ・・・まあ・・・。」

「だから先輩。僕から女である事を奪ったのだから

もう少し少女としての自信を持ってもらいたい。」

「そう言われても・・・」

「とりあえずあそこで凍っている子を宥めて見たら?」

ラウラが指差すとソファでは来斗を抱いたまま升子が凍りついていた。

「ま、升子!?」

「・・・悲しみと喜びとに挟まれたショックで気絶してるわね。」

隣のリイラが彼女の眼前で手を振るうが反応がない。

慌ててライラが升子を支えに入る。

それを尻目にしながらラウラは静かに立ち上がり

ドアを開ける。と、そこにはX是無ハルト姉妹が立っていた。

「あ、」

「そういうわけだから子供がもっと欲しいなら早めにしたほうがいい。」

それだけ言って自分の部屋に戻っていった。

「・・・お姉ちゃん。」

「一応聞いておきましょう、何ですか?」

「今僕の子供何人いる?」

「・・・先月の検査では3人目が発見され試験管に移送されましたわ。

一人目はもうそろそろ産声をあげる頃合でしょうか。」

「・・・やっぱりまだ女の子同士で結婚って無理?」

「・・・近頃はブランチの被害が少ないので議会も手が空いています。

ですが早くても来年でしょう。」

「・・・そっか。」

「・・・まさかあなたなりに後悔しているんですの?」

「・・・さてね。僕そんなガラじゃないもん。」

そう言ってユイムはライラに向かって走って行き、

同時に目を覚ました升子にすごい目で睨まれた。

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