132話「エイプリルフール・前編」
13:エイプリルフール・前編
・それは3月31日。
「ねえライラくん。明日一日だけ入れ替わってみない?」
夜。ユイムが口を開いた。
「はい?攻めと受けをですか?」
「それも面白いかもしれないけどもっと面白いことだよ。」
「・・・・・へ?」
そして翌日。
「な、な、な、な、何ですってぇぇぇ~~~~~!?」
キリエがコーヒーカップを落とし派手に中身と器とを床に炸裂させる。
「だから僕達またチェンジの効果で入れ替わってしまったんですよ!」
ユイムがそれを喋る。
「ねえユイムさん?」
「え、あ、はい・・・じゃなくて、うん、そうなんだよ。」
ライラがしどろもどろに答える。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、」
キリエは椅子ごと後ろにひっくり返って気絶してしまった。
「・・・ユイムさん少しやりすぎでは?」
「たまにはいいじゃん。今日は部活でしょ?
バレるまで続けてみようよ。」
「・・・とりあえず私達にはバレてるんだけど。」
二人が話す後ろにはリイラ、升子、来斗、シキル、ヒカリ、ラウラがいた。
「相変わらず馬鹿ユイムは幼稚園並みのくだらない事しか考えられないのね。」
「えぇ~?面白いじゃん。よし、ライラくん。ここからは徹底していくよ!」
「ゆ、ユイムさ~~~ん・・・」
それから二人が制服に着替えるのだがご丁寧に互いのものを交換し、
ユイムはライラの制服でライラと同じようにしっかり全てのボタンを閉める。
対してライラはユイムの制服でユイムと同じようにボタンを
全て開けたままにする。
スカートもユイムはライラのように膝まで隠すようにして履き、
ライラはユイムのように膝上10センチのミニにする。
「あうううう~~~」
ライラは羞恥に顔を染めるが
何故かユイムは面白がって真面目に演技をしている。
「実は半年以上前から一度やってみたいって思ってたんだよね。
だから今日!この日を!どれだけ待ち望んだことか・・・!」
互いにP3や所有カードまで交換しながらユイムが熱く語る。
「でもナイトメアカードを使えって言われたら一発でバレますよ?」
「そんな状況滅多ににならないでしょ?じゃ、行ってみよ~!」
そう言って二人が家を出て学校に向かう。
「面白そうだから私も付いてってみようかな~?」
「ヒカリ、あなたは普通に部活でしょ?」
「・・・普通にあの二人と一緒に行きなよ。」
「・・・仕方ないわね。私も学校の見学に行きたいし一緒に行きましょうか。」
升子は来斗をリイラに預けヒカリと共にスカイカーで学校に向かった。
ユイムがワクワク、ライラがドキドキしながら学校に到着して部室に向かうと。
「あれ?何で入れ替わってるの?」
ティラ、ラモンに速攻でバレてしまった。
「えぇぇぇ~!?どうして直ぐに分かったの!?」
「当たり前じゃん。どんだけ付き合いあると思ってんの。」
「でも他の人なら気付かないかもね。あ、でもあの子は別かな?」
「あの子?」
ティラに指さされてユイムとライラが後ろを向く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
グリップも使っていないであろうに壁を10本指で軋ませ
ステップも使ってないであろうに床を踏み砕き、
キリッと睨んだだけで窓ガラスが泣いて
許しを請うかのように油を垂らしながら割れていく。
きっとそれはシュトライクス@・イグレットワールドで相違ないだろう。
「しゅ、シュトラ・・・?」
思わず演技を忘れてユイムが声をかける。
「・・・二人だけで随分と楽しそうに・・・くすん。」
「シュトラさん!?」
「うわああああああああああああん!!!」
そうしてシュトラは窓ガラスをアクション映画ばりに突き破って
コールしたスカイカーに空中で乗って去っていってしまった。
「・・・・・・・・・・・・後でフォローしとかないと。」
「僕としては出来れば今すぐにしておきたいのですが・・・。」
冷や汗をかきながらも二人は更衣室に向かった。
そして練習が始まった。
「また入れ替わってしまったんですか・・・?」
ケーラがジョギングしながらユイムと話す。
「はい、そうなんです。原因は何だか分からないんですけど。」
「・・・なら後で試してみましょう。」
「へ?」
トップランナーの二人。その遥か後ろ。
「大変だねぇ、ライラくんも。」
「はい・・・。ユイムさんの演技をするのは
体が覚えていたのでまだ何とかなりますけど・・・。」
「肝心のユイムの方が次々と地雷を踏んでいく危険性がある・・・か。」
ライラ、ティラ、ラモンがその後ろ姿を見ながら思惑する。
ジョギングが終わるとユイムとケーラがコートに立った。
「えっとケーラさん?何をするんでしょうか・・・?」
「私が見極めてあげましょう。レンゲル・行使」
「・・・猛烈に嫌な予感。ステップ・行使」
二人がカードを発動させる。
そしてケーラが一気に距離を詰めた。
その速度はステップを発動させたユイム以上。
「え!?」
「シュッ!」
目にも止まらぬ速さで鳩尾を肉月が穿ち、
宙に浮いたユイムの脇腹を穿って真横に吹っ飛ばす。
「ぐううううううううう・・・!!」
激しくローリングしてユイムが10メートル以上吹っ飛んだ。
(ケーラってこんなに強くなってたの・・・!?
部活に戻ってから一度も組んだことなかったから分からなかったけど、
2年前とは比べ物にならない・・・!)
「どうしました?具合でも悪いのですか?」
「だ、大丈夫・・・!」
「・・・・・」
と、ケーラの懐からフレイムのカードが落ちた。
どうやら吹っ飛ばされながらも強化されたユイムの足が
懐を掠めていてしまっていたカードが落ちてしまったようだ。
「・・・いいですよ、」
ケーラはレンゲルを振るい、そのカードをユイムの足元に飛ばす。
「・・・分かった、行くよ。」
「・・・構いません。」
ユイムがステップを解除してフレイムを手に取る。
そして一瞬ライラに目配せをする。
その視線からライラはユイムの思慮に気付いた。
(ユイムさん、本気でケーラさんと戦うつもりだ・・・!)
「フレイム・行使!!」
発動すると同時にユイムの周囲に無数の火炎弾が出現する。
それも一発一発が直径2メートルほど。
それが室内の空間を埋め尽くすほど一瞬で発生し、
次の瞬間には超スピードで発射される。
数もスピードも質量も全てが暴力的。
その異常なまでの魔力を無遠慮に使い相手の戦術を
乱暴に押しつぶす。それがユイムの本来のスタイル。
ケーラも降り注ぐ巨大な火炎弾の雨を全速力で回避していく。
いつもの彼女なら回避しながら進んで相手の懐に詰めるのだが
ほとんど前に進めていない。それほどユイムの攻撃が強すぎるのである。
ライフが掛かってるとは言え火炎弾一発一発が
小屋程度なら一瞬で消し飛ばすほどの威力だ。
(・・・やはりアレはユイムさんですね。
私も2年前から強くなったと思いたいですが
彼女の魔力はさらに鍛えられている・・・。)
火炎弾が掠めてケーラの手のレンゲルが一瞬で消し炭になると
ケーラはレンゲルを解除して意識を集中させる。
ユイムまでの距離はまだ10メートルはある。
彼女を守るように展開した火炎弾はまだ20発は残っていて
5発以下になる毎に30発ほど追加されていく。
あれだけの質量、常人なら一発つくるだけでも
激しい疲労に襲われ2発目はないだろう。
しかしユイムはこの30秒でそれを200は作っている。
それでもまだ彼女は半分も魔力を使っていない。
「!?」
放たれた6発の火炎弾を回避し終わるとまだ残っていたハズの火炎弾が
ユイムの姿とともに消えていた。
気配を探るとユイムはライラの近くにいた。
そこでカードを受け取っていた。ユイム自身が得意とする彼女自身のカードを。
「これは返すよケーラ!」
ユイムがフレイムのカードを投げると新たに1枚のカードを手に取る。
「波・行使!!」
そのカードが発動した瞬間200畳を誇るコートの内部が完全に水没した。
「・・・・くっ・・・・!」
ケーラは水中を舞っていた。
不格好ながらも水中を移動して流されていく
フレイムのカードを手に取って懐にしまう。
5秒間ほど水没状態が続くとウェーブが解除され、
一瞬で全ての水が消えてケーラが床に落下する。
「サンダー・行使!!」
続いて発動したカードにより70もの稲妻が一瞬で形成され
それが光の速さでケーラに向かって降り注ぐ。
が、
「クイック・行使!」
「え!?」
ユイムがサンダーを取り出すと同時にケーラがそれを発動していた。
それによりユイムとサンダーの間に水路が形成され
70もの稲妻は途中で軌道を変えて全てがユイムに迸った。
「ああああああああああああああああ!!!」
命中してからサンダーを解除するがそれでも凄まじい電圧がユイムを襲う。
その威力はライフの効果を上回っていき肌や服が焦げ付いていく。
「はあ・・・・はあ・・・・」
数秒後、やっと稲妻が収まりそこにはショーツ1枚姿のユイムが立っていた。
ユニフォームは完全に消し炭になっていた。
彼女自身の体も煙を放っていた。
それでもユイムは1枚のカードをその手に握っていた。
「ガイザレス・行使!」
カードから鷲の爪を象った魔力の塊が発射される。
その大きさはコート全体を覆うほどで正しく逃げ場などない。
「アトム・行使!」
発動したカードがケーラの全身を覆う鎧を生み出し
回避不能のその一撃を真っ向から受け止める。
「ぐっ・・・!!」
直撃は防がれたが威力そのものは殺しきれずケーラが後方に吹っ飛ぶ。
何とか立ち上がったケーラに2発目が迫る。
やはり回避は出来そうになくアトムに可能な限りの魔力を注いで
それを受け止めるが攻撃に込められた魔力は先ほどの数倍。
直撃する前の衝撃波の時点でアトムは砕け散り、ケーラの体が宙を舞う。
そして空中で無防備だったケーラにガイザレスの直撃が・・・。
「ストリーム・行使!!」
命中する寸前で猛烈な勢いで入室してきたミネルヴァが
カードを発動。ケーラを庇うようにガイザレスと魔力のビームがぶつかり合う。
その間にケーラを回収して衝撃から庇う。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
ミネルヴァが魔力を振り絞ることでストリームの出力も上がっていくのだが
ユイムの放った一撃はそれをも打ち破りミネルヴァの全身を穿った。
「があああああああああああっ!!」
宙を舞うミネルヴァとケーラ。
二人の体が床に叩きつけられるとユイムはカードを納める。
「はあ・・・・はあ・・・・」
全身から吹き出る魔力により最後の1枚であるショーツもゴムが
焼ききれて落ちてしまった。
「・・・お、お前ら・・・本気でやりすぎ・・・だ・・・」
言葉を吐くとミネルヴァは気絶した。
どうやらケーラも気絶しているようだった。
「・・・うん、ちょっとやりすぎた。」
裸体を隠すことなくユイムがない胸を張り満足そうに息を吐いた。